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小さな、小さな、命の声。
小さな、小さな、命の声。#02
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「覚悟の上です」
「雨月と一緒だから、大丈夫です」
「…………」
二人の決意を確かめるように、弥彦は二人を交互に見つめる。そして――。
「はあ~……。東雲家には日頃から世話になってるしなあ。……よしっ、ここは京家が責任をもってお前ら二人を匿う。それでどうだ?」
「……い、いいんですか!?」
いくら京家とはいえ、弥彦本人が釘を刺したように、今後世間から厳しい目を向けられることになるであろう自分たちを〝匿う〟など……。
「お前さんたちは何も心配しなくていいさ。お兄さんは、腐れ縁の雨月とその家族を路頭に迷わせたくはないんだよ」
「……っ、ろ……路頭に迷うと決めつけないでいただけませんか!? ですが……その……ありがとうございます、京さん」
目頭に熱いものが込み上げてくる。蛍と二人で暮らすには、どこか遠くへ行かなければならないと思っていた。
蛍を守るため、東雲家を守るため――。
自分はどうなってもいいが、それによって誰かが傷付くのだけは嫌だった。自分のせいで、店が潰れてしまっては長年の兄の夢を壊してしまうことになる。それに、『自分がいなければ、雨月は幸せだったのに』などと蛍に思って欲しくはない。蛍と兄にだけは負担をかけないように、と毎日必死に考えていたのだ。けれど、良案は何一つ浮かんでは来なかった。だから、今回の弥彦の申し出は非常にありがたかった。完全に不安が拭えたわけではないけれど、ひとまず路頭に迷う心配はなさそうだ、と胸を撫で下ろす。
隣に寄り添う蛍の肩をそっと抱き寄せ、『蛍さん、愛していますよ』と、蛍にしか聞こえないような小さな声で愛を紡ぐ。
「……っ~~い、今言わなくたって…!」
「いいじゃないですか。…わ、私たちは〝家族〟になったんですから」
本当はもういっぱいいっぱいだったけれど、蛍にいい格好がしたくて、どうしても背伸びをしてしまう。
「蛍さんからは言っていただけないんですか。年下の私にだけ言わせて……」
「……っな!? お、オレだって……オレだって……」
「〝オレだって〟なんですか」
肩の荷が下りた際の、ほんの冗談のつもりだったのだ――。熟れた鬼灯のように顔を真っ赤にして、蛍は勢いよく立ち上がると叫ぶ。蛍をからかいすぎた、と雨月は一瞬にして後悔するが時既に遅し。
「…オレだって……オレだって……雨月の事、愛してるに決まってるだろ!?」
「お―い、そこのお二人さんさあ……そういうことは頼むから、余所でやってくれないかなあ」
「も、申し訳ございません、京さん……」
「や、弥彦さん…っ、ごめんなさい……!」
口々に謝罪を述べる二人に、弥彦は溜息を一つ吐いて笑って見せるのだった。その笑みは心から二人を祝福している半面、真っすぐな二人をどこか羨むようなそんな笑みにも見えた。
それから数か月――
二人で屋敷内の庭園をゆっくりと散歩しながら、空を見上げる。
やはり女性とは身体の造りが違うせいか、月日が経ってもお腹が目立ってくることは今のところなかった。そして、先日の定期健診の結果も良好だ。
「身体は辛くないですか?」
「うん、大丈夫! 少しくらい身体鍛えておかないと、あとで大変だって言ってたし、このくらい平気だよ」
「くれぐれも無理はしないでくださいね、もう蛍さんだけの身体じゃないんですから」
互いに繋いでいた手を解いて、蛍は雨月の前で大きく腕を広げて見せる。日の光に照らされながら、満面の笑みで自分を見つめる蛍。そのまま日の光に消えてしまうのではないか、そう錯覚させる程儚く、それでいて強く美しかった。
「雨月!」
「なんですか、蛍さん」
「あのね」
「……はい」
「大好き!」
「……私も、大好き……ですよ」
「雨月と一緒だから、大丈夫です」
「…………」
二人の決意を確かめるように、弥彦は二人を交互に見つめる。そして――。
「はあ~……。東雲家には日頃から世話になってるしなあ。……よしっ、ここは京家が責任をもってお前ら二人を匿う。それでどうだ?」
「……い、いいんですか!?」
いくら京家とはいえ、弥彦本人が釘を刺したように、今後世間から厳しい目を向けられることになるであろう自分たちを〝匿う〟など……。
「お前さんたちは何も心配しなくていいさ。お兄さんは、腐れ縁の雨月とその家族を路頭に迷わせたくはないんだよ」
「……っ、ろ……路頭に迷うと決めつけないでいただけませんか!? ですが……その……ありがとうございます、京さん」
目頭に熱いものが込み上げてくる。蛍と二人で暮らすには、どこか遠くへ行かなければならないと思っていた。
蛍を守るため、東雲家を守るため――。
自分はどうなってもいいが、それによって誰かが傷付くのだけは嫌だった。自分のせいで、店が潰れてしまっては長年の兄の夢を壊してしまうことになる。それに、『自分がいなければ、雨月は幸せだったのに』などと蛍に思って欲しくはない。蛍と兄にだけは負担をかけないように、と毎日必死に考えていたのだ。けれど、良案は何一つ浮かんでは来なかった。だから、今回の弥彦の申し出は非常にありがたかった。完全に不安が拭えたわけではないけれど、ひとまず路頭に迷う心配はなさそうだ、と胸を撫で下ろす。
隣に寄り添う蛍の肩をそっと抱き寄せ、『蛍さん、愛していますよ』と、蛍にしか聞こえないような小さな声で愛を紡ぐ。
「……っ~~い、今言わなくたって…!」
「いいじゃないですか。…わ、私たちは〝家族〟になったんですから」
本当はもういっぱいいっぱいだったけれど、蛍にいい格好がしたくて、どうしても背伸びをしてしまう。
「蛍さんからは言っていただけないんですか。年下の私にだけ言わせて……」
「……っな!? お、オレだって……オレだって……」
「〝オレだって〟なんですか」
肩の荷が下りた際の、ほんの冗談のつもりだったのだ――。熟れた鬼灯のように顔を真っ赤にして、蛍は勢いよく立ち上がると叫ぶ。蛍をからかいすぎた、と雨月は一瞬にして後悔するが時既に遅し。
「…オレだって……オレだって……雨月の事、愛してるに決まってるだろ!?」
「お―い、そこのお二人さんさあ……そういうことは頼むから、余所でやってくれないかなあ」
「も、申し訳ございません、京さん……」
「や、弥彦さん…っ、ごめんなさい……!」
口々に謝罪を述べる二人に、弥彦は溜息を一つ吐いて笑って見せるのだった。その笑みは心から二人を祝福している半面、真っすぐな二人をどこか羨むようなそんな笑みにも見えた。
それから数か月――
二人で屋敷内の庭園をゆっくりと散歩しながら、空を見上げる。
やはり女性とは身体の造りが違うせいか、月日が経ってもお腹が目立ってくることは今のところなかった。そして、先日の定期健診の結果も良好だ。
「身体は辛くないですか?」
「うん、大丈夫! 少しくらい身体鍛えておかないと、あとで大変だって言ってたし、このくらい平気だよ」
「くれぐれも無理はしないでくださいね、もう蛍さんだけの身体じゃないんですから」
互いに繋いでいた手を解いて、蛍は雨月の前で大きく腕を広げて見せる。日の光に照らされながら、満面の笑みで自分を見つめる蛍。そのまま日の光に消えてしまうのではないか、そう錯覚させる程儚く、それでいて強く美しかった。
「雨月!」
「なんですか、蛍さん」
「あのね」
「……はい」
「大好き!」
「……私も、大好き……ですよ」
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