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狩りガールの日常

2.ひと狩り行こうぜ?

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・・・2個上の夫、佐伯康平は、同じく役場職員で、部署の先輩だった。

女らしさのカケラもない私の何処が良かったのか、好きだと不思議なことを言い。就職2年目から何となく付き合って。
フツメンだが、家事スキルが高く、なんでもソツなくこなす。子どもが居たらイクメン通り越してオカンになれるんじゃないかって人。
真面目で仕事の信頼は厚く、適度にオタク。

早いうちから結婚アプローチはあったけど。私が仕事が一番になってしまっていて。28でokするまで、穏やかに我慢強く待っていてくれた人だった。

結婚後一年で、膵臓がんが発覚。頑張ったけど・・・若い分進行も速くて。

彼の死後、一年は何してたか覚えていないくらい、がむしゃらに仕事してた。

三年たって、漸く笑えるようになっただろうか。
向こうのお義父さんお義母さんとは関係は良かったからこのままで良かったんだけど。子どももいなかったし、「若いんだから、良い人見つけなさい」と婚姻関係終了届の提出を勧められて。

同期や先輩たちがする、彼の思い出話も受け入れられるようになった、と思う。

そして、今頃転生してどっかで楽しくやってるのでは、と思えるようになった。
彼は、転生モノ、転移モノの小説や漫画が好きで。最期が近い時にも「転生して、チート持って、楽しくやるから。」と笑って言ってた姿が懐かしい。

色々受け入れたけど。
それでも、繋がりは切りたくなくて。
復氏届は出さずに、未だに彼の姓を名乗っている。

・・・とは言え、目の前の子には、そんな細かい事情を話すほどの仲でもなし、聞かされてもしゃーないだろうから、黙っていた。
妙な沈黙が流れ、ちょっと居たたまれない。


「そういやお前、明日早いって言ってたけど、何かあるのか?」


事情を知る今中が、気まずい空気に耐え切れず、口を挟む。
昔から、無理矢理話題転換が得意よね。助かる。


「うん。鴨解禁だからね。猟友会みんなで鴨撃ち。日の出が5時半頃だから、5時集合なんさ。」

「リアル『ひと狩り行こうぜ』だったか。相変わらず朝早えぇなぁ」

「そだねぇ。日の出スタートだしねぇ。流れでは、鹿も行くかもー。」


私の台詞に、今中は苦笑いする。
10月1日は鴨猟の解禁日。今年は丁度土曜日で、動きやすい。銃が撃てるのは、日の出から日の入りまで。追われる鴨はその後過敏になるから、解禁日の朝一は人気なのだ。

農林水産時代に、若手の成り手がいないからと、先輩たちと夫に勧められるがままに、銃所持と狩猟と罠免許を取ってしまった。

・・・これも、夫との繋がり。逝く前に譲渡された上下二連は大事な形見。
譲渡手続きのために警察に行ったのが、最後のデートって・・・ウチららしいけどさ。

でもまぁ、かれこれ10年。ライフル取得を考え中。散弾やスラグ弾では、熊に致命傷は難しいのだよ。罠のトドメなら良いんだけど。

なーんて考えていたら、隣の糸目がまだこっち向いてた。こてん、と首を傾げる。図体デカイのに、動作がめんこいね、キミ。


「・・・狩り、ですか?」 

「うん?狩りだよ。」

「・・・ゲーム、ではなく?」

「リアルでハンターですが、何か?」


ポカン、と口を開けたまま、こっちを見ている様子が可笑しくて。くす、と笑いが漏れてしまった。
数秒の間の後、カン君は喉の奥から絞り出すように、声を出した。


「・・・・・・付いて行っても、いいスか?」

「・・・はぃ?」 


予想だにしない斜め上の質問に、思わず、シーズン16までいった某刑事ドラマの主人公ばりの低音が出てしまった。 

身長デカイと座高もあるよね・・・私を見下ろす彼の目線が所在なさげに泳いでいる。
・・・ふむ。糸目だと、睨んでるようにしか見えんな。 


「んーと・・・狩猟に興味あり?」

「・・・狩猟、と言うか、山と写真・・・ですかね。」

「写真?」

「・・・自分でカメラ買ったんで・・・」


とりあえず口数少ない彼の意図を分析。

・・・オーケー、分かった。
広報の仕事について、カメラに興味が出て、自分でも買ったと。
で、被写体探しに山に行ってみたい、と。
まぁ、ハンターなら山奥にも入るし、ガイドとしては優良物件か。
まぁ、そういうことなら。


「別に良いよ?自宅は5丁目付近の職員住宅だったっけ?集合場所に5時だから、4時50分にあの近くのコンビニ前にいれば拾ってくよ。ただ同乗だと、昼過ぎの解体終わるまで解放出来ないけど。」

「・・・イイんスか?」


泳いでた視線が私をとらえる。無表情に見えるけど、空気が嬉しそうだね。何か耳と尻尾が見える気がする。

 「うん。こんな機会でもなきゃ、山奥に入る機会なんてそうそうないでしょ?あと、猟友会はいつでも若手募集だし。見学とか大歓迎。」

「で、飲み会に行ったら、いつの間にか入れられてんだべ?」
 
「そうそう。"まぁ飲め"、飲んだら"飲んだな?入れ"だもね。」


今中の突っ込みに、笑いながら応える。
何処の悪徳商会だ、って話だけど、根底にやりたい気持ちが燻ってた場合には、キッカケになるのも事実。


「まぁ、入ったばかりの新人君に無理強いはできませんて。・・・おじさん達にはだろうけどさ。夜はみんなで鴨鍋やるし、おいで?」

「・・・はい。」


怖がらせないように、作り笑顔で声かけると、無表情の目尻が下がる。
ふむ。コレは見込みあるかな?カメラからの、狩猟。

ふと、彼の後ろの壁掛け時計が目に入る。21時。リミットかな。モソモソと帰り支度を始める。


「帰んのか?」

「もう、リミットだねー。明日の準備して、風呂入って寝る。」

「おぅ、お疲れー」


帰るのを察した酔っ払い達が絡んでくるのを適当にあしらいながら、私は席を立つ。
あ、そうだ。付いてくるなら大事なこと言わなきゃ。


「朝ご飯と昼ご飯と飲み物は持っておいでよ。あ、町内コンビニは、朝5時半じゃないと開かないから。買うなら、閉まる24時前にね。」

「・・・マジすか。」


田舎のコンビニは24時間営業なんてしてません。コレ重要。だって真夜中動かしても費用対効果上がらないもの。

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