誘惑系御曹司がかかった恋の病

伊東悠香

文字の大きさ
上 下
8 / 26
2章

1話 わかりにくい人

しおりを挟む
 翌週から早速働き始めることとなり、私は緊張の面持ちで出社した。

(瑞樹さんと二人きりになることも多いんだろうけど。私、大丈夫かなぁ。いやいや、今こんなこと心配してもしょうがない! まずは元気に挨拶から)

「おはようございます!」
 
 小さな深呼吸をしてから元気よく副社長室に入ると、瑞樹さんは壁にかかった鏡を覗き込んでいた。
 長い艶のある髪を束ね、視線だけこちらに向ける。

「おはよう。時間より早いね」

 身だしなみには気をつけてきたつもりだけれど、瑞樹さんの姿を見た瞬間に怯んでしまう。

(相変わらずの美貌……なのに、素の瑞樹さんって意外と男性っぽくてドキドキするんだよね)

「お仕事の初日ですし」
「へえ。真面目なんだね」

 少し馬鹿にしたような口調で言うと、私の方を向き直る。

「出勤時間に俺がいなくても適当に仕事を始めてて。デスクはそこね」
「はい」
「部屋の中のものはP C以外は俺と共有で使ってくれていい」
「はい」
「社内の様子は後でゆっくり案内するよ」
「ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げると、瑞樹さんはおもむろに私の方へと手を差し出した。

「改めて、今日からよろしく。陽毬」
「っ!」

(いきなり下の名前で呼び捨て? まあ、嫌ではないけど)

「は、はい。よろしくお願いします」

 戸惑いつつも瑞樹さんの大きな手を握ると、思ったより温かくて鼓動が跳ねた。
 すぐに手を引こうとしたけれど、なぜか彼は力を入れてそれを阻んだ。

「あの……?」

 全身を抱きしめられたようなふんわりしたオーラを感じてさらに戸惑っていると、わざと焦らすように彼は指の先だけ触れさせて私を見る。

「指って官能的だと思わない」
「そ、うですか?」
「だってさ。感じない? こうしてるだけで」

 反応を確かめるみたいに私の手のひらから指先までを、さするように撫でた。
 全身にブワッと電気が走ったみたいになって、私は叫びそうになる声をグッと我慢した。

「くすぐったいだけです!」

 強引に手を引いて視線を上げると、彼はおかしそうにクスクスと笑う。

「いいね、その反応」
「何をされたいんですか」
「陽毬の恋愛指数を確かめてみた」
「恋愛……指数?」

 仕事中は紳士的で優しげな瑞樹さんだけれど、なぜか私を前にすると別人のように意地悪な表情をする。

(お父さんに私を押し付けられて、迷惑してるのかな)

 この不安を証明するかのように、彼はさらに辛辣な言葉を口にした。

「陽毬は恋愛指数低め。甘いムードに弱い。この前のパーティーでも思ったけど、男に対する免疫がなさすぎる」
「免疫……確かに恋愛経験は少ないですけど」

(おまけに男運も悪いですけど)

「それが何かお仕事に影響ありますか?」

 ムキになって言い返すと、瑞樹さんは涼しげな顔のまま首を傾げる。

「それは陽毬次第かな」

 真面目な話なのか、からかっているのか。
 そのポーカーフェイスからは心の中を窺うことはできない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ラグジュアリーシンデレラ

日下奈緒
恋愛
両親が亡くなった結野は、成績優秀な弟を医大に入学させる為に、Wワークしながら生活をしている。 そんなWワークの仕事先の一つは、58Fもある高層オフィスビルの清掃。 ある日、オフィスを掃除していると、社長である林人とぶつかってしまい、書類がバケツに……

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

処理中です...