転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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冒険者はじめました

31.解体一本勝負 ※ 解体描写あり

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※ 解体有ります。



*******

さっきから、嘲りの表情でこちらを見ている男たち。
そして、その後ろの職員。


きしょい。
ホントにきしょい。


コッチが新人で、実は何もできないんだろうって、決めてかかってる。
自分が不正を暴いてやるっていう、正義厨な面。


師匠から、叩きのめして良いと了解をもらったし。
ドーツさんからも、茶番と言われたし。
ーーーーー 全開でイキます。


「・・・リンさん、悪人顔。」

「師匠の弟子だからね。」

「綺麗な顔が台無しっス。」

「照ーれーるー。」


軽口が出るようになったね、カン君。
大丈夫そうだ。
寧ろ私が気負い過ぎ。

さて。
鑑定さん、解体さん。
よろしくお願いしますよ。



「準備出来たか?」

「すみません。三脚を2台貸していただいても良いですか?」

ドーツさんの声かけに、私は貸してもらいたい物を進言する。
無くても出来るけど、あった方が楽だしね。

あとは。
ドーツさんと一緒に、D級納品のチェックをしてた人とか、何人か真剣な表情をして見てるから。

折角だし、彼らに見てもらおう。
・・・周りのニヤニヤはほっといて。


「ウルフ系解体に使う物で良いか?」

「はい。お願いします。」

「分かった。テル、シュウ、持ってきてやれ。」

「「はい」」


呼ばれた2人は、さっき真剣な顔してるなって思ってた人達。
ドーツさんも信頼してるんだろうな。

・・・それに比べて。

『あんなの何に使うんだ』
『どうせ、目くらましだろ』

ヒソヒソコソコソ、好き勝手言うね。
そんなんだから、ドーツさんに下っ端仕事しか貰えないんじゃないの?二流さん達。


「こちらにセットして良いですか?」


ちょっとイラッとしていたら、メガネのドレッドヘアっぽいお兄さんが、三脚を持ってきてくれていた。


「あ、はい。机の横で良いです。ありがとうございます。」

「いえ・・・頑張って下さいね?あんな見事な納品ばかりでしたから。僕も勉強させて貰います。」


三脚をセットしながら、彼は小声でそう言って、はにかむ。

・・・ちょっと嬉しい。
ささくれてた心があったまる。

ちゃんと私達がやったって思ってくれてる証拠。
うん。彼みたいな人に見てもらうのに頑張ろう。


「良し、いいな?・・・では、始め!!」



*** 


※ 次、解体です。
魔獣といえど、兎さんなので、嫌な方は回避を!


*** 


ドーツさんの声を合図に、それぞれが解体に取り掛かる。

先ずは、机の上のアーミラージュに両手を合わせる。
解体して、美味しくいただくために。

狩猟を始めてから、『いただきます』の意味を真剣に考えるようになったなぁ、と。思い出す。

両手合わせは無意識。
自然と身体が動いた。



アーミラージュの片脚を持って、三脚に吊り下げる。

足首周囲、胴体、首、少し切れ目を入れる。

顔を上げるとニヤニヤブラザーズは、まな板の上で格闘中。

・・・あー、その剥ぎ方だと、皮傷つくー。

思わず顰め面に。
いかんいかん。彼奴らは敵。ほっといてok。

カン君を見ると、丁度準備ができたみたい。
私が見ているのに気がついた彼は、軽く頷く。
じゃ、やろか。

足首の切れ目から、皮と肉の間に指を入れる。


「せーのっ。」


ベリッ
ベリリッ


新鮮な状態だったし、やっぱりいけた。
ちょっと突っかかる部分だけ、ナイフで削いで、脚から胴体、顔まで綺麗に皮が剥げた。

一瞬にして皮と肉が分離した様子を見て、どよめきが起こる。
解体スキルのおかげもあるけど。無くても出来るよ?ちょっと時間かかるくらいで。


皮は机の上に置き、角と内臓処理にかかる。

角は、皮が剥げた根元にナイフを入れると、コロンと取れる。

空のタライを近くに、三脚の下に内臓入れを置く。
腹膜を破り、内臓が動くのを確認。
腸を肛門近くで切り取り、内臓を一気に外した。
肉が腸に残る排泄物で汚れてもやだしね。

内臓入れを外し、空タライを下に置く。
生活魔法で水を呼び寄せ、肉を洗う。
というか、血抜き。
汚れた水はタライへ。
洗浄クリーン】が上手くできないんだもん。仕方ないじゃんー。

この工程、【洗浄クリーン】使えるカン君は早いんだよなー
先の解体で付けたアドバンテージが一気に詰められる。

ちら、とカン君を見ると、内臓が外し終わった所。
大丈夫そうだね。

さて。綺麗に皮と内臓が無くなった肉を眺める。

肺の裏側辺りの背骨近くに、綺麗な赤い魔石がある。
コレもナイフで、石近くの筋を切ればすぐ取れます。

残るはお肉。
首は落として、脚と腹、肋骨に分ければ良いか。

三脚から外すと、まな板の上に。
借りている包丁で部位毎に切り分け。
鑑定さんが嬉々として『切るならココ!』って、光って教えてくれるので助かりますよ。

実際に、鑑定さんのガイド通りに切ると、お肉美味しくなるんだよねー。
前に比べてみたけど、食感とか旨味とかが違う。
なので、鑑定さんのガイドは厳守です。

・・・てな訳で。
正味5分。
でーきあーがりー

机の上に、皮、角、魔石、肉を並べる。
あとは使った道具を洗ったりしてお片づけ。
 

「解体、終わりました。」


手を挙げて宣言。

周りはザワザワしている。
そんなに間を空けずに、カン君も終わったみたい。


「終わったっス。」


片付けが終わった彼も、手を挙げる。


さてニヤニヤブラザーズは?

・・・あんなけ大口叩いて、まだ内臓処理にも行きつけてなかった。
角を折ろうとしてるけど、力技だね。
あんなに無理矢理やる必要ないのに。
途中で折れたら、価値半減だよ?

しかも、皮・・・もったいない。
かなり無理矢理に扱ったようで、所々ボロボロ。
鞣しで誤魔化す感じかね、アレ。
まぁ、どうでも良いけどさ。


「そこまで、だ。」 


ドーツさんが宣言する。
そして、茶番と言われた勝負は終了した。


***


「ドーツさん、いかがでしたか?」

「あぁ。2人の解体技術は一流。超一流の部類だ。
ここの職員の処理時間の半分以下で済ませた上に、どの部位もAプラスの最高の状態。
アーミラージュはランクB、しかもBマイナス処理が普通だってのに。」


ザイルさんに評価を求められたドーツさんは、頭をガリガリしながら応えた。
そして、す、と私に右手を伸ばした。


「いや、嬢ちゃん。良いもん見せてもらった。ありがとうな。
・・・俺もまだまだ腕を磨かんきゃならん。」

「いえ、こちらこそ。正当な評価を下さってありがとうございました。
先人達の解体技術が、ここで認められて嬉しいです。」


私はドーツさんの手をとり、笑顔で握手を交わした。
手を離したドーツさんは、また、頭をガリガリしながら、照れたように言い淀む。


「あー・・・すまんが、もう一度解体見せてもらってもいいか?」


照れるオッサン。何か可愛い。
思わず、くす、と笑ってしまう。
誤魔化しつつ、ちら、と、師匠の方を見ると、okサインくれた。


「いいですよ?興味ありそうな方もいらっしゃるようですし。ゆっくりやりましょうか?」

「すまんが、頼む。」


構いませんよん。
私だって、猟友会の先輩達にガッツリ教わって出来るようになったんですから。
後任に教えるのは、ある種の義務です。


ドーツさんは笑顔になると、解体技術を見たい人を募り出した。
『あんなのムリ』『どうせ、先天スキルで・・・』
など、ブチブチ言ってるのが聞こえる。


「カン君。こっち。」

「何スか?」


ちょいちょい、と手招きすると、素直に寄ってくるカン君。
彼の肩を掴むと、ドーツさん達に向けて言った。


「一つ言っときますー。
私の解体スキルは、先天スキルですけど。彼は、完全後天スキルですからねー。採取も解体も、後天だって練度は上がりますからねー、っと。」

「っっ!!!!!!!」


いいリアクションだ。
どうだい、後天スキル持ちに負けた感想は。
二極化してるね。
目を輝かせる人と、苦虫を噛み潰したような顔の人と。


「リンさん、だから悪人顔。」

「だって、悪人だもーん?
聞きたくない人間に、渋々嫌々聞かれるより、しっかり興味持ってくれる人に教えた方が良いしー。」


現にその様子を見て、ドーツさんは解体指導を受ける人間を振り分けてるみたい。


「《迷い人》の恩恵は、頑張る皆さんの味方ですっ、てね。」

「・・・わかりましたよ。お手伝いするっス。」

「よろしくね。」


ぽん、と肩を叩いて、ニヤリと笑う。
カン君は、ポリ、と人差し指で頬をかいたあと、大きく息を吐いた。

じゃ、臨時講義やりましょか。





**************



解体入ると、長引くなぁ(´ー`)
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