暗香浮動 第二章

澪汰

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不確かに捧ぐ。

不確かに捧ぐ。#01

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 それから一刻程経っただろうか。徐々に発情期も治まり、二人は予め用意しておいた手拭いで身体を拭いて、着物に袖を通す。

「…………」

 千景が着替えをしている間、弥彦は何も喋らず部屋の隅の椅子に座り、床に視線を落としていた。

「……千景さん」
「何ですか」

 薄暗い部屋の中で、千景の冷たい声がよく通る。彼はそんなに大きな声で『何ですか』と、弥彦に問うたわけではない。けれど、弥彦の表情が強張るには十分だった。

「……悪かった」
「弥彦くん。それは何に対する謝罪ですか? 貴方が俺の上になった事? それとも、貴方が私を噛んだ事ですか?」

 言葉の端々から千景の苛立ちと、これは憶測だけれど、俺を自分の事情に関わらせてしまった後悔みたいなものが滲み出ているようだった。

「……っ、」

 弥彦に背を向けて、着物を着終えた千景は部屋を出て行こうとする。



 今回の事態。相手が弥彦である事は想定外だったけれど、屋敷の人間と〝番〟になってしまった場合の事は考えてあった。孕ませられる事も考えていたけれど、ルイスの話では腹の中に射精さえされなければ、発情期中であっても身籠る確率は低いらしい。今回、一度も中に出されてはいない。

(けれど……もう、ここにはいられない……)

 弥彦の匂いがいつもと違っていた理由も、諸事中に弥彦が言っていた『αになった』という理由も分からないが、全ての責任は自分にある。この体質のせいで、弥彦の――ひいては京家の未来を潰してはいけない。

 戸に手をかける。京家に囲われてから色々な事があった。陰間茶屋の出である自分にはもったいないくらい、恵まれた人生だったと心から思う。そして、ずっとひた隠しにしていた、想いも報われた。そう、ずっと一緒にはいられない。けれど、もう会う事は叶わなくても、愛する人と繋がれた、この一生消えぬ痕があれば、その思い出だけで生きて行ける。

「千景さん」

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