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全て忘れてしまえるものならば、
全て忘れてしまえるものならば、#02
しおりを挟む真澄は大きく息を吸って、真っ直ぐに伊吹を見据える。
「……僕に創くんは殺せない。創くんがどんなに僕に酷い事をしても、僕にとってはたった一人の弟だから。だから……だから、せめて最期まで見届けたい。伊吹くんには、酷なお願いをしてるって分かってる。だけど、それでも……っ」
「まーちゃんの気持ちは分かってるよ。だから、心配すんな」
そう言って伊吹は真澄に笑って見せる。
その後『ごめん』と伊吹の背中に縋って静かに涙を流す真澄を宥めて、二人で屋敷を抜け出す。
「…………」
「どうしたの、伊吹くん?」
「……なんでもない」
屋敷を抜け出して、街を見て回りながら夕方頃、ようやく一色家へと辿り着く。
「随分遅かったじゃない」
通された部屋には、奏と雅の姿――と、ルイスの姿もある。
「……も、申し訳ございません。僕……いえ、私が彼を「まーちゃん」」
開口一番、そう咎められた真澄は全身の血の気が引く思いで頭を下げるが、それを止めたのは伊吹だった。
「俺らの足の速さと、一般人の足の速さ一緒にしないでもらっていいすか、奏さん」
多少寄り道はしたけれど、真澄の足の速さは他の人より速かったと付け加える。
「ごめんね~。奏ったら、すぐ人の事からかうんだよね。そうしないと生きて行けない体質っていうか」
「……雅。君の中での僕の評価どうなってるの? 酷くない?」
「……あの人達は、俺らをからかって楽しんでるだけだから、まーちゃん気にすんなよ」
この二人は放っておくと永遠に話続けそうだ。真澄にそっと耳打ちして、何とか話を軌道に戻す。
「……周防創について、何か分かった事は?」
咳払いを一つして、伊吹は二人にそう問う。その問いに、周りの空気が一瞬で張り詰める。
「――両親を手にかけ、嫡子である周防真澄を軟禁し、長年辱めを受けさせた周防創の行いは、決して看過出来るものではない――って言うのが、俺達の見解だよ。伊吹からの報告と、町人たちからの情報で裏も取ったしね」
「その他にも、横領とか色々やってるみたいだけどね。そのあたりは、役所に任せようかなって」
「〝看過出来ない〟っていうのが、どういう意味かは理解してるよね」
暗に創の今後を示唆し、奏はすっと目を細め真澄を見やる。その視線をしっかりと返しながら、真澄は姿勢を正す。
その姿は、周防家の嫡子として相応しい凛とした姿だった。
「この度は、わが周防家のためにご尽力いただきました事、心よりお礼申し上げます。本来なら愚弟の不始末は、長兄である私が責任を取らねばならぬ事。今回、一色家お二方のお手を煩わせる事態となりました事、誠に申し訳ございません。愚弟の処分につきましては、如何なる処分でも受け入れる所存でございます」
二人に向かって、そうきっぱりと言い切るその言葉に迷いはないようだった。
「そう。じゃあ、決行日だけど……」
「早い方が良いかと」
家を出る時に、見慣れない浪人が数人物陰に隠れているのを伊吹は見逃さなかった。創は伊吹が真澄を抱いた事を知っていたはずだ。それでも何も言って来なかったのは、近いうちに真澄を殺す算段をしていたから――という事に他ならないのだろう。
「舐められたものだよね、俺らも」
「そうね。聞き分けの無い子には、ちょっとお仕置きが必要かもね」
決行は翌日の夕刻。周防家へ帰る際、一色家の二人とその二人の用心棒数人が同行する事となった。
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