転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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ひと狩り行こうぜ!リターンズ

371.ひと狩り行こうぜ!リターンズ 其の七

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※前の3話を修正し、タイトル変更しています。



***************




スローモーションのように迫る巨躯。
禍々しいオレンジ色と青色の縞模様が目前に迫った。



「ーーー がはっ!」



激突の衝撃と、内臓が急激に圧迫される痛み。
口の中に広がる鉄の味。
身体強化と、かろうじて残っていた【 保護プロテクト 】の効果で、即死は免れたようだけれど。

なす術なく、自分の身体が宙に舞い。
地面に叩き付けられ、弾んで転がっていく。

まるで、昔、缶蹴りした時の缶のようだ、と、何処か他人事のように感じていた。


「ーーー ぐっぁ」


急いで立ちあがろうとすれど、力が入らない。倒れ込んだまま、上半身だけ持ち上げる。

やばいやばいやばい。

水薬ポーションを空間収納から取り出そうとして、取りこぼす。

轟竜ロア・ドラグが方向転換して、此方に迫るのが見えた。

慌てれば慌てるだけ、身体が動かなくなる。

轟竜ロア・ドラグは、大きな口をあけて接近してくる。



「うそ・・・」



こんなトコで、終わり?

恐怖、後悔、無念・・・
死を目前にして、ぶわり、と感情が渦巻き、視界が歪む。



「そんな、の、」



そんなの、嫌だ。

こーくんとやり直せて、
カン君と分かり合って、
師匠に巡り会えて、

まだ、コレから楽しい事あるのに。



「や、だ。」



元の世界アッチに居た時なら、それも良いかって、思ってた。

・・・黒崎くんが消えて。
・・・こーくんが居なくなって。

私と繋がる人は、居なくなるから。
居なくなってしまうことが分かったから。

生への執着が無くて。
ただ毎日、無為に生きてた。


ーーー でも、今は違う。


腕一つで成り上がる冒険者で。
気の合う仲間と協力して闘えて。
思いを寄せてくれる人が居て。
・・・甘やかされる事にちょっと慣れて。

こんな毎日が、
楽しいって。

誰かを思うだけで、
胸が温かくなることが、
幸せなんだって。

漸く、思い出せたのに。

走馬灯のように、みんなの笑顔が脳裏に浮かぶ。


地響きと咆哮が迫った。




「い・・・やだぁああっ!!」




ダメ元で身体強化をかける。
これでも、あの牙には無意味なんだろう。

それでも、諦めたく無くて。

最期まで、悪あがきを。


轟竜ロア・ドラグの大きな口が、目前に迫る。


ーーー 喰われる。


銃剣ヴェルを抱き抱えて、私は身を縮こまらせた。
ぎゅ、と目をつぶってしまう。



Gyugooooo!!!!



覚悟した。



・・・でも。
咆哮だけが響き渡り、いつまでも衝撃が来ない。

恐る恐る目を開けると、大口を開けた轟竜ロア・ドラグの姿が目前にあるのに。
何かに阻まれて、その牙が届かない。

よく見ると、濃い赤橙の光が、丸く私を包み込んでいた。



「何、これ?」



【 障壁バリア 】であることは分かる。
でも、通常の【 障壁バリア 】は白っぽい半透明な色。

ふと、仄かにエスプレッソとバニラの様な香りと、胸の当たりに暖かさを感じ、目線を下に下げると、胸元から赤橙の光が溢れ出していた。



「これって・・・」



この【 障壁バリア 】は、絶対に破られない。
直感的にそう感じる。
逞しい背中に、守られているような安心感。
だって、これは・・・




ーーー GYAAAAAAA!!



けたたましい咆哮に、意識を戻される。

怒り狂った轟竜ロア・ドラグが、再度【 障壁バリア 】に突進を仕掛けたその瞬間。

ぶわり、と胸元から、今度はキラキラと白銀が煌めく翠の光が飛び出し。
その光はそのまま、凄い勢いで轟竜ロア・ドラグへと向かい、その巨体を吹っ飛ばした。



「・・・え?」


突進の勢いがそのまま跳ね返った様な勢いで。
ぶわり、と風が舞って。
其処に漂う残り香は、シトラスミントで。

慌てて胸元に手を当てると、かちゃり、とドックタグとチャームが音を立てた。
首にかかる鎖を引っ張り出す。

盾のモチーフのチャームに付いている3個の宝石。

紅亜鉛鉱ジンカイトが力強く赤橙に輝いて。
翡翠ジェイドがキラキラと白銀の光を纏っていた。

すると。
残る1つ、黒曜石オブシディアンが急に発光し、金色の光の粉を振り撒き出した。

光の粉は、甘く芳しい果物の香りを纏い、そのまま私に降り注ぐ。
身体が仄かに温まり、消耗していた体力や魔力がグイグイと戻っていくのを感じた。

思わず、チャームをぎゅ、と握りしめる。


『ーーー 術式を組み込みました。・・・条件付き発動【 再生回復リジェネーション 】と、【 反射攻撃リフレクトアタック 】と、【 絶対防御アブソリュートディフェンス 】』



カン君の声が耳奥で響いた気がした。


『ーーー リンさんの体力が2割を切ったら【リジェネ】が発動。気絶してる時や動けない時に攻撃を食らったらそのまま攻撃を相手に【反射】。体力1割切って死にかけの時には全ての攻撃から完全に【防御】するっス。』


握りしめたチャームは、仄かに温かくて。
絶望に苛まれていた気持ちが、少しずつ解れていく。



『ーーー 俺らが居ない時、どうしても別行動しなきゃなんない時、俺らがすぐ行けなくても、リンさんが耐えられるだけのモノが有れば、俺らが安心だから。上手く使って?』

『ーーー 信用ないんだなぁ。』

『ーーー うん。だって、無茶するしょ?無理しない、って言ってたって、リンさんは、人の為なら無茶しちゃうんスから。だから、せめて、俺が居ないところでなんて倒れないで下さい。』



チェスター家のお屋敷の裏庭で、眉を顰めて、泣きそうにしていたカン君の顔が浮かぶ。
あの時は、過保護だって苦笑してしまったけれど。



「・・・心配されてたとおりに、なっちゃったな。」



女神像の前で絆を契った時、どんな気持ちで、みんなは魔力を込めてくれたんだろう。

兎に角、死の恐怖に抗える力を預けてくれた、3人の気持ちが。
今は、とても、とても、有難くて。



「ーーー うん。」



まだ、やれる。
まだ、耐えられる。

ぐ、と、握りしめた拳に、力が戻る感覚。

ふと見ると、吹っ飛ばされた轟竜ロア・ドラグは、まだ気絶スタンしているのか、ちょっとフラフラしている。



「今のうちに・・・【付与・解放エンチャント・リリース】」



魔石の【 障壁バリア 】と【 迅速ヘイスト 】と【 攻撃倍加ダブルアタック 】を解放し、重ねがけして。
徐々に回復している魔力で、雷弾と麻痺弾を装填し直して。
予備弾にも雷と麻痺属性魔力を充填して、弾帯にセットする。

カン君が込めてくれた【 再生回復リジェネーション 】の威力がヤバい。
通常なら、体力HP の脈動回復だけだろうに。
何で魔力MP までじわじわ戻ってんのさ。

実際、劣竜種レッサードラゴン戦での【 再生回復リジェネーション 】は、体力HP だけが脈動回復していただけだったのに。
・・・ホントに、規格外チートだよねぇ。

大きく息を吐き、ゆっくり立ち上がり、軽くストレッチと屈伸運動をする。
うん、しっかり回復してて、問題なく動けそう。

どうやら、轟竜ロア・ドラグの方も、気絶スタンから立ち直ったみたいだ。
完全にお怒りモード。

でも・・・負ける気は、しない。
ココまで助けてもらって、負ける訳にはいかない。
それに、きっとカン君は、近くまで来てくれている。

さぁ、仕切り直しだ。

準備万端、整った時。
胸元のチャームの宝石達が、ピシリと音を立てて砕けた。

私の周りを防御していた、赤橙色の障壁が消えていく。

轟竜ロア・ドラグの咆哮が、再試合の合図。



「んじゃぁ、再挑戦リトライ、行きますか!」



だんっ、と思い切り地を蹴り、私は轟竜ロア・ドラグに向けて駆け出した。


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