転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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向けられた悪意と狂戦士

43.『持っている人』(カン視点)

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彼女が出て行った後を追う事もできず、立ち尽くす。


『ーーー君を、あの人のようには死なせない。
元の世界に返すから。

だから、ゴメン。』


泣き笑いの顔で、そう告げた彼女。
その言葉を反芻する。

この世界に来る前の日の事を思い出す。




*****



飲み会の会場から彼女が帰った後。
今中さん以外の先輩達から話を聞いていた。 
先輩達は面白そうに、俺をちょし始めた。


「何、神凪。オガさん狙い?」

「・・・そんなんじゃ。ただ、写真で同行させてもらうだけっス。」

「そかー。年上好みかー。」

「でも、10上は、年上すぎね?」


ニヤニヤと先輩達が突っ込んでくる。
む、とした俺に、1人の先輩が真顔になる。


「でもあの人はやめといた方がいいぜ。」

「あー。トラブル寄せ体質の話な。」


訳あり顔で先輩達が話す。
俺は首を傾げ、先の言葉を待った。


「あの人、移動する度に、厄介案件が降りかかるんだよ。それこそ、何十年に一度レベルの。」

「まぁ、それでも、何とかしてきたらしいけどなー」


そんな話なら、別に。
と、聞く気が無くなってくる。


「で、だ。」


先輩が、ずい、と顔を寄せてきた。


「ーーー死んだ旦那さんのガン発覚が、結婚後すぐだぜ?」

「そうそう。そん時やっぱり、オガさん『持ってんだな』って、話になったよな。」

「そんな話があるから、付き合うとか、考え無い方がいいぜ?」


「佐伯さん、いい人だったんだけどなぁ。」


・・・その後は、彼女の旦那さんだった人がいかにいい人だったか、という話で盛り上がっていたが。
あまり耳に入らないまま、俺はその場に留まっていた。




*****




どす、とベッドの端に腰かけ、俺は気持ちのやり場に困っていた。

彼女の中には、亡くなった旦那さんへの思慕がずっとあることは、何となく分かってた。
でも、もう彼女の隣には、彼はいない。


『  “持ってる”所為で、旦那さんが死んだ  』


周囲まわりは言った。
彼女も、そう思っている。


自分のトラブル寄せ体質の所為で、夫は死期を早めたと。
だから自分は誰とも結ばれるべきではないと。


彼も彼女を一人残して逝くのは、無念だったとは思う。
でも、彼女の所為で死んだなんて、彼は思っているのだろうか。

周囲まわりが勝手に意味付けしている事じゃないのか。


・・・これは、まるで呪いだ。


彼女が誰かと結ばれることを、周囲まわりが許さないなんて。
彼女自身が、誰かと結ばれることを諦めてるなんて。


結ばれても死なないと証明できない限り、彼女は誰とも繋がれないのか。
そんな悪魔の証明など、どうすれば良い?


「俺は、あなたを幸せにしたいです・・・」


まだ温もりが残っているように感じる腕を見つめ、暗闇の中で呟いた。


コッチにきてからのリンさんには、驚かされることの連続だった。
出会いがしらの、魔獣退治も。その後の冒険者としての活動も。
肝が座っていて、俺よりもカッコ良すぎた。
どんどんバイオレンスになっている気もするけど。

でもどこか、気を張り続けているような違和感を感じていた。


ーーー  その違和感は、俺を守るため。


戦う力を持たない俺が傷つかないように。
自分に関わることで、俺が死なないように、と。

異世界に降りたった、あの日。
迫り来るビガディールから、俺を庇ったあの時から。
きっと彼女の中では、俺は保護対象なんだろう。
巻き込んだ、という、責任感から。

アグウルグの群れに襲われた時も庇われ。
商業ギルドでも、『ケルベロス』の相手も、彼女は矢面に立っていた。



「俺は、選んでここにいるのに。」


貴女の側にいたかった。
だからあの時、自分から、巻き込まれに行った。
・・・それが、貴女を苦しませてるのか?


『せっかくの異世界だよ?カン君の『嫁』発見しないと。』


事あるごとに、言われた台詞。
思えば、彼女の防御だったんだろう。俺にこれ以上踏み込ませないための。

ーーー  俺の理想は、貴女なのに。

ぎ、と掌を握りしめる。


「・・・俺、頼りないスかね?」


実際俺は、彼女に与えてもらうだけで、何も報えていない。

あの時、彼女の魔力に包まれた時の幸福感。
あれに見合う力は俺にはない。


悔しい。
力が欲しい。
自分の身を、彼女を守れる力が。


「俺、貴方の前で死んだりしませんから。」


曇っていた夜空から漏れた月明かりが、窓から入る。
見上げると、綺麗な満月が、雲間から覗いていた。


「・・・1人になんて、させませんから。」


信じてもらえるだけの強さを手に入れよう。
笑顔の貴方の隣で、生きるために。


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