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異世界で生きるために
13.異世界での居場所
しおりを挟むピオッティさんから聞いた《迷い人》の話。
状況から、私たちは《迷い人》なのだろう。
この国に益をもたらす存在と認識されているのならば、そうそう害されることは無いと思われる。
ただ、当事者として知りたいのは。
元の世界へ、帰ることができるのか。
『元の世界に帰ったって話、ありましたか?』
担当直入な私の物言いに、隣に座るカン君がピクっと反応した。
思わず、彼の方を向く。
彼は不安気な顔を私に向けた。
・・・帰れないって言われたら。
急に喉の奥が締まったような、息苦しさを感じる。
それでも知らなければならない情報。
意を決して、ピオッティさんの方を向いた。
「うーん、どうだったかねぇ。帰った、とは聞いたことは無いねぇ。」
首を捻りながら放たれた言葉は、絶望に近い空気を産んだ。
ただね、と彼女は続ける。
「あくまで、『《迷い人》は、恵みをもたらした』という話があるだけなんだよ。その恵みっていうのも、漠然としていてね。畑が豊作だったのか、料理なのか、道具なんかの作り方だったのか諸説あるんだよ。
あと《迷い人》がその後、この国で暮らし続けたのか、旅に出たのか、元の世界に帰ったのか。実の所わからない、と言ったほうが本当だろうねぇ。」
何とも言えない答えが返ってきた。
帰る術があるのか無いのかわからない状態。
とりあえずは、ここで生きていくことに順応しなきゃならないだろう。
「・・・まぁ、なんだい。とりあえずはこの集落でゆっくりしていきな。落ちついたら、どうするか考えたら良いさ。」
「お気遣いありがとう、ございます。」
何も言えなくなった私の代わりに、カン君がお礼を言ってくれた。
「大丈夫。アタシらは《迷い人》であるアンタたちを歓迎するよ。実家だと思って、くつろいだらいい。」
そう言ってニッコリと笑うピオッティさんを見て、思わず涙腺が緩む。
「すみません。お世話になります。」
私は涙声でお礼を絞りだし、深々と頭を下げた。
***
しばらくすると、ピオッティさんの旦那さんが帰ってきた。
イーベさんとおっしゃる旦那さんは腕の良い狩人で、今日も仲間とディルを2頭狩ってきたと話していた。
私たちの姿を見て驚いていたものの、ピオッティさんから話を聞いた途端、
「よし、みんなに知らせて、歓迎会するぞっ。」
と、一気に飲み会モードになってしまった。
あっという間に、集落の広場で焚き火とバーベキューのようなセットが組まれ、集落の皆さんが集まってくる。
心の準備もつかないままに、皆さんの前でイーベさんに紹介され、一気に飲み会が始まった。
イーベさん達が獲ってきたディル・・・鹿だった・・・も、バーベキューの材料として、鉄板の上に上がっている。
お酒を飲んで良いものか迷ったが、この国の成人は18歳とのことだったので、遠慮なく飲むことにした。
男性13人、女性7人の小さな集落。
全員が《迷い人》である私たちを歓迎してくれた。
年齢層は、30代~50代だろうか。
見かけ10代の私たちは、娘や息子みたいな感じに思ってもらえているようだ。
何だか、仲の良かった原野地区のおじさんおばさん達を思い出し、少し切なくなった。
おじさん達の狩猟話や、おばさん達の採取話をたくさん聞き。
バーベキューも果実のお酒も美味しく、つい食べ過ぎてしまう。
とす、と右肩に重みがかかり、振り向くと、カン君が酔い潰れて寄りかかっていた。
「ありゃ、もう酔っちまったのか?デカイ図体してんのになぁ。」
「彼、お酒弱いんですよ。ごめんなさい。・・・ほら、カン君。危ないからこっち。」
「ん・・・」
倒れられても困るので、私の身体をつたう用にズルズルと身体を横にさせる。
膝枕のようになったが、身体全体でのしかかられるよりはマシだ。
昨日から緊張し通しで、今日もずっと歩いてきた上、苦手なアルコールだ。酔いが回って当然か。
「お疲れ。」
ポンポンと頭を撫でる。
彼は少し身動ぐと、甘えるように額を私のお腹に寄せてきた。
そんな様子を見ながら、イーベさんがからかってくる。
「仲良いなぁ。2人は恋人同士か?」
「違いますよ?」
即断で答える。
今は見かけ上10代だが、本来なら10歳は歳が離れている。
私としては、めんこい後輩だな、としか思ってない。どちらかといえば、弟枠だろうか。
それに、10歳上のおばさんと恋人にされるのは、彼にとって不本意だろう。
否定は大事。
「ふーん?坊主は甘えてるみたいだけどな?」
「仕事仲間ですよ?そもそも、彼の好みじゃないようですし・・・まぁ、こっちに来て、頼るところもないまま一緒に居た、同郷の人間ですから。無意識的に甘えたくもなるんじゃないですかね。」
「そんなもんかね?」
彼の好みはフワッと系一生懸命キャラだったハズ。安心して下さい。私はかすりもしてませんよー。
それでも、ニヤニヤが止まらないイーベさん。
田舎でもあったなぁ。飲み会となると、付き合っていない若者同士くっつけようとする感じ。
・・・姉と弟設定の方が良かったかな?とちょっと後悔。
「ほらほら、アホなこと言ってないで。寝床用意したから連れてってやんな。」
「仕方ねぇなぁ。おい、ファーマス。手伝ってくれ。」
「あぁ。」
「あ、ありがとうございます。」
ピオッティさんの言葉に、イーベさんはその隣にいた方に声をかけ、カン君を運んでくれた。
「ほら、リンちゃんも休みなさい。」
「でも、片付けが、」
「いいから。今日はお客さん。ゆっくり休みなさい。」
「・・・すみません。ありがとうございます。おやすみなさい。」
女性陣に手を振られ、私はお辞儀をすると、カン君を運ぶイーベさん達の後を追った。
***
イーベさんの子ども達がたまに使うという部屋に、ベッドが2つ用意されていた。
その1つにカン君を転がし、イーベさんとファーマスさんとおっしゃる体格の良いおじ様冒険者さんは出ていく。
「ゆっくり休みな。」
「はい、ありがとうございました。おやすみなさい。」
去り際に、ファーマスさんの厳つい顔から繰り出された、甘いバリトンボイスに、思わず顔が赤くなる。
隠すようにお辞儀をした私の頭を、大きな手で撫でると、ファーマスさんは部屋を出ていった。
戸を閉め、ズルズルとへたり込む。
・・・やっば。
低音イケボなガチムチ強面オッサン冒険者なんて、めっちゃどストライクなんですけど。
鼻血出そう。
生で拝見できるなんて、異世界だねー。
・・・。
・・・・・・落ち着け、自分。
・・・酔った頭と疲れで、変なテンションになってるわ。
軽く頭を振り、大きく息を吐く。
ひとまずこの集落は、私達にとって味方となってくれそうだ。
しばらくはココで、この世界のルール理解と、生活していく術を獲得していこう。
床から立ち上がり、ベッドに向かう。
気持ち良さそうに眠るカン君に、毛布をかける。
隣のベッドに入ると、大きなあくびが出た。
外からは、まだ飲んでるのだろう、男性達の笑い声が聞こえてくる。
騒がしい音をBGMに、いつしか眠りに落ちていった。
**************
主人公、オッサン萌えだそうだ。
後輩君、どうしようか。
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