転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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ひと狩り行こうぜ!リターンズ

369.ひと狩り行こうぜ!リターンズ 其の五(カン視点)

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「な、何を・・・」


俺の怒鳴り声に、アレだけ騒いでいた村人達が静かになる。

怒りのタガが外れたら、後は一気だ。
話を終わらせる。
リンさんの側に行く。
ただそれだけ。



「俺達が受けた緊急クエストは、あくまで『魔獣暴走スタンピート鎮圧』だ!それを、俺達が『疾風』と組んでるのが面白くないあの氷女神クソ女が、勝手に火蜥蜴サラマンダー討伐数の勝負を仕掛けてきた!だから、本来なら火蜥蜴サラマンダー討伐を優先した魔獣討伐だけで良いのにっ・・・彼女が・・・リンさんが「村を防衛する」って言うから!彼女の意を汲んで、俺は此処に残っただけだ!!」



身体の奥にある、熱い塊がぐるぐると渦巻く。
気をつけなければ、魔力が暴発してしまいそうで。



「その彼女が、『氷戦神アイツら』にハメられて、今窮地なんだ!!もう村の防衛はできた!火蜥蜴サラマンダーでも通れない結界は張った!冒険者も自警団も回復させて前線維持は出来ている!もう、防衛は成っただろうが!これ以上俺に何をさせようってんだ!!」



そこまで言い切り、深く息を吐く。

自警団や冒険者達は息を呑み、申し訳なさそうな顔をする。
でも、村人達は納得していないような顔だ。

そんな中、自警団のリーダーが口を開いた。



「君の善意に甘えるだけで申し訳ない・・・結界も強固で、水薬も潤沢に置いてくれた。もう、村の入り口の防衛は、我々だけで対応可能だ。」

「・・・ああ。そう、だな。魔獣達の波も落ちついたから、前線は俺達だけで問題ねぇよ。早く、あの姉ちゃんのトコに行ってやってくれ。」



続けて、冒険者からも声が上がった。
戦いに身を置いた人達はわかってくれるようで何よりだ。

しかし、村人達はそうではなかった。



「ふざけるな!『氷戦神アイス・アーテナー』を犯罪者呼ばわりしやがって!!どうせその水晶だって偽造だろう!」

「そうだ!何で離れているのに、記録水晶が作動するって言うんだ!この嘘つき!」

「おい!その水晶を寄越せ!そんな作り物割ってやる!」

「うるせぇ!!!」



案の定、『氷戦神クソども』を擁護する連中に反吐が出る。



「アンタらがどう思おうが関係ねえ。俺は魔法で水晶を遠隔操作する術を持っているだけだ。そこにあるのは紛れもない事実だけ。・・・これ以上ごちゃごちゃ言うなら、結界外すぞ?」



思わず、右手に魔力がこもる。結界が、一瞬揺らいだ。
俺の最後の言葉が本気だと分かったのだろう。村人達は怯む。


「ひっ卑怯だぞ!力があるからって、ワシらを脅すのか!」

「そんな脅しになんて屈しないぞ!」

「あぁ、そうかよ。」



・・・面倒クセェ。
これが、『氷戦神クソども』の人心掌握というものか。



「じゃぁ、その『氷戦神アイス・アーテナー』サマに助けを請えば良いだろ?したっけ、結界は外すな?」

「ちょっ!それとこれとは話が違う!」

「何が?この強結界貼るための魔導具は俺の自作だし。俺の助けはいらねーんだろ?だったら外すだけだ。」

「・・・待ってくれ。」



大騒ぎする村人達とは違う、落ち着きはらった声が、村の入り口の方から聞こえた。



「ナガン!?」

「ナガンだ!『炎鳥ファイヤー・バード』が帰ってきた!」



村の入り口からやって来たのは、6人パーティーと思しき冒険者達。
ガタイの良い盾役と思われる男を先頭に入って来た。
ナガンと呼ばれたこの男が、先程の声の持ち主なのだろう。



「ナガンが帰って来たってことは、サラマンダー退治は終わったんだな?」

「ナガン!『氷戦神アイス・アーテナー』はどうした!?」



村人達がピーチクパーチクと、彼らを取り囲み騒ぎ出す。
そんな様子を構う事なく、彼らは、真っ直ぐに俺の所にやってきた。



「ナガン!そいつが『氷戦神アイス・アーテナー』のことを悪く言うんだ!彼らが冒険者を囮にしたなんて・・・」

「そうだろうな。」

「なぁ、ちが・・・は?」



村人達に目もくれず、落ち着いたトーンで言い切ったナガンという男は、俺の目の前で歩みを止める。



「君が、リンさんの仲間の・・・クラスAパーティー『旅馬車トラベリン・バス』のカン君で合っているかな?」

「・・・えぇ。そうですが。」

「俺はクラスBパーティー『炎鳥ファイヤー・バード』リーダー、ナガンと言う。俺達は森の中で、アグウルグの群れに襲われていた所を、リンさんに助けられた。彼女から、君と入れ違いで村を守ってくれと頼まれている。だから、此処のことは俺達に任せて、早く彼女の支援に行ってくれ。」

「おい!ナガン!」


キッパリと言い切った彼の言葉に、俺は目を見開いた。
周囲の村人達が慌てだす。



「おぃ!そいつは『氷戦神アイス・アーテナー』の・・・」

「『氷戦神アイス・アーテナー』はっ!!」


まだ、『氷戦神クソども』の事を擁護しようとする村人達の声を抑えるように、ナガンさんは声を荒げた。



「アイツらは!俺達が5体目のサラマンダー退治に手こずっていたのを、横から乱入し、倒していった。その上「助けてやったんだから。」と、先に倒していた4体の討伐部位を勝手に取っていきやがった!そしてその先にいたアグウルグの群れを俺達に押しつけて先に行きやがったんだ!!」

「正直、リンさんがあの場に来てくれなければ、私たちは此処に戻っては来れなかったでしょうね。」

「魔力がほぼ枯渇して、魔法が撃てない状態だったからなぁ。あのままだったら、20体以上のアグウルグの群れに喰い殺されていただろうなぁ・・・」



ナガンさんからの思わぬ証言に、村人達は絶句する。
すると、弓師の女性や魔術士と思しき男が、彼の言葉に続く。
そして、それに頷いた彼は、俺の欲しい言葉をくれた。



「だから、君が言うように、アイツらが、リンさんを竜種の囮にしたというのは、やっぱりやりやがったか、というだけだよ。俺達がいくらでも証言する。・・・いくら彼女が、サラマンダーを1発で仕留められる程強いと言ったって、竜種を1人で相手にするのは厳しいだろう。だから、君は早く、彼女の所に行ってくれ。」

「・・・わかった、ありがとう、ございます。」

「礼を言うのはこっちさ。彼女が救ってくれた命だ。俺達じゃ、竜種は相手にできない。足手まといで手伝えないから、ここで騎士団を待って、ちゃんと伝達する。君のパーティーリーダーの、『疾風』にも伝えて、すぐ後を追ってもらうようにするから。」

「っ、お願いしますっ!【 保護プロテクト 】【 魔盾シールド 】【 迅速ヘイスト 】【 攻撃倍加ダブルアタック 】!!」



礼をした俺に、ナガンさんや彼のパーティーメンバーが深く頷く。
その姿に安心して、俺は支援魔法をありったけ自分にかけて、村を飛び出した。



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