転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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向けられた悪意と狂戦士

49.魔獣暴走

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警戒する5体の魔獣を前に、深呼吸。


「じゃ、カン君、行こうか。」

「うスっ・・・【咆哮バークス】!!」


カン君の引きつけに、アグウルグが、一斉に攻撃を仕掛ける。

即座にカン君の背後から出ると、範囲射撃を実施。そのまま、銃剣の薙ぎ払いで2体持ってく。

3コンボぐらいで2体を片すと、カン君は3体を捌きながら、1体にトドメを刺す所だった。

残る2体のうち1体を切り上げて、上に弾き、風系統の属性弾を放つ。
ラスト1体は、カン君の剣戟で始末された。

私とカン君で、3体・2体と、上手く分離できたよ。

アグウルグを空間収納にしまいながら、ふと振り返ると、ロイドさんが、あんぐりしてる。
ザイルさんと同じ反応で笑える。


「お嬢。その武器はいったい・・・」

「私専用の武器でっす。誰にも使えません。構造、理論なんかも教えるのは不可でーす。」


詳しくはザイルさんに聞いて、って事で、さらっと応える。


その後は、索敵に集中。

赤丸の量が増えている。


ーーー 動いた!


「来ます!10時方向から50体以上!うち、クラスAレベル2体!到達予想、60秒後!!」
 

私の声に、イズマさんとベネリさんが即座に合流。

イズマさんが信号弾を放つと、索敵レーダーから青丸の点が2つ離れていくのが見える。

レーダーの赤丸は増え・・・


「!?」


嘘でしょ!?
焦る私の様子を見た師匠が声をかける。


「どうした?嬢ちゃんリン。」

「・・・魔獣の数、150以上!?」

「なっ!?」

「まだ膨れ上がります!」

「・・・やり過ぎだ。」


ロイドさんが忌々しげに呟く。
空気を変えるように、師匠が叫ぶ。

「・・・けっ、大方、魔獣寄せが制御しきれなかったんだろうよ。
数が増えようがやるこた一緒だ!
取りこぼしても、騎士団や他の冒険者がいる。
アイテム関係は出し惜しみするな!
気張っていくぞ!!」

「「「「了解!!」」」」

「エンカウントまで、あと15秒!」


魔獣達の足音が、地鳴りのように響いてくる。
なんの魔獣か分からない程の咆哮が近づいてくる。

圧倒的な数の暴力。
魔獣暴走スタンピート攻略が開始となった。


***



手当たり次第に、麻痺剤、鎮静剤をぶん投げ。
範囲射撃で、重力属性弾を放つ。
すぐさま、切り替えて風属性弾を放つ。

スロウがかかったようになる魔獣達を押し返し、イズマさんと共に薙ぎ払う。

師匠やカン君は、ビグベルー2体をタゲ取りしている。
デカイ個体を師匠が、少し小さい個体をカン君が対応。
ベネリさんとロイドさんが、小さい個体から取り組む。


当初の打ち合わせ通りに攻略は進む。
クラスD以下の魔獣は、取りこぼしても仕方ないと割り切り。
兎に角、BとCの魔獣を掃討する事に専念。


魔獣は次々現れる。
索敵しても、山向こうから次々にやってくるしか分からない。

どれくらい屠っているのか。
倒した頭数も、時間経過も、分からない。
 

「リン、集中切れてきている。シンドイけど、耐えろ。」

「ん・・・はぃっ。」


少しの間、魔獣の流れが途切れる。
魔力回復ポーションを飲みながら、イズマさんが声かけしてくる。
自分も、体力回復ポーションと魔力回復ポーションを2本飲みして、次の波に備える。

師匠達を見やると、小さいビグベルーをちょうど倒し、師匠が捌いていたもう1体に向かう所だった。


次の波が来る。


備えようとしたその時、凄まじいプレッシャーを感じた。


索敵レーダーを見ると、今戦っているビグベルーよりも一回り大きな赤丸がこちらに迫って来る。


「ビグベルー1体と思われる巨大魔獣!
現個体より一回り大!!
エンカウント20秒!!」


セオリー通りに、師匠が捌けば問題ない。

でも、そこに出たのは。



「俺が行きます!!」

「ダメっ!」



私の制止を振り切り、カン君が飛び出した。


「くっそ!」


師匠とイズマさんが舌打ちする。

カン君が離れたら、師匠は今のビグベルーからスイッチできない。
イズマさんが叫ぶ。


「リン!兎に角、雑魚を屠れ!!カンに寄せるな!!」

了解ラジャ!!」


私達は、雑魚をカン君に寄せない。
なる早で師匠達に、現個体を討伐してもらう。

非通常イレギュラー対応として、やることはそれだけ。


お説教は後。
頼むから、踏ん張って。



***



現れたビグベルーは、3メートル近くある巨躯だった。


「【咆哮バークス】!!」


エンカウント直ぐにカン君が叫ぶ。
巨大ビグベルーはそれに呼応し、カン君に向かう。

重力弾を放つくらいしか援護ができないが、それでも無いよりはマシ。

雑魚魔獣を相手取りながら、隙を見て重力弾を放つ。


もうすぐ、師匠達のビグベルーは討伐される。

ーーー それまで耐えて。




坊主カンっ!!!!」





師匠の声が響く。


その時。


ビグベルーの振り上げられた右手が、振り抜かれるのが見えた。



ヘッドギアが飛ぶ。





カン君の身体が、崩れ落ちる。



赤いものが見えた。



あれは、






ーーーーー 血だ。





やだ



やだよ

そんなのやだ




しんじゃやだ







ーーーーーー  逝かないで






『     ワタシノ  セイダ     』






パキ、と頭の中で何が鳴った。


目の前が、赤くなる。




身体の内側から、力が溢れ。




意識が、遠のく。






「あ゛あ゛あ゛あ゛あああっっーーーーーーっ!!!!」







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