14 / 23
鮮やかと見間違える程に美しく、
鮮やかと見間違える程に美しく、#07
しおりを挟む◇◆◇
真澄が畳んでくれた着物に袖を通し、飛脚の如く町を走り抜け、伊吹はあっという間に目的地へと到着する。
見るからに富豪が住んでいると、一目見て分かる大きな屋敷。屋敷の主は、一色奏。門前を掃除している女に、伊吹は声をかける。
「なぁ、今って奏って人いる?」
「……失礼ですが、貴方のお名前は? 本日、主様には面会の予定はございませんよ」
見た事ない顔だと思ったら、どうやらあの人はまた新しく人を囲ったらしい。
「……伊吹。俺の名前だから、二人に言えば分かっから」
食い下がろうとする女の背を押して、取り次いでもらう。案の定、戻って来た彼女は顔を真っ青にして、伊吹にぺこぺこと頭を下げた。
歩き慣れた長い廊下を歩き、伊吹は目的の部屋の前で姿勢を正す。
「奏様、伊吹でございます」
「入っておいで」
そう言われて部屋に入ると、珍しく雅の姿もある。
「奏様、雅様、お久しぶりです」
「うん、久しぶりだね」
「久しぶりだね! でもまだ、ひと月くらいしか経ってなくない? なんか、まずい事でも起きた?」
頭を上げて、周防家での一連の出来事と真澄の状況を手短に説明する。
「僕も、その場に居合わせたかったな。自分を傷付けてまで、襲うの我慢してる伊吹とか、想像しただけで笑えるよね」
「……御冗談を……奏様」
「ほらー! 奏が変なこと言うから、伊吹が怒ってるじゃんか! 奏、見える? あの伊吹の握った拳の青筋!!」
「ほんとだ。ごめんね、伊吹? あと〝様〟付けるのやめて。お前にそう呼ばれるの、気持ち悪い」
「……っち。それより奏さん、雅さん……、隣にお客人がいらっしゃるのでは?」
正直に言って、伊吹はこの二人が苦手だ。すぐに話が逸れるし、信頼の証と言えば聞こえは良いが、特に奏は伊吹に対して口が悪い。拾ってもらった恩があるから、こうして仕えているし、他に行く事も考えてはいないが、それでも苦手なものは苦手なのだ。
「ああ。君達の飲んでいる、薬の提供者だよ。異国から遥々、バース性の研究をしに来た〝ルイス=レイノルズ〟という青年だ。さっきの話、彼にも話してみるといいよ」
奏に呼ばれ隣の部屋から現れたルイスに、真澄の事を話してみたが、結果は芳しくなかった。効果が出るかは分からないが、薬の量を倍に増やしてみて、それでも駄目だった場合は、番になる以外の選択肢はないだろう、という事だった。
その他、今後の事についていくつかの指示や、近いうちに真澄を一度屋敷に連れて来るように、との指示を受ける。
「精々、真澄君を襲っちゃわないように気を付けてね、伊吹」
「そうそう。こっちでも色々裏を取ってる途中でさー。裏取れたら、周防創……だっけ? 一思いに〝ざしゅっ〟としていいからさ」
「何言ってんですか、アンタら。阿呆ですか。まーちゃんの許可なしに、そんな事出来るわけねぇでしょ」
「……まーちゃん」
「……っ!!」
「まーちゃんだって、奏」
奏は必死に笑いを堪えているからか、とてつもなく変な顔をしていて、雅は盛大に吹き出し声を上げて笑っている。
「……そろそろ勘弁してほしーんですけど」
それから何やかんや話をしたりで、伊吹が解放された頃、帰りの空は赤く染まっていた。まあ……土産と称して、夕飯になりそうな物もいくつかもらってきたので良しとしよう。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる