転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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異世界で生きるために

6.狩ったら始末が必要です ※ 残酷描写あり

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※ スプラッタな表現がございます。ご注意下さい。





*******


どうも。アラサー狩りガール、佐伯鈴です。

田舎の山の中で鴨撃ちに向かっていたはずが。

光に包まれ、北の大地ではない・・・というか、日本でも地球でもない所に飛ばされて。

着いた途端に、殺傷能力の高そうな、鹿モドキに襲われて。

威嚇発砲のつもりが、どうやら倒してしまったようですよ。←今ココ




殺られる恐怖から一転。
辺りがスプラッタと化していた。

倒れている鹿モドキの首の付け根から、血がドクドクと流れている。
少し離れた場所に、赤いツノが落ちており。
その周囲には、血飛沫と肉片が飛び散っている。

周囲を見渡し、他に獣が居ないことを確認すると、構えていた相棒を下ろす。
銃身を折り、空薬莢と、発砲しなかった弾を取り出す。


「・・・どーなってんの。」


通常、100m前後がMAX射程のスラッグ弾を放った所で、貫通か、体内に弾が留まるか。
しかも、あんなにデカイ体躯で、コッチに迫ってきていたんだ。
貫通が当然だろう。

そもそも、散弾銃から放つスラッグ弾に、爆散する威力なんてない。

威力が増している?
異世界だから? 

・・・まぁ、とりあえず、目の前の脅威は去った。

になってる銃の威力の検討は後回しにして。
これからどうするか、状況把握しなきゃなぁ。

血の匂いが漂う中、漠然とそんな事を思っていた。


「・・・佐伯、さん?」


ボーっとしていた私の斜め後ろから、声がかかる。
振り返ると、俯き気味の青ざめた顔でカン君が突っ立っていた。
ちょっと、ブレーカーに血がついちゃってるね。白いから目立つなぁ。


「・・・んぁ。大丈夫だったかぃ?」


へら、と笑いながら、声をかける。


「・・・・・・んで。」

「ん?」


首を傾げ、カン君を見ると、彼はキッと私の顔を、見据えた。


「なんであんな無茶したんスか!!」


大声で、彼は吠えた。

泣きそうな顔、なのかな?糸目が潤んでいる気がする。

私の事を心配した?
それとも、庇ってた筈なのに、庇われたのがご不満だったかな。

ふぅ、と大きく息を吐き、彼の前に向き直る。


「仕方ねーべ?あの鹿モドキに対抗できうる武器持ちは、私だけだった。そんだけ。」

「それでもっ・・・!!」

「丸腰で立ちはだかっても、勝算なかったしょ?あのツノに刺されて終わりじゃね?」


それでも、と、イヤイヤと首を振る彼に、ハッキリと告げる。


「・・・身を呈して死ぬなんて、あり得ないから。」

「・・・っ!」


思わず、キツイ口調になってしまった。

私を庇って死ぬなんて、冗談じゃない。
物語にしたら、カッコいいのかもしれないが、そんなの只の自己満足じゃないか。
私はそんな事望んじゃいない。

私には対抗できる武器があったんだ。
戦うべきは私だ。

唇を噛み締めた彼は、それ以上何も言う事は無かった。


・・・さて。

あまり、血の匂いをそのままにするのもよろしくないよね。他の獣が寄ってきても面倒だし。
このままにして逃げるか、解体して埋めるか。デカイから、解体も大変そうだなぁ。

ふと、鹿モドキの死体に目をやる。


・・・コイツ、食えるのかなぁ?


エゾシカはそこまで獣臭さがなく、食べやすいんだけど。
この世界の食料事情もわからないので、背ロースとモモ肉位は取っておこうかな。計らずも、首が吹っ飛んでる事で、良い感じに血抜きになっているようだし。

そんな事を考えながら、銃身を解放した相棒を地面に置き、解体用ナイフやビニール袋、折りたたみスコップを取り出そうとバックパックを開ける。


「・・・あれ?」


バックパック内の一番上に入っているはずの、散弾の箱が無い。
というか、中身が見えない。
中が暗黒空間になっている。


「んんん?」


首を傾げて、バックパックを持ち上げてみる。

・・・軽い。バッグ自体は満タンに近い膨らみ方なのに、何も入っていないかのように軽い。背負ってた時は、気にもしてなかったけど。

おもむろに、逆さにしてみた。
重力に引かれて落ちるはずの荷物が、出てこない。
これって・・・?


「どうしたんスか?」


ちょっと頭が冷えたらしいカン君が、首を傾げうんうん唸りながらバックパックをイジる私に声をかける。


「何か、バッグが、不思議な事になってる。」


そう答えながら、恐る恐る暗黒空間に手を入れてみた。

すると、目の前に、というか、脳裏にというかに、バックパックに入れてきた荷物の一覧リストが並んだ。まるで、ゲームのアイテムリストのように。


「・・・おぉぅ。」


アイテムボックス化ですかね?
無限収納的な何かでしょうか。
転移したら、必ずもらえる特典か何かなんでしょうか。


「佐伯さん?」

「ゲーム的、アイテム収納になってるっぽいわ。カン君のバッグはどう?」

「へ?」


私の問いかけに、カン君は慌てて自分のバッグを開けた。
中を見た瞬間、ビクっとして私を見てきた。


「・・・暗黒な空間が見えます。」
「やはりか。手突っ込んでみて。」


言われた通りに手を突っ込んだ彼は、「ぉわっ」と奇妙な声を上げた。
私と同じくリストが見えているようだ。

どうやら、私からカン君のバッグのリストは見えず。また、カン君のバッグの中身も、暗黒空間ではない、普通のバッグの中身のように見えた。

カン君も同じく、私のバッグの中身は見えないし、お互いばくって確認してもリストが出てくることはなかった。


「バッグについては、持ち主は固定化、ってコトだろうかね?」

「そうみたいっスね。」


どうやら、バッグのなかに手を入れて、脳内リストに浮かんだものから、欲しい物を念じ、手を引き抜くと取り出せる仕組みのよう。
入れる時は逆で、手にしたものを入れたいと思えば良いようだ。

先程活躍してくれた相棒の銃身を戻し、首に巻いていた手ぬぐいで血飛沫を拭き取るとバッグにしまってみる。
リストに【ウィンチェスター上下二連銃  1】と追加された。

まぁ、検証は後回しにして。
まずやることは。


「コイツ、入るかな。」

「マジすか?」


出てくる血がなくなった鹿モドキの死骸に手をかける。
カン君がちょっと引き気味。

なんで、そんな顔するかなー
せっかくの異世界初獲物だもん。持って行きたい。肉食ってみたいし。

人里降りられれば良いけど、行けなかったら川辺りで解体出来れば良いかなと。 
今後の食料と、皮なんかは資金源にならないかな。鞣さなないと買ってもらえないとかないよね・・・


「入れっと・・・お、入った。」


目の前から、巨躯が消え去る。
バッグに手を突っ込むと、リストに【ビガディールの死骸  1】と表記されていた。

ふむ。あの鹿モドキ、ビガディールって言うんだ。
側に落ちてる40cmくらいある赤い角も拾ってバッグに収納。
これも、【ビガディールの真紅角  1】と表記された。
デカイ物も入るもんだね。便利だこと。

さて。

血溜まりだけ埋めて、ここ離れた方が良いかな。

アイテム収納から、折りたたみスコップを取り出して組み立てると、血溜まりの周囲から掘って土を反転させた。
途中から、カン君がやってくれたのですぐ終わった。
細かい血飛沫や肉片は仕方ない。

まずは、血まみれの自分たちもどうにかしないと。
川辺りで休める場所を確保したい。
私たちは、風が流れてくる森が開けていそうな方向に向かって歩き出した。
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