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異世界で生きるために
14.テンプレやっちまった?
しおりを挟む「・・・んー」
窓から差し込む朝の日差しに目が覚め、大きく伸びをする。
ゆっくりベッドで眠れたことで、身体が軽い気がする。
隣のベッドを見ると、抜け殻。
もう、カン君は起きているようだ。
部屋から出ると、朝ごはんを作っているピオッティさんがいた。
「おはようございます。」
「あら、おはよう。ゆっくり眠れたかい?」
「おかげ様で。ありがとうございます。」
「それは良かったよ。顔洗うなら、裏にポンプあるからね。」
はい、と木綿の手ぬぐいの様なタオルを渡されたので、外に出、家の裏に向かった。
パシャ、と水音が聞こえてくる。
「おはよー」
「おはようございます。」
先客は、カン君。既に顔と頭を洗ったようでタオルで拭いていた。
「二日酔いはない?」
「大丈夫です。・・・寝てしまってたみたいで、すいません。何かやらかしてなかったですか?」
「なんも?あーそうそう。ベッドまで運んでくれたの、イーベさんとファーマスさんって冒険者さんだから。後でお礼言ってね。」
「わかりました。あ、水だします?」
「うん。おねがーい。」
寝ぼけて甘えてたよ、なんて事は、彼の名誉の為に言わないでおこう。うむ。
「これから、どうしようねぇ。」
「いつまでも、イーベさん達のお宅にお邪魔しているのも悪いですよね。」
「したら。仕事させて欲しい事と、空いている家が借りられないか、って頼んでみようか。」
「そ、ですね。」
顔を洗い、頭から水をかぶるとスッキリする。
・・・そういや、他にもピオッティさん達に言わなきゃいけない事あったんだ。
私達は家に戻り、イーベさん夫妻にお願いをする事にした。
***
朝ごはんをいただいた後、私達は2人にお願いと今後の相談を始めた。
伝えたのは以下の3つ。
・元の世界に帰られるかはわからないため、この世界で生きていくためのルールを教えてほしい。
・仕事をさせてもらいたい。採取と狩猟の手伝いをしたい。家も借りれたら嬉しい。
・できれば、魔獣と戦う術を教えてほしい。
「うーん。そうだねー。この国やこの世界の事は知った方が良いね。」
「昨日見てましたら、皆さん魔法のようなもの使ってましたよね?私達の世界では魔法は無いので、生活に必要ならば教えて欲しいんです。」
バーべキューの準備の時に、女性陣がどこかから水を呼び出して、食器を洗っていたり。男性陣が土からテーブルやカマドのようなものを作っていたのを見ていたので、魔法はあるだろうと踏んだのだ。
「そうだね、魔法の適性もみて、使い方を知った方が良いだろうね。」
「仕事がしたいって言うのは?」
ウンウンと、頷きながらピオッティさんは聞いてくれる。イーベさんがその先を促してきた。
「この世界で生きるために、お金必要ですよね?生活していけるだけの仕事をしたいです。それに・・・」
私は、バックパックを持ち出す。
言わなきゃならないこと。
それは、勝手に森の中で採取や狩りをしたこと。
悪意があると、森からペナルティーをくらうようだから、採取自体は問題なかったのかもしれないが、イーベさん達のテリトリーで勝手に採ってしまったのは事実。
日本だって、山菜採りは、人の敷地で勝手にやってはダメなんだから。
「森での採取や狩猟は、イーベさん達が担ってるんですよね?私達昨日、森から出てくる時に、勝手に色々と採ってきてしまってるんです。ごめんなさい。」
「ほう?」
「入れる人が限定されている森で、それが特産品の原料なら勝手に外で売るのはマズイでしょ?だからお返ししたいのと。まずは皆さんのお手伝いをする事がルールを知る1つかと思って。」
「はぁ、真面目な子たちだねぇ。」
「わかった。後で採ってきたものはみせてもらう。で、魔獣と戦う術は何で知りたい?」
ため息混じりに、呆れたような声を出すピオッティさん。
イーベさんは、段々と真剣な表情になってきた。何だろう、地雷踏んだかな?
「魔獣は・・・」
「俺たち、この世界に来た時に、デカイ動物に襲われました。俺らの世界では見たこと無い奴だったので、魔獣だったのかな?と。あれが、この世界の標準なら、倒せるだけの力が必要と思ったんです。」
言い淀んだ私の代わりに、カン君が伝えてくれた。
イーベさんは、怖い顔になって、その先を促す。
「どんな魔獣に襲われた?」
「えっと・・・鹿、コッチでは、ディルと言いましたっけ?それのでっかくて、頭の真ん中に赤い角が生えた奴です。」
「ビガディールか!!」
ガタン、と椅子を倒す勢いでイーベさんが立ち上がった。
ピオッティさんも、顔が青ざめている。
あ、アイツ、結構ヤバい奴だったのかな?
「不味いな。ファーマスに言って討伐隊組まねぇと。」
「アンタ達、よく生きてられたねぇ。良かったよ。」
涙目のピオッティさんに、慌しく外に行こうとするイーベさん。
あ、これ、単独討伐ダメなヤツだ。
思わず、ひきつり笑顔でカン君の顔を見る。
「リンさん。・・・言った方が良いと思います。」
「・・・だよねー」
冷静に促され、私は正直に伝える事にした。
銃の存在も説明しなければならないが、まずは、混乱を避ける方が良いだろう。
恐る恐る、手を挙げる。
「あの。イーベさん。」
「何だ?」
「倒してます。それ。」
「・・・はぁ?」
「だから、ビガディール、でしたっけ。鹿モドキ。倒しました。」
「・・・・・・はぁぁぁ!!??」
イーベさんの絶叫が響いた。
***
イーベさん曰く、ビガディールはランクBの強い魔獣。しかも、最近の目撃情報から、通常のビガディールより大きい個体で、ランクA相当の可能性を考えて、ファーマスさん達冒険者が調査で来ているぐらいだと。
「で、嬢ちゃんたちが、ビガディール倒したってのか?」
昨日の広場に出、集まってきた集落の人たちに説明する事になったのだが。
先頭にいるファーマスさんの眼光が鋭すぎて、ゾクゾクします。
昨日の雰囲気と違って、怒気が混ざる様な威圧感。
・・・そんなに怒らないでほしいにゃ。
横から見てたいよ、その男前スチル。真っ正面から受け止めると泣きそう。
「とりあえず見てもらった方が良いでしょう?」
私はバックパックに手を入れ、ビガディールの死骸を引き出した。
ずんっ・・・
物騒な重い音を上げ、死骸が鎮座する。やっぱりデカイなぁ。
ついでに、採ってきた野草や木の実、獣類なんかも全部出した。
アイテムボックスは時間が止まるから、腐敗もしないし、小出しにするつもりだったけど。
ビガディールで騒動レベルなら、もう隠す必要もないかと。
カン君も、自分で採った野草類をそっと出していた。
ふと、集落の皆さんを見ると、全員が固まっている。
「で、これがビガディールの角です。首から頭が爆散しちゃったので、角しか残ってないです。」
最後に、40cm程のルビーの様に赤い角をバックパックから出すと、ほい、とファーマスさんに渡した。
「マジか・・・」
受け取ったファーマスさんは、額に手をやると、空を仰ぎ見た。
うーむ。
やっぱり、やっちまった感アリアリですね。
異世界テンプレにハマってしまったご様子。
この集落で、自重という言葉を覚えようと思いますので、どうぞよしなに。
**************
主人公、悪い事した訳じゃないんだけどね。
ファーマスさんは、倒したのが信じられないのと、危ない事しやがって、という心配での、おっかない顔ですよ
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