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向けられた悪意と狂戦士
44.気晴らし
しおりを挟む完全オフの日曜日。
いつも通り目覚め、私は普通の服で、身支度を整えて、宿の食堂へ向かう。
何人か他の宿泊客がいるが、まだイズマさんとカン君は居ない。
ふぅ、と息を吐き、いつもの壁際端の席に座る。
昨日の事があったので、ちょっと、安心する。
店員さんが直ぐに朝食を持ってきてくれる。
いただきます、と手を合わせ、食べ始めながらも、思考は別の所に飛んでいた。
カン君の気負いの原因が分かったのは良いんだけどさ。
師匠を目標にするのはいいけど、張り合うものじゃないよね。
それに。
好意かぁ・・・
向けられて、嬉しくないわけじゃない。
・・・何というか、気恥ずかしい。
でもなぁ。
元々10は歳が離れているのと。
彼の推しキャラと私がかけ離れすぎてるのと。
異世界に飛ばされ、知り合いが居ないというイレギュラーな状況と。
それだけでも。
・・・うん。やっぱり、ないなぁ。
また、ため息が出る。
私にとって、どストライクなキャラの師匠が、この世界にはいたワケで。
だから。カン君にとっても、居ると思うんだ、『嫁』が。
彼が師匠と張り合ってるのは、私の興味が師匠に向いてるから、なんだろうなぁ。
でも、師匠があのマッチョな体型で、がっつり後衛でも、私は問題なし。前衛だからっていいって事じゃないんだよなぁ。
かといって、私は別に師匠と付き合いたいワケでもない。
今の距離感が心地よくて、甘えているだけ。
いつか元の世界に戻れるのか。
それもわからない。
そんな不安定な人間が側にいられるワケもない。
それに。
『持っている』人間が関わると、ロクな事にならない。
背負うのは私だけでいい。
今回だって、本当は・・・
「何、難しいこと考えてる?」
「ふぁっ、」
ウンウン唸っているところに、急に後ろから声をかけられ、変な声が出てしまった。
振り返るとイズマさん。
「ビックリした。おはようございます。」
「ん。おはよう。」
涼しい顔で、向かいの席に腰かけるイズマさん。
出された朝食を直ぐに食べながら、私の顔を見た。
「リン、今日は俺に付き合え。」
「は?」
また、唐突だね。
言葉数少ないのは、誤解の元だよ?
「・・・いいですけど。カン君は?」
「あいつは、ベネリに任せる。」
はぁ。
さいですか。
・・・まぁ、昨夜の事もあるし。いっか。
とりあえず、残っていた朝食を食べ終えると、席を立った。
でも、2人きりですか。
コレは、久しぶりのデートですかね。
・・・嬉しくないヤツの。
***
イズマさんに連れられ、街を抜ける。
女性からの視線が痛い。気がする。
街を出ると、街道沿いに徒歩移動。
「リン、索敵の精度は今どの位だ?」
「そうですね、1キロ周囲なら、魔獣は分かります。」
「人はどうだ。」
「一応は分かりますが、人であるというだけですね。敵か味方かはわかりません。」
私の索敵は、鑑定さんのおかげもあって、魔獣や動物、植物には敏感。
よくある、航空レーダーとか、魚群探知機とか、あんなイメージで赤丸、緑丸で分かる。
魔獣も強さで大きさが変わる状態なので、移動速度などで大体の推察が可能。
ただ、人間は全部ただの青丸。
身内だろうが、第3者だろうが変わらなかったりする。
悪意ある人間がわかれば容易だけど、そうは上手くいかなったようだ。
街道沿いを歩きながら、索敵の意識を広げるも、つけてくるような人影はない。
「そうか。今回の作戦は、索敵しながらの戦いになる。戦いながら探知したものは、逐一知らせろ。」
「わかりました。」
しばらくすると、森手前の草原地帯についた。
ガルサボアという、イタチモドキの魔獣が良くいる場所。
奴らは縄張り内にくる動物に対し、問答無用に攻撃を仕掛けてくる習性がある。
すると、イズマさんはおもむろに上着を脱ぎ出し、ランニング姿になる。
彫刻みたいな細マッチョだよねー。
ギルド受付のおねーさんや、女性冒険者の皆さんがキャーキャー言うのは分かる気がする。
無愛想だけど、将来有望な優良物件だもの。
最近一緒に居るとさ、周囲の視線が、怖いんだよなぁ。
まぁ、そんな彼が脱いだところで、ときめかない私も大概枯れてるよね。
「組手、やるぞ。」
「・・・はぁ。」
だから、唐突だって。説明しましょうよ。
ーーー 組手、索敵、イタチモドキの特性・・・
「・・・えーと。ココで組手トレーニングしながら、イタチモドキが寄ってくるのを、索敵実況しながら捌け、という事で良いですか?」
無論、という様子で頷くイズマさん。
分かって当然な顔してるけど、フツーは分かりませんからね?
「武器なし。体術のみだ。」
・・・あれ?
今日は完全オフじゃなかったっけ?
・・・まぁ、いっか。あまり余計なこと考えなくて済むし。
私も空間収納から出したトレーニングウェア用のシャツに着替え、身体強化のための魔力を体に巡らせる。
「じゃ、ヤるぞ?」
「・・・はい。」
こうして、バイオレンスな草原デートが始まった。
おねーさま方。
彼と盛り上がれるのは、こんなデートみたいですよ?
****
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