暗香浮動 第二章

澪汰

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瞳にただ真実を隠して、

瞳にただ真実を隠して、#02

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◇◆◇


「Oh……貴方は誰デス?」

 とある宿屋の一室。世界を巡り、時雨という癒しを求めて、久しぶりに日本に戻って来てみれば、何故か知らない男。

「時雨じゃなくて悪かったな。俺は、京弥彦。時雨とは腐れ縁だよ」
「私はルイス=レイノルズと申しマス」
「時雨から聞いてる。日本語、随分と上手いんだな。……アンタに聞きたい事があって、時雨にここの場所を聞いたんだ」

 京弥彦と名乗った男は、隠そうとはしているようだが、大分やつれて見えた。その姿が何だか哀れに思えて、無下に帰す事も躊躇われる。早く時雨に会いたいのに。日本語だって、時雨と対等に会話がしたくて必死で覚えたのだ。他の男と会話をするために覚えたわけじゃない、と心の中で毒づく。

「時雨と話をしたくて、必死に勉強しまシタから。それで、私に聞きたい事とは?」
「アンタの国で研究されている、男女以外の性別について」
「……バース性、ですカ」

 なるほど、先程のやつれた表情の正体はそれか。

「聞きたい事は山ほどあるが、とりあえず俺自身の性が知りたい」
「知ってどうするのデス?」

 知らなければ、幸せな生活を送れる事だってあるというのに。

「俺の知り合いに、男のΩがいる。俺はそいつを落としたい」
「…………」

 京弥彦――。そういえば、時雨との会話で時々その名前を聞いた事があったな、と思い出す。弟の雨月を始め、幼子にもよく好かれる、みんなの兄のような存在であり、カブキ界を担っていくに相応しい人間だと。それに、かなりの策略家だとも聞いていた。そんな人間が、私のようなしがない研究者に取繕う事もせず、たった一人の男を落としたいとこうして訪れている。なかなかに興味深い。

「正確な事は分かりませんが、私はαデス。同じαなら、匂いで分かりマス。発情期も来ないのであれば、一般的な性であるβである可能性が高いデスネ」
「…………」


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