暗香浮動 第一章

澪汰

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心を澄まして、

心を澄まして、#05

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◆◇◆


「……はぁ……ふ、っ……あぅ……ん……―ッひぅ……あ、やっ……あっ」

 少しずつ角度や体位を変えながら、蛍に負担がかからないよう強弱をつけながら律動を繰り返す。

「……水野、さん……つらくは……ないですか……?」

 蛍の額にかかった髪を除けてやりながらそう問いかける。蛍の中は想像していたよりもずっと熱くて、蛍が声を上げる度にキュッと締まる。

「……だいじょうぶ、うづきが優しくしてくれるから……」
「……そうですか?」
(本当は……もっと優しくしてあげたいんですけどね……)

 自分の中に渦巻く欲求がそれを許さない。
 腰の動きを弱めて口付けを交わす。舌を絡め取り、啄むように。

「ふぁ……ふ…っ……ああっ……ねぇ……雨月、なまえ……呼んで? ……オレの、名前……」
「……水野さん」
「ちが、う……っ……ん……あ、っ……したのなま――ひぅっ~~ッ」

 雨月の首に腕を回し、熱に浮かされ甘ったるい声音で『名前を呼んでくれ』と懇願する蛍の声が、彼自身の喘ぎ声によって途切れる。彼の大きな瞳が更に大きく見開かれ、雨月の首に回されていた腕は力が抜けてしまったのか、雨月の肩にかろうじて引っかかる程度の力で僅かに震えていた。

(……もしかして?)

 雨月は蛍と会わない間に勉強した知識を懸命に引っ張り出す。蛍とはそう年齢も違わないはずだが、自分が主導しなくてはいけない立場なのだから、全くの無知というのは雨月の矜持が許さなかった。

「……ここ、ですか……?」

 挿入したまま蛍をそっと抱き上げ、自分の上に座らせる。

「……んっんん……っ、あ……っ……これっ……おく……あた、るっ……っ。おれ……気持ちくてっ……ああっ……壊れちゃっ……ふぅ……あ、ぁっ……」

 〝いいところ〟を擦ってやると、今まで以上に中の締まりが強くなる。

「……あっ、……や……やだっ、うづ……き……そこばっか……こす……ひゃ、ぁっ……んんっ……ね、ぇ……うづ……きぃ……なまえ……よんで……うづき……ふ、んん……っ」
(名前なんて、これからいくらでも呼んでさしあげるのに)
「……けい、さん……っ……」

 名前を呼ばれた事がよっぽど嬉しかったのか、雨月が蛍の名前を呼ぶ度雨月のモノをより一層締め付ける。

「……けい……さん……っ、そんなに締め付けないで、ください……っ……そんな風にされたら……っ」

 一人だけ無様に達することだけはしたくない。蛍に、『堪え性のない奴だ』などとは絶対に思われたくなかった。けれど、そろそろ我慢の限界が近い事もまた事実だった。

「……だって……うづき、が……っ、……同じとこばっか……こするか、ら……!」
「……なっ、……けいさんだって……――っ!」

 一際大きな寒気にも似た快感が雨月の背筋を駆け抜ける。どうにか射精を耐えて、蛍の唇に貪るように口付けた。

「……ああっ……っ、オレっ……なんらきちゃうっ……うづ……き……オレ、うづきといっしょに……いっしょに……イきたいろにっ……ああっ」

 口付けの合間、快楽に顔を歪ませ、呂律の回らなくなった舌で『こわい』と雨月の背中に回している腕に力を籠める。

「……だいじょうぶ、ですよ……っ」

 震える蛍の背中をさすってやりながら、雨月は何とか答える。少しでも気を抜けば、蛍に持っていかれそうだった。
 何のためにここまで耐えてきたと思っているのだ。蛍の腰をしっかり据えて、再び律動を速める。

「……けい……さん……、すみません……っ、もう……――ッ」
「……あ……あっ、……ふかっ……は…ぁ、……うづき、うづき……っ、ふ……んぅ……っ~~!」



 行為を終えて、余韻も引いた頃。

「……痛くないですか」

 そっと労わるように、雨月は自分で付けた蛍の首元の歯形に触れる。こうして冷静になってから改めて考えてみても、あの時何故『噛みたい』と思ったのか分からなかった。

「うん、もう大丈夫だよ。それにね、オレ少し安心したっていうか……上手く言えないんだけど、雨月に噛まれた時『これでオレは雨月の物になったんだ』って、思ったんだ。だからね、安心したし嬉しかったよ?」
「――っ、あなたって人は……」
(全く、貴方には敵いませんね……)

 布団の上で二人寝転びながら、茶屋の者が迎えに来る〝 後朝きぬぎぬ〟の時刻までの残り時間――。

「……えっ! オレを買い付けたの、雨月だったの!?」

 蛍は雨月から事の真相を聞いていた。
 雨月がこのひと月、蛍の元に通って来なかったのは蛍を買い付けるためであった、と。

「……そうでなければ、私はあなたの部屋にこうして入ることは許されませんよ」

 『馬鹿ですか、あなたは』なんて最後に付け足されたけれど、そんなことより雨月が〝自分を買い付けてくれた〟という事実の方がよっぽど嬉しかった。

「……ありがと、雨月……。オレ、見世の仕組ってよく分かってない部分も多いんだけど、【買い付け】とか【身請け】とかって、他の人から『すごく高い』ってことは聞いたことあるんだ……。オレみたいな下の位のやつは分からないけど、それこそ家買えるくら「あなたが気にすることではありませんよ」」

 蛍の言葉を遮って雨月はなんでもない風に言う。それが蛍を気遣ってのことなのか、本当に『なんでもない』ことなのか、蛍には分からなかった。

「けれど……、またあなたには寂しい思いをさせてしまうかもしれませんね」
「え……?」
「……実家の家業が忙しくなってしまいそうで……。ここにはまた暫く来られなくなりそうなんです」

 露骨に寂しがる蛍を余所に、雨月は淡々と話を進めていく。

「ここには来られなくなりますが、次来られるようになるまでの代金は、見世の者に渡しておきますので安心していただいていいですよ」
「……次は……次は、いつ会えるの?」

 『実家の家業が……』と言われてしまえば、蛍にそれ以上追及する術はなかった。

「あなたの〝発作〟がまた出る頃には来られるかと」
『……お客様、そろそろお時間でございます』
 雨月が蛍にそう告げたちょうどその時、襖の外から見世の者が雨月を迎えに来た声が聞こえる。

「……っ……雨月、オレは大丈夫だから……仕事……頑張って来て……!」
「蛍さん……」

 明らかに無理をしていると分かる、笑顔を浮かべる蛍に雨月は苦笑しながら口付けを一つ落としてやる。

「……いい子にしていてくださいよ?」
「……っな!?」

 雨月にからかわれた事に反論しようとする蛍の言葉を聞くことなく、雨月は部屋を出て行く。
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