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向けられた悪意と狂戦士
50.狂戦士(ファーマス視点) ※残酷描写あり
しおりを挟む※ スプラッタ描写あります。ご注意。
**************
自分の背後から、凄まじいまでの魔力の暴流を感じ、振り返る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あああっっーーーーーーっ!!!!」
そこにいる嬢の、目の色が変わった。
「リンちゃん!?」
「まずいっ!全員嬢から離れろ!!」
豹変した嬢はものすごい勢いで、坊主が対峙していたビグベルーに向かっていく。
周りにいた、アグウルグの群れは銃剣で一刀両断。なぎ倒して進む。
ビグベルーの振り下ろす腕をかいくぐり、身体の下に潜りこむと、銃の持ち手で鳩尾辺りを抉った。
ビグベルーが吹っ飛ぶ。
あのパワーは、狂暴化・・・狂戦士状態だ。
「ファーマス!ありゃ何なんだ!!?お嬢どうしちまった!?」
「狂戦士状態だっ!理由は不明!
イズマっ!坊主を引き上げろっ!
べネリは、嬢のバックアップ!怪我の回復だけ重視!
ロイドっ!イズマと、坊主の手当てをっ!」
「「「了解!」」」
坊主を引き離し、確認する。
頭の怪我だけ。
殴られた衝撃で頭が振られた所為で気絶しているようだ。
魔力に任せて、最大まで身体強化していた事でこれで済んだ。
まだランクAの魔獣との力の格差はデカイが、命に別状はなさそうで、胸をなでおろす。
「ロイド、坊主は任せた。イズマ、ビグベルーを嬢から引き剥がすぞ。」
「任された。」「了解です。」
俺とイズマは、嬢とベネリの後を追った。
***
「ベネリっ!どうなってる!?」
リンを追いかけていたベネリをようやく見つけ、駆け寄る。
突っ立ったままのベネリ。
「どうした?」
「・・・あれは、俺の出る幕じゃ、ないですよ。」
ふるふると首を振り、泣きそうな顔を浮かべるベネリの視線の先を見やる。
「何なんだよ、ありゃ・・・」
視線の先には、赤い獣。
声にならない声を上げ、跳ねるように、踊るように、俺達の目の前を舞っていた。
血の匂いに引き寄せられた、ありとあらゆる魔獣達が一斉に遅いかかるが、一瞬にして薙ぎ払われ、銃弾の雨に晒される。
噛み付かれても、力任せに引き剥がし、別の魔獣へぶん投げる。
浴びているのは、自分の血なのか、魔獣の血なのか、分からない程。
魔獣達は次第に数を減らし、残された魔獣達が怯え、森へ撤退を始めた。
残された通常のビグベルーよりも巨躯の個体だったものは。
なす術なく無残にも切り刻まれ。
大量の血を流しながら倒れこむ。
一方的な蹂躙。
一騎当千とはこのことか。
赤い獣は、倒れたビグベルーに銃口を向け、引き金を引く。
魔力を膨大に込められた銃から、風系統の銃弾が放たれる。
ドゥンッ・・・・・
森の中に、銃声が響き渡る。
ドゥンッ・・・・ドゥン・・・・
何発も、
何発も。
ビグベルーだったものは、その姿が無くなるほどにミンチと化している。
それでもなお、引き金を引き続ける。
魔石も砕け、地面が抉れていく。
「リン・・・」
イズマが呟き、唇を噛む。
「こんなの、ないよ・・・」
ベネリが、泣きそうに呟く。
狂戦士
肉が千切れようと、骨が砕けようと、止まらない殺戮獣。
2人はその存在に気圧され、その場から動く事が出来ないでいた。
意を決し、俺は嬢に近寄っていく。
「ーーーー っ!!!」
背後の俺の気配を感じた血まみれの嬢は、問答無用で切りかかってきた。
ガキィ・・・ンッ!
嬢の銃剣と、俺の盾が交錯する。
正気を失った嬢の攻撃は重く。速く。
捌くのに必死になる。
「嬢っ!坊主は生きてる!!大丈夫だ!!」
捌きながら、坊主の事を告げるが、反応なく、攻撃は続けられる。
薙ぎ払い、切り上げ、足技と矛術のラッシュ。
迷いなく、急所を狙ってくる。
数分なのか、数十分なのか。
一瞬の気も緩められない攻防が続いた。
ガキィ・・・ンッ!
キィン!!
激しい剣戟の後、一瞬攻撃が止み、嬢の顔が見えた。
血まみれの顔の生気のない目から、一筋の線がついている。
『が、あ゛あ゛・・・っ!』
喉の奥から絞りだす声。
それを合図に、また暴れだそうと銃剣を振り上げる。
「もう大丈夫だ!もういいっ!もう、いいんだ!」
振り下ろそうとした銃剣を、その根元から掴み、引き寄せた。
ーーー やっと、捕まえた。
『ぐ、あ゛あ゛ーーー!!』
暴れようとする身体を、抱きしめて押さえつける。
腕を振り払い、離れようとするパワーが凄い。
「クソっ!」
身体強化での押え込みに、魔力操作での拘束も加える。
「坊主は、大丈夫だっ!簡単に死ぬような防御は教えていないっ。ーーーちゃんと、生きてる!」
それでもなお、暴れる身体。
「っつ!!」
覆い被さっていた右肩が噛まれる。
本当に、獣だ。
全く、声が届かない。
このままだと、本当に嬢の精神が壊れてしまう。
一瞬でも、正気に戻すことができれば。
「嬢っ!戻ってこい!」
こうなったら、荒療治。
直接、魔力を打っ込むしかない。
『が、あ゛あ゛ーーーっ』
吠えようとした口を塞ぐ。
渦巻く怒りの魔力の暴流に、引っ張られそうになりながら。
嬢に、直接魔力を叩き込む。
数秒の間の後、暴れていた身体が大人しくなる。
ぷは、と唇を離し、嬢の顔を見る。
次第に目の焦点が合ってくる。
「嬢っ!わかるか?!」
「・・・し、じょぉ?」
俺の顔をみた嬢は、喉が潰れたようなしゃがれ声を出す。
「戻ったな?もう大丈夫だ。魔獣暴走は収まった。坊主も生きてる。」
「わだしのっ・・・わだしのせいだっ。
わだじにっがかわったせいで、カンはっ」
また、取り乱し始める嬢。
泣き濡れて、尋常じゃないその様子に戸惑う。
「お前の所為じゃない。坊主は生きてるから。問題ない。」
抱きしめて、背中をさする。
「ちがうのっ!
わだしのっ・・・わだしがぁっ・・・ゴメン!
ごめんなさい!
ごめんなさい!
ごめんなさいぃーー!!」
「落ち着けっ、嬢!」
泣き叫び、また暴流しそうになる魔力を上から押さえつける。
すると、ふ、と嬢の全身から力が抜けた。
腕の中の嬢を見ると、気絶している。
ーーー ようやく収まった。
嬢を抱えたまま、その場に座りこむ。
「しんど・・・」
こんなにシンドイ戦いは何時ぶりか。
あと数分粘られていたら、嬢を止める事は難しかった。
「ファーマスさん。ポーションです。」
「助かる。」
一部始終を見ていたイズマとベネリが寄ってきた。
ベネリから渡された、レザ特製の魔力回復と体力回復の特級ポーションをそれぞれ一気飲みする。
むせ返るほどの血の匂いが漂う中、自分と、血濡れの嬢の身体に【洗浄】をかけ、綺麗にする。
腕や、脚の肉が食い千切られ、赤い肉が覗く。
止血がわりに、体力回復系ポーションをぶっかける。
「とりあえず、ロイドと合流。それから、レザの所に帰る。騎士団と合流出来れば、そのまま運んでもらうか。」
「「了解。」」
一息つきながら、2人に今後の指示を出す。
嬢は、イズマに背負わせ、ロイドと坊主に合流する為、元来た道を歩き出した。
**************
ストックが潰えました・・・
新年度、仕事のばたつき中(ノД`)
少しお休み頂きます。
『ケルベロス』掃討まで、もう少しなんですが・・・
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