転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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ひと狩り行こうぜ!リターンズ

368.ひと狩り行こうぜ!リターンズ 其の四(カン視点)

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「アルっ!?どうした?」


思わず右手を耳に当てる。
別に、アルの声はインカムじゃなく、思念のようなモンだから必要はないんだけど。


“ごしゅじんーーーーーーーーーっ!”



ピィピィと泣き叫ぶような幼い声が頭の中で響く。
以前ファルコ辺境伯領で、リンさんがわざと攫われた一件の時も、ジャミングの所為で焦る様子はあったものの、ここまでではなかった。

緊急事態。
それだけは分かる。


「何があった!?」

“りんがっ わざと おっきいりゅうのまえに とばされたのっ!”

「何だって!?」


ぐ、と眉間に力が入る。
そこから脳裏に浮かんだ映像に愕然とした。


火蜥蜴サラマンダーを屠っていたリンさんが、尋常ならぬ雄叫びを聞き、斥候役宜しくジャミングのかかる森の中へと進んでいく。

木の影から覗き見えたのは、オレンジの胴体に青黒い縞模様の竜種・・・轟竜ロア・ドラグ
某有名狩りゲームの、●ィガレックスみたいな姿。

状況だけ確認して、そのまま離脱しようとしたリンさんの前にも現れた『氷戦神アイス・アテーナー』。

あの氷女神クソ女が歪んだ笑みをリンさんに向けた、



『そうねぇ・・・寄生じゃないんだとしたら、あの竜種、相手にできるわよねぇ?』



女がそう言った途端。
青髪が、リンさんに向けて魔法を放ち。
赤髪が突進して、轟竜ロア・ドラグに向かって彼女を突き飛ばした。

驚きと戸惑いの表情を浮かべたリンさんに、女が言う。



『せいぜい、頑張って削って下さい?後で、コウラルと助けに来てあげますから。』



そう言い捨てると『氷戦神クソども』が逃げていく。



『ーーークソったれ!!!』



轟竜ロア・ドラグの咆哮を一身に受ける絶望的な状況ながら、それでもリンさんは俺が渡した魔石の付与エンチャント効果を解放し。
凶暴な竜種に、1人で果敢に立ち向かおうとする。



『ーーーアル!マッハでカン君に連絡!村から北東方向5キロ先で『轟竜ロア・ドラグ』と思しき竜種と交戦!兎に角手練れを連れて、救援ヨロ!』



リンさんが此方を向いて叫ぶ。
その目は、まだ諦めていない。

そこで、映像が途切れた。



ぞくり、と鳩尾の奥から脳天にかけて、痺れるような感覚に陥る。
混乱、焦燥、憎悪、色んな思いがぐちゃぐちゃになる。
その中でも、言い知れぬ気持ち。

アルを通してだけど、リンさんが、俺に、助けを、求めてくれた。
アルを射抜く目が、力強い眼差しが。
俺が来る事を信じていた。
来るまで、諦めない、と。

右耳に手を当てたまま俯き、左手で心臓の辺りを押さえる。
心臓の、もっと奥が震えている。


ーーーこれは、きっと、歓喜。


画面越しだけれど、俺を、頼ってくれた。
それだけで、ーーー ただ、嬉しくて。




“ごしゅじんっ!はやくっ!はやく りんを たすけて あげてっ!!”



アルの声に、はた、と意識を戻される。



「ーーー分かった。すぐ行く。」

「兄ちゃんっ?急にどうした?」



急に胸を押さえて、俯き、震え出した俺を心配したのだろう。
自警団の1人が声をかけてきた。



「ーーー大丈夫、です。」



そう言って、俺は、空間収納から記録水晶を取り出し、魔力を込めて、呟く。



「【 複製ダビング 】」



ふわり、と淡く水晶が光る。
そのまま、アルから送られて来た映像を移していく。

ざわり、と、周囲が騒めくのは分かる。
記録水晶を取り出したのは分かっても、俺が何をしてるのかなんて、分からないだろうから。
でも、反応は気にしない。

リンさんが助けを求めた所で、 複製ダビング が終わり、光が消える。

そして、証拠の詰まった記録水晶を、訝しげな顔をしていた自警団のリーダーに渡す。



「これを、この後来る騎士団に渡して下さい。」

「これは?」

「・・・先程、俺のパートナーから、救援連絡が入りました。その理由の映像です。強いて言えば、『氷戦神アイス・アテーナー』の犯罪証拠です。」

「は?」



ざわり、とまた、周囲が騒めく。
怒りを爆発させない為に、なるべく冷静に、話をする。
身体は煮えたぎっているのに、頭だけはやけに冷たい。そんな感覚。



「・・・『氷戦神アイツら』は、この村から北東方向5キロ先に現れた、『轟竜ロア・ドラグ』と思しき竜種の前に、俺のリンさんパートナーを突き飛ばして囮にし、自分達は逃げて、此方に向かっている。その証拠だ。」

「な、何だって!?」



自警団のリーダーは慌て。
他の自警団メンバー達は訝しげな顔をする。

少しの間の後、俺の言葉の意味を理解した村人達が噛みついてきた。



「ふ、ふざけるな!『氷戦神アイス・アテーナー』がそんな事する筈がない!」

「そうだそうだ!アリュール様は慈悲深い女神様だぞ!貶めるような事言うんじゃない!」

「どうせ、『氷戦神アイス・アテーナー』に嫉妬して、適当な事言ってるだけだろう!」



冷えていた筈の脳天が、急に沸騰したかのように熱を持つ。



「・・・信じないなら、それでいっスよ。俺はこれから救援に行きますから。」

「おぃ!待てよ!冒険者ギルドの依頼を放棄するのか!」



ーーー この期に及んで、その言い分かよ。

轟竜ロア・ドラグを前に、今まさに孤軍奮闘しているリンさんの。
守りたかったのが、こんな奴ら、なんて。




「ーーー うるっせぇ!!!そもそも俺達は、村防衛の依頼なんか受けちゃいねぇ!!!」


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