51 / 393
向けられた悪意と狂戦士
49.魔獣暴走
しおりを挟む警戒する5体の魔獣を前に、深呼吸。
「じゃ、カン君、行こうか。」
「うスっ・・・【咆哮】!!」
カン君の引きつけに、アグウルグが、一斉に攻撃を仕掛ける。
即座にカン君の背後から出ると、範囲射撃を実施。そのまま、銃剣の薙ぎ払いで2体持ってく。
3コンボぐらいで2体を片すと、カン君は3体を捌きながら、1体にトドメを刺す所だった。
残る2体のうち1体を切り上げて、上に弾き、風系統の属性弾を放つ。
ラスト1体は、カン君の剣戟で始末された。
私とカン君で、3体・2体と、上手く分離できたよ。
アグウルグを空間収納にしまいながら、ふと振り返ると、ロイドさんが、あんぐりしてる。
ザイルさんと同じ反応で笑える。
「お嬢。その武器はいったい・・・」
「私専用の武器でっす。誰にも使えません。構造、理論なんかも教えるのは不可でーす。」
詳しくはザイルさんに聞いて、って事で、さらっと応える。
その後は、索敵に集中。
赤丸の量が増えている。
ーーー 動いた!
「来ます!10時方向から50体以上!うち、クラスAレベル2体!到達予想、60秒後!!」
私の声に、イズマさんとベネリさんが即座に合流。
イズマさんが信号弾を放つと、索敵レーダーから青丸の点が2つ離れていくのが見える。
レーダーの赤丸は増え・・・
「!?」
嘘でしょ!?
焦る私の様子を見た師匠が声をかける。
「どうした?嬢ちゃん。」
「・・・魔獣の数、150以上!?」
「なっ!?」
「まだ膨れ上がります!」
「・・・やり過ぎだ。」
ロイドさんが忌々しげに呟く。
空気を変えるように、師匠が叫ぶ。
「・・・けっ、大方、魔獣寄せが制御しきれなかったんだろうよ。
数が増えようがやるこた一緒だ!
取りこぼしても、騎士団や他の冒険者がいる。
アイテム関係は出し惜しみするな!
気張っていくぞ!!」
「「「「了解!!」」」」
「エンカウントまで、あと15秒!」
魔獣達の足音が、地鳴りのように響いてくる。
なんの魔獣か分からない程の咆哮が近づいてくる。
圧倒的な数の暴力。
魔獣暴走攻略が開始となった。
***
手当たり次第に、麻痺剤、鎮静剤をぶん投げ。
範囲射撃で、重力属性弾を放つ。
すぐさま、切り替えて風属性弾を放つ。
スロウがかかったようになる魔獣達を押し返し、イズマさんと共に薙ぎ払う。
師匠やカン君は、ビグベルー2体をタゲ取りしている。
デカイ個体を師匠が、少し小さい個体をカン君が対応。
ベネリさんとロイドさんが、小さい個体から取り組む。
当初の打ち合わせ通りに攻略は進む。
クラスD以下の魔獣は、取りこぼしても仕方ないと割り切り。
兎に角、BとCの魔獣を掃討する事に専念。
魔獣は次々現れる。
索敵しても、山向こうから次々にやってくるしか分からない。
どれくらい屠っているのか。
倒した頭数も、時間経過も、分からない。
「リン、集中切れてきている。シンドイけど、耐えろ。」
「ん・・・はぃっ。」
少しの間、魔獣の流れが途切れる。
魔力回復ポーションを飲みながら、イズマさんが声かけしてくる。
自分も、体力回復ポーションと魔力回復ポーションを2本飲みして、次の波に備える。
師匠達を見やると、小さいビグベルーをちょうど倒し、師匠が捌いていたもう1体に向かう所だった。
次の波が来る。
備えようとしたその時、凄まじいプレッシャーを感じた。
索敵レーダーを見ると、今戦っているビグベルーよりも一回り大きな赤丸がこちらに迫って来る。
「ビグベルー1体と思われる巨大魔獣!
現個体より一回り大!!
エンカウント20秒!!」
セオリー通りに、師匠が捌けば問題ない。
でも、そこに出たのは。
「俺が行きます!!」
「ダメっ!」
私の制止を振り切り、カン君が飛び出した。
「くっそ!」
師匠とイズマさんが舌打ちする。
カン君が離れたら、師匠は今のビグベルーからスイッチできない。
イズマさんが叫ぶ。
「リン!兎に角、雑魚を屠れ!!カンに寄せるな!!」
「了解!!」
私達は、雑魚をカン君に寄せない。
なる早で師匠達に、現個体を討伐してもらう。
非通常対応として、やることはそれだけ。
お説教は後。
頼むから、踏ん張って。
***
現れたビグベルーは、3メートル近くある巨躯だった。
「【咆哮】!!」
エンカウント直ぐにカン君が叫ぶ。
巨大ビグベルーはそれに呼応し、カン君に向かう。
重力弾を放つくらいしか援護ができないが、それでも無いよりはマシ。
雑魚魔獣を相手取りながら、隙を見て重力弾を放つ。
もうすぐ、師匠達のビグベルーは討伐される。
ーーー それまで耐えて。
「坊主っ!!!!」
師匠の声が響く。
その時。
ビグベルーの振り上げられた右手が、振り抜かれるのが見えた。
ヘッドギアが飛ぶ。
カン君の身体が、崩れ落ちる。
赤いものが見えた。
あれは、
ーーーーー 血だ。
やだ
やだよ
そんなのやだ
しんじゃやだ
ーーーーーー 逝かないで
『 ワタシノ セイダ 』
パキ、と頭の中で何が鳴った。
目の前が、赤くなる。
身体の内側から、力が溢れ。
意識が、遠のく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あああっっーーーーーーっ!!!!」
10
お気に入りに追加
1,009
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる