転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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キャットファイト?

355.キャットファイト? 其の八

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お義兄ライルさんから、私がコウラル=チェスターと結婚している事。
そして謀らずも、お義姉ライリーさんから、私が、ファルコ辺境伯領初代『戦乙女ヴァルキリー』そして現在『女傑』と呼ばれる、冒険者ランクに換算したらA級ライセンスは確実である屈指の実力者、メイア=チェスターと互角の力を持つ事。

第三者視点から、それらを周囲に知らしめた。

それは、私や、こーくん自身が直接主張するよりも、客観的で、湾曲なく、より真実味を帯びて拡がっていく。



「こぉら、ライリー。そやって、強い人にすぐ手合わせを申し込まないの。」

「だって、女の子で、義母上ははうえとヤれるなんてそんな逸材、今まで会ったこと無いんだぞ!?ライルは相手してくれないし。ケネックは此方に来るわけにもいかないだろうし。と思ってたら、コウラルも、ミッドランドに行ってしまうし・・・
・・・王国騎士団の近衛に就いてからはここ最近、手練れと戦う事がなかったし。修練でもなよっちい奴らばっかりで、手応え無くて溜まってんだもん。外で訓練しようとしたら、近衛は外周衛士と訓練するなとか馬鹿なこと言う奴等がしつこいし、騎士団長は最近お忙しいから相手して貰えないし・・・だから、リン殿と手合わせしたいんだっ!」


ぷぅ、と片頬を膨らませるお義姉ライリーさん。
急に駄々っ子モードだわ。
何このギャップ。


「あー、分かったわかった。それはリンちゃんに改めてお願いしよ?」

「ホントだな?!リン殿?!」


お義兄ライルさんが適当にあしらうも、お義姉ライリーさんは再度私を期待を込めて見る。


「はぁ・・・まぁ、手合わせは構いませんが・・・」


それより、この空気、何とかして?

言外に気持ちを込めて、お義兄ライルさんを見たら、苦笑いされた。
そんな様子お構いなしに、彼女は私の両手を取り、満面の笑みを浮かべる。


「ホントにだなっ?約束だぞっ!」

「はぁ・・・」


嬉しそうに上下にブンブンと振られる。
勢い良いなぁ・・・肩抜けそう。


「何事だ!?」


周囲の動揺と、お義姉ライリーさんの戯れあいを、そろそろどうしようかと思っていたら、奥の方から偉そげな人が出てきた。



「「ギルドマスター!」」
「叔父様っ」



ギルド内の視線が全てそちらに向かう。
そこに居るのは、よくいる貴族の狡賢そうなおっさん、と言ったイメージの人。
その彼は、此方を見ると一瞬顔を歪めたが、それを悟られない様に表情を戻した。


「コウラル・・・どうしたのかな?」

「どうしたも何も、昨日のお約束通り、手続きの状況を確認に、ギルドに来た次第ですが?」

「やぁやぁ、お久しぶりですねぇ。アムーセル=セレスティア、ギルドマスター?」

「ライル・・・チェスター、殿。どうされたので?」



本部のギルドマスターは、何でもない風を装っていたのに、お義兄ライルさんを認識した途端、青ざめる。



「どうされたって?文書が不正処理されている疑いがあったから、法務局の職員として出向いただけですが?」

「な、何のことを・・・」


にっこぉ、と胡散臭い満面の笑みで、本部ギルドマスターを見やるお義兄ライルさん。
しどろもどろになる、彼に追い討ちをかける。


「まどろっこしい話は抜きにしましょう。
私は先日、法務局職員として、A級ライセンス冒険者コウラル=チェスターから、2か月前に受理されたミッドランド支部でのパーティー結成申請書の写しを確認し、まったく不備が無いことを証明している。
しかし、冒険者ギルド王都本部ではそれを受理していないと。
書類に不備もなく、パーティーとしての功績も、ニースの森の魔獣の“間引き”も問題なく遂行し、しいては『猟犬グレイハウンド』と共闘して、劣竜種レッサードラゴンを倒すなど顕著だ。

そんなパーティーを認めない、などあるか?と思い、本日此方に出向いてみたら。
コウラルとパーティーを組む此方のお嬢さんに、受付嬢が『パーティー申請が受理されていない』と一蹴する場面に出くわしましてねぇ?
お嬢さんの言うように、『冒険者ギルド規約』の変更がない限り、申請が受理されない、という事はないんですよ。
なのに、強固として受理しようとしない・・・
一体どういうことかと思って眺めていたら、そちらのクラスAパーティーの皆様が現れ、あろうことか、彼女を罵倒し始めましてね?」

「罵倒、ですと?」

「えぇ。『黒持ち』だから、強力な精神干渉魔法で、コウラルを操って、無理矢理パーティーを組んだのだろう、と。」

「だって、ホントのことじゃない!じゃないと、そんな女なんて!!」

「っ!貴様っ!」「何をっ!」



怒り顔のこーくんとカン君が踏み出す。
この手の罵倒は私は慣れてるから良いけど。
こーくんも、カン君も怒ってくれちゃうからなぁ・・・
と思っていたら、す、とお義兄ライルが2人の前に立ち、その動線を止めた。



「兄上っ?!」

「いーから、おにーちゃんに任せなさい?」



にまり、と笑うお義兄ライルさんは、第三者であるが故、余裕綽々というか、楽しんでるというか・・・



「何が本当の事なのかな?さっきもライリーに言われたよね?A級ライセンスのトップに君臨する男が、精神干渉を受けて操られるなんて、死活問題だ。下手すれば他国に戦力として奪われ、戦争の駒にされるなどの国際問題に発展する。
・・・ねぇ、君は、ウチ可愛い弟コウラルを馬鹿にしてるの?」

「ひっ!」


お義兄ライルさんの表情が、す、と消えた。
さっきまでニコニコとして、柔らかい雰囲気だったのが、周囲の温度が一気に下がったんじゃないかって位に冷え冷えとしている。

口を挟んできた姫様は、倒れるんじゃないかって程真っ青になって、取り巻きに支えられている。



「彼女は・・・リン=ブロック殿は、我が家の鬼神母上『女傑』メイア=チェスターと互角の闘いが出来る、A級ライセンスに相応しい実力の持ち主。その強さに惚れ込んだコウラルが唯一と求めた女性だ。そして、此方のカン=マーロウ殿は、2人の力を最大限に引き出す、支援と回復といったバックアップに長けた魔導師。信頼し合うパートナーである彼らの間に入り込む余地なんて、これっぽっちも有りはしないこと、いい加減理解したらどうかな?」

「そんなっ!」

「5人束になったって、彼ら2人の足元にも及ばない。そんな者たちがコウラルを自パーティーに引き入れようとする事自体が烏滸がましい。これ以上、ちょっかい出す様なら・・・探られる事になるけど、良いの?」


ぎら、と睨みつけたお義兄ライルさん。
何処か怯えた様なギルドマスターと、彼方の青髪。
でも、当の姫様と赤髪に他の2人は、敵意アリな視線を向けてくる。


「ふっ・・・ふざけないでよ!私達が、そんな女達にどこが劣るっていうのよ!」


散々煽られた姫様の不満が爆発する。
そりゃ、まぁ、そーだろね。
さて、どう収集つけるのか・・・私が口出ししても良いのか否か・・・
このまま庇われっぱなしも性に合わんしなぁ・・・

はてさてどうしたもんかと思っていたら、解決策は以外に早く現れた。

睨み合う緊迫した雰囲気を壊す様に、入り口から慌ただしく冒険者が駆け込んできた。



「大変だ!魔獣暴走スタンピートだ!!!!!」

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