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ケース1 ムンハルク公爵家の御令嬢ソフィア様の場合
第10話
しおりを挟むあれぇぇぇぇぇぇぇ!?
ヘタレな殿下がソフィア嬢を無理やり引き寄せた!?
そしたらそのまま抱きしめた!?
挙句にはセリス嬢にビシッと現実を突きつけたぁ!?
おいおいおいおい!!
俺の知ってるヘタレで奥手で言いたい事もろくに言えない気弱なカイン君はどこに行ったんだぁ!?
「な・・・なんですって?」
ほら、セリス嬢が呆然としちゃってるじゃないか。
俺は知らんぞ~?
自分で放った火の後始末ぐらい自分でやってくれよな?
「言葉の通りだ。君は貴族として目に余る行動ばかりしている。まさか知らなかったとは言わせないぞ!」
「な、何を仰っているのです・・・殿下?」
「ふざけるな!君は民衆の評判はおろか、他の貴族からの評判も最悪なのだぞ!」
・・・・・・・・・知ってた。
ムンハルク公爵家の次女、つまりソフィア嬢は市中や貴族社会ではまるで聖女の様な扱いをされている。そんな聖女も最初にウチの事務所に来た時は「報復」だなんて物騒な言葉を使っていたが・・・まぁ聖女にもそういう日があるのだろう。
それに対して長女は、一体何をどうしたらこんな人間が育ってしまうのか不思議なほどのクズ女だった。
姉妹の関係を俺は詳しく無いから俺はそれについてソフィア嬢に確認はしたが、セリス嬢の人となりについては聞き出してはいない。
聞く必要がないほどに悪名高いからだ。
市民の屋台を臭いと言って破壊するわ、ぬいぐるみがブサイクだからと店を焼き討ちにするわ、冒険者を汚らわしいと言って一触即発になるわ。
あれ?セリス嬢担当の警備兵って地獄の様な労働量なのでは?
まぁ、それは就職に失敗しちゃってドンマイ!としか言えないから今はいいとして。
とにかく、俺が王城の門の前でムンハルク公爵家の馬車を見た時に絶望し掛けたのはそういうことさ。
鉢合わせたら恐ろしく面倒な事になるところだったが、幸いカイン君が相手をしてくれている。
さぁ演劇の時間だ。
俺は木役。
いや、王城の廊下に木は生えないから空気役って事にしよう。
「な、何をお戯けた事を・・・」
「戯けた事、だと?ほう。まだ自分の立場がわかっていないのか。ムンハルク家の長女は傲慢不遜だとは聞いていたが、まさか頭も悪かったとはな」
「なぁっ!?わっ、わたくしを侮辱しているのですねっ!許せませんわ!この事はお父上に報告させて頂きますわ!」
まぁ結局セリス嬢は公爵家の当主ではなく、その娘に過ぎないのだ。
だから父親である当主殿に泣きつくしかない。
そんなところへ別の声が響く。
「おぼっちゃま、こちらが御用命のものにございます」
いつの間にやら居なくなっていた老執事のグリムさんが、紙の束と数枚の丸められた羊皮紙を持ってきていた。
羊皮紙は宣誓書やら重要事項の告示書、もしくは契約書などに用いられる、要は格式高いモノを書く時に使う紙だ。
それらをグリムさんはカイン君に渡す。
「あぁ、ありがとう、じいや。よくこれが必要だって分かったね?」
「殿下の心中を察するのも執事の職務にございますから」
「助かるよじいや。じいやにはまだまだ働いてもらわないとね」
カイン君もそれを片手で持つのは疲れるのだろう。
反対の手で抱いていたソフィア嬢をそっと離す。
「はっ!?で、殿下!私は何というご無礼を!?」
呆気に取られていたソフィア嬢が我に返ってそう口にする。
「気にしないでおくれ。私がした事なのだから」
ほーう。
いい男の顔をするじゃないか、カイン君?
「しっ、しかし・・・」
うーん、それはいけないねぇソフィア嬢。
男がカッコつけてる時はそれを黙って受け取るのがベストだよ?
「いいのさ。気にしないでくれ。・・・・・・・・・それで、セリス」
カイン君はソフィア嬢からセリス嬢に目を戻す。
「この紙束達が何を指すのか分かるかい?」
俺は予想がついた。
要はツケだ。
「い、いえ・・・なんでしょうか・・・?」
愚かな娘だ。
まさか今まで市中で好き勝手やってきた罰を受ける事はないとでも思っているのかい?
物事には代償というものがあるのさ。
こういう風にね?
「これは全て、君宛の損害賠償の命令書と・・・・・・・・・貴族達による、ムンハルク公爵家から君を放逐する事を願う嘆願書だ」
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