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1章
1話 偶然の出会い2
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「サイズはいつもMですか?」
「はい」
「じゃあこのサイズがぴったりね」
マネキンが着ていたワンピースと同じものを私に手渡しながら、不思議なことを口にした。
「着替えの手伝いが欲しい時は女性店員を呼んでくださいね」
「は、はぁ」
あなたも女性店員では?と思ったのを見透かしたように彼女は台詞を足す。
「男の私が更衣室に入るわけにいかないでしょう?」
「おと……ええっ!?」
(男性!? いやいや、女性にしか見えないんですけど)
それでなくてもドキドキしていた鼓動が、さらに高鳴っていく。
言われてみれば、背の高さや骨格は男性的と言えなくもない。
でも、モデルさんとかはこんなスタイルをしている人が結構いるから、まさかと思ってしまった。
あんぐりしていると、彼は急に不敵な笑みを浮かべて声色を変えた。
「そういう反応、久しぶりで新鮮だな」
「!」
(本当に男性の声だ!)
急に男性的なムードを出したその人に、私は服を抱きしめながら固まってしまった。
試着室に入りかけた足も止まっている。
すると彼は訝しむようにな目をした後、挑むような表情で私の顔を覗き込んだ。
「もしかして君、本当に俺のこと知らないでここに来たの?」
「し、知りません」
ドアップでも全く崩れないその完璧な顔に息を呑みながら、私は必死で首を横に振る。
すると彼は顔を離して“ふーん“と目を細めた。
「てっきり新作目当てのファンかと思った」
「ファン?」
この人があの有名な柏木瑞樹だと知り、私はその場で腰を抜かしそうになる。
「あの、柏木瑞樹さんですか?」
「そうだよ」
「あわわわ」
専門学校時代から服飾関係の仕事には興味があって、この人の存在は知っていた。
大手ファッションブランドを多数手がけている繊維メーカー『アトランテ』の副社長でもあり、私など接点など持ちようのない雲の上の存在だ。
(瑞樹さんのブランドショップ“Diosa”だったとは!)
服に魅せられるあまり、そのショップの名前までちゃんと見ていなかった。
このブランドは海外セレブや日本の芸能人も利用することで有名なのだ。
(やっぱり私、場違いだ)
「失礼しました!」
「あ、ちょっと」
私は試着をしないままワンピースを瑞樹さんの手に返すと、ひとつ深く会釈をして逃げるようにお店を出た。
(とんでもない人に会ってしまった!)
一応服飾系の専門学校に通っていた私は、彼の作品をいくつか目にしていて、その斬新さとスタイリッシュさに毎回感心していた。
(まさか、あの柏木瑞樹さんだったとは……)
せっかく服飾系の専門学校に入ったものの、そこでは挫折の連続だった。
憧れと適職は違うみたいで、私は2年間の学校生活で早々にデザイナーへの道を諦めた。
ただ、父が美大の教授という影響で何かしら芸術に触れていたいという気持ちは今もある。
だから学校卒業後はお菓子などのパッケージをデザインする会社に入ったのだけれど、数年で体を壊して退職するという結果になってしまった。
あまり調子のいい時期とは言えないタイミングの瑞樹さんとの出会い。
「こんなどん底の時に、あんな素敵な人に会うなんて……励まされた感じだな」
ぽつりと呟くと、服を返した時に驚いた瑞樹さんの顔が思い出された。
せっかくなら試着をしてから事実を知りたかった……そんなことを思ったりした。
「サイズはいつもMですか?」
「はい」
「じゃあこのサイズがぴったりね」
マネキンが着ていたワンピースと同じものを私に手渡しながら、不思議なことを口にした。
「着替えの手伝いが欲しい時は女性店員を呼んでくださいね」
「は、はぁ」
あなたも女性店員では?と思ったのを見透かしたように彼女は台詞を足す。
「男の私が更衣室に入るわけにいかないでしょう?」
「おと……ええっ!?」
(男性!? いやいや、女性にしか見えないんですけど)
それでなくてもドキドキしていた鼓動が、さらに高鳴っていく。
言われてみれば、背の高さや骨格は男性的と言えなくもない。
でも、モデルさんとかはこんなスタイルをしている人が結構いるから、まさかと思ってしまった。
あんぐりしていると、彼は急に不敵な笑みを浮かべて声色を変えた。
「そういう反応、久しぶりで新鮮だな」
「!」
(本当に男性の声だ!)
急に男性的なムードを出したその人に、私は服を抱きしめながら固まってしまった。
試着室に入りかけた足も止まっている。
すると彼は訝しむようにな目をした後、挑むような表情で私の顔を覗き込んだ。
「もしかして君、本当に俺のこと知らないでここに来たの?」
「し、知りません」
ドアップでも全く崩れないその完璧な顔に息を呑みながら、私は必死で首を横に振る。
すると彼は顔を離して“ふーん“と目を細めた。
「てっきり新作目当てのファンかと思った」
「ファン?」
この人があの有名な柏木瑞樹だと知り、私はその場で腰を抜かしそうになる。
「あの、柏木瑞樹さんですか?」
「そうだよ」
「あわわわ」
専門学校時代から服飾関係の仕事には興味があって、この人の存在は知っていた。
大手ファッションブランドを多数手がけている繊維メーカー『アトランテ』の副社長でもあり、私など接点など持ちようのない雲の上の存在だ。
(瑞樹さんのブランドショップ“Diosa”だったとは!)
服に魅せられるあまり、そのショップの名前までちゃんと見ていなかった。
このブランドは海外セレブや日本の芸能人も利用することで有名なのだ。
(やっぱり私、場違いだ)
「失礼しました!」
「あ、ちょっと」
私は試着をしないままワンピースを瑞樹さんの手に返すと、ひとつ深く会釈をして逃げるようにお店を出た。
(とんでもない人に会ってしまった!)
一応服飾系の専門学校に通っていた私は、彼の作品をいくつか目にしていて、その斬新さとスタイリッシュさに毎回感心していた。
(まさか、あの柏木瑞樹さんだったとは……)
せっかく服飾系の専門学校に入ったものの、そこでは挫折の連続だった。
憧れと適職は違うみたいで、私は2年間の学校生活で早々にデザイナーへの道を諦めた。
ただ、父が美大の教授という影響で何かしら芸術に触れていたいという気持ちは今もある。
だから学校卒業後はお菓子などのパッケージをデザインする会社に入ったのだけれど、数年で体を壊して退職するという結果になってしまった。
あまり調子のいい時期とは言えないタイミングの瑞樹さんとの出会い。
「こんなどん底の時に、あんな素敵な人に会うなんて……励まされた感じだな」
ぽつりと呟くと、服を返した時に驚いた瑞樹さんの顔が思い出された。
せっかくなら試着をしてから事実を知りたかった……そんなことを思ったりした。
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