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鮮やかと見間違える程に美しく、
鮮やかと見間違える程に美しく、#09
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◇◆◇
「まーちゃん、遊びに行こうぜ」
季節は夏のある日、伊吹が真澄の部屋を訪れて、開口一番そう言った。
「……え? 創くんが、良いって言ってくれたの?」
「いや、下りてねーよ。あの唐変木……。律儀に許可下りんの待ってたら、まーちゃん一生外出れねーよ……」
連日、創に掛け合ってくれているのだろう。伊吹の辟易した様子から、何となく二人の様子が想像出来て、思わず笑みが零れる。
「……!! まーちゃん……、今のもっかいやって!」
「えっ!? い、今のって?」
「アンタ、今笑ったろ? それ、もっかい見たい」
「そ、そんなこと……言われても」
困惑して伊吹を見つめ返して見るけれど、伊吹は期待する様な眼差しで、こちらを見つめて来るだけ。それはもう『待て』を言いつけられた犬のように。
「……ふふっ」
それが余りにも可笑しくて、耐え兼ねたように真澄は吹き出す。
「まーちゃん!!」
嬉しそうな伊吹のそんな声と共に、がばっと伊吹が抱き着いて来る。
「い、伊吹くん!? ど、どうしたの!?」
「笑ったとこ、初めて見た」
「そ、そうかな」
「おう。まーちゃん、よく笑ってっけど、そーいうんじゃなくて、本当の笑顔? つーの? そーいうの初めて、俺に見せてくれたなって」
本当に嬉しそうに、伊吹は真澄を抱き締める腕に少しだけ力を籠めた。
「……っ」
(それは、伊吹くんのおかげだよ)
「……そっか。ねえ、遊びにって何処へ行くの?」
伊吹の背中をよしよしと撫でながら、真澄は気になっていた事を聞いてみる。
「花火。まーちゃんこの前、瓦版食い入るように見てたっしょ」
少し名残惜しそうに、互いの身体を離しながら『見抜かれてたか』と、真澄は照れ臭そうに目を逸らす。
「て事で、今から行くぞ」
「い、今から!?」
「花火、今日だかんな」
「で、でも……創くんの許可が……」
「抜け道、見つけた」
悪戯を考え付いた童子の様な、伊吹の顔。
それから、屋敷の人間に見付からない様に、出来るだけ物音を立てずに、久しぶりに余所行きの着物に着替え、同じく着替えを済ませた伊吹の後を着いて、屋敷の外に出た。
伊吹に、もう大丈夫だと言われるまで、心臓がどくどくと鳴っていた。日が暮れてからの外出も、屋敷から抜け出すのも初めての事だった。
◇◆◇
「伊吹くんっ、あれは何?」
「……ちょっ、まーちゃん……落ち着けって。あんま着物引っ張んなって……」
目に映る物全てが新鮮なのだろう。次から次へと『あれは何?』『これは何?』と、子供の様に目を輝かせている。少しでも目を離せば、あっという間に迷子になってしまいそうだ。
「そんな焦んなくても、全部買ってやっから」
はぐれないように、真澄の手をしっかりと握り直しながら真澄に付き合ってやる。
それから一頻り縁日を楽しーんで、伊吹に連れられて二人は人気のない河原へ来ていた。あまり知られてはいない、穴場だった。
「この場所、まーちゃんにしか教えてねーんだ。だから、二人だけの秘密な」
「……っ、ありがとう……伊吹くん」
柄にもなくはしゃいでしまった、と思う。少しだけ恥ずかしくなるけれど、伊吹は穏やかな表情でこちらを見ている。彼は自分より年下のはずなのに、その表情があまりにも大人びていて、思わず彼から目を逸らす。
「……ご、ごめんね」
「ん? 何が」
「……その……、子供みたいにはしゃいでしまったから……。僕らしくなかったよね」
「いいじゃん。それだって、アンタだろ。まーちゃんは、いっつも無理しすぎなんだって」
そうかな、と伊吹に笑って見せたけれど、こんなに『楽しい』と思えたのは、酷く久しぶりだったかもしれない。
それから空に花開く花火を、二人で見上げる。その間、二人とも何も喋らなかった。
「まーちゃん、そろそろ戻んねーと」
花火が終わっても、しばらく二人で空を見上げていたが、伊吹が名残惜しそうにそう言う。
(……帰りたく、ないな)
そんな事を思うのは初めてだった。けれど、それが許されない事だという事も分かっているから、重々しく頷いて見せる。
「まーちゃん、遊びに行こうぜ」
季節は夏のある日、伊吹が真澄の部屋を訪れて、開口一番そう言った。
「……え? 創くんが、良いって言ってくれたの?」
「いや、下りてねーよ。あの唐変木……。律儀に許可下りんの待ってたら、まーちゃん一生外出れねーよ……」
連日、創に掛け合ってくれているのだろう。伊吹の辟易した様子から、何となく二人の様子が想像出来て、思わず笑みが零れる。
「……!! まーちゃん……、今のもっかいやって!」
「えっ!? い、今のって?」
「アンタ、今笑ったろ? それ、もっかい見たい」
「そ、そんなこと……言われても」
困惑して伊吹を見つめ返して見るけれど、伊吹は期待する様な眼差しで、こちらを見つめて来るだけ。それはもう『待て』を言いつけられた犬のように。
「……ふふっ」
それが余りにも可笑しくて、耐え兼ねたように真澄は吹き出す。
「まーちゃん!!」
嬉しそうな伊吹のそんな声と共に、がばっと伊吹が抱き着いて来る。
「い、伊吹くん!? ど、どうしたの!?」
「笑ったとこ、初めて見た」
「そ、そうかな」
「おう。まーちゃん、よく笑ってっけど、そーいうんじゃなくて、本当の笑顔? つーの? そーいうの初めて、俺に見せてくれたなって」
本当に嬉しそうに、伊吹は真澄を抱き締める腕に少しだけ力を籠めた。
「……っ」
(それは、伊吹くんのおかげだよ)
「……そっか。ねえ、遊びにって何処へ行くの?」
伊吹の背中をよしよしと撫でながら、真澄は気になっていた事を聞いてみる。
「花火。まーちゃんこの前、瓦版食い入るように見てたっしょ」
少し名残惜しそうに、互いの身体を離しながら『見抜かれてたか』と、真澄は照れ臭そうに目を逸らす。
「て事で、今から行くぞ」
「い、今から!?」
「花火、今日だかんな」
「で、でも……創くんの許可が……」
「抜け道、見つけた」
悪戯を考え付いた童子の様な、伊吹の顔。
それから、屋敷の人間に見付からない様に、出来るだけ物音を立てずに、久しぶりに余所行きの着物に着替え、同じく着替えを済ませた伊吹の後を着いて、屋敷の外に出た。
伊吹に、もう大丈夫だと言われるまで、心臓がどくどくと鳴っていた。日が暮れてからの外出も、屋敷から抜け出すのも初めての事だった。
◇◆◇
「伊吹くんっ、あれは何?」
「……ちょっ、まーちゃん……落ち着けって。あんま着物引っ張んなって……」
目に映る物全てが新鮮なのだろう。次から次へと『あれは何?』『これは何?』と、子供の様に目を輝かせている。少しでも目を離せば、あっという間に迷子になってしまいそうだ。
「そんな焦んなくても、全部買ってやっから」
はぐれないように、真澄の手をしっかりと握り直しながら真澄に付き合ってやる。
それから一頻り縁日を楽しーんで、伊吹に連れられて二人は人気のない河原へ来ていた。あまり知られてはいない、穴場だった。
「この場所、まーちゃんにしか教えてねーんだ。だから、二人だけの秘密な」
「……っ、ありがとう……伊吹くん」
柄にもなくはしゃいでしまった、と思う。少しだけ恥ずかしくなるけれど、伊吹は穏やかな表情でこちらを見ている。彼は自分より年下のはずなのに、その表情があまりにも大人びていて、思わず彼から目を逸らす。
「……ご、ごめんね」
「ん? 何が」
「……その……、子供みたいにはしゃいでしまったから……。僕らしくなかったよね」
「いいじゃん。それだって、アンタだろ。まーちゃんは、いっつも無理しすぎなんだって」
そうかな、と伊吹に笑って見せたけれど、こんなに『楽しい』と思えたのは、酷く久しぶりだったかもしれない。
それから空に花開く花火を、二人で見上げる。その間、二人とも何も喋らなかった。
「まーちゃん、そろそろ戻んねーと」
花火が終わっても、しばらく二人で空を見上げていたが、伊吹が名残惜しそうにそう言う。
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