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『約束』の行方
【閑話】倍返し(コウラル視点)其のニ
しおりを挟む「コウラル!お帰りなさい!!」
「アリュール、ノックくらいしなさい。」
勢いよく入ってきたのは、クリスタルのような青白い髪に、白の装備に身を固めた魔法職。
美少女とも見てとれる、美貌の持ち主、なのだろう。
仮にもギルドマスターという、冒険者ギルドの最高権力者に対して、こんな礼儀のない事ができるのは、この女だけだ。
困った顔をするギルマスだが、たいして困ってはいない。寧ろこの女が転がり込んできてホッとしているくらいだろう。
「ごめんなさい、叔父様。だってぇ、コウラルが帰ってきたって聞いたから。」
そう言って笑顔を見せたのは、クラスAパーティー『氷戦神』の『氷女神』とか呼ばれている、アリュール=メディタラニア。
メディタラニア伯爵家の次女・・・本部ギルマスであるアムーセルの姪。
ギルマスの姉だかが、メディタラニア伯爵家に嫁いでいる。そこの次女、だったか。
確かに、彼女は魔力量も多めで、氷魔法に長けてはいる。
だが。
ただ、それだけ。
大した戦略も、技術も無く、大魔法だけで乗り切ってきたような冒険者。
それを補うメンバーが、A級ライセンスの盾役と剣士、そして試験を受ければA級になるだろうB級ライセンスの斥候と治癒士・・・全て何処ぞの貴族の三男四男達だけで固めた、そんなパーティーだ。
王都ギルドの広報も兼ねて、派手に活動しているようだが。
所詮姫プレイ。
勝手にやってろ。
自分を巻き込むな。
「ちょっとぉ、変な噂を聞いたんだけど。」
ズカズカと部屋を進み、許可もしていないのに、3人がけソファの端に座る自分の隣に座りこみ、太腿に手をかけ、下から覗き込むように、自分を見上げてくる。
俗に言う、あざとい上目遣い。
少し小柄な身体に、豊満な胸を見せつけるように寄ってくる。
甘ったるい香水の臭いを撒き散らして、吐き気がする。
執務室の入り口には、パーティーメンバー4人が此方を見てくる。
憎々しげな者、
パーティー入会を期待する者、
そろそろ諦めろと憐憫の目を向ける者、
様々ではあるが。
「貴方がパーティーを組んだとか、結婚したとか、あり得ない噂が流れてるのよ?!大丈夫なの!?」
側から見たら、健気に此方を心配しているように見える仕草。
このような様子で外堀を埋め。
本来なら3の倍数であるパーティー数を、わざわざ5人のままにして。
『A級コウラル=チェスターが属するのに値するのは『氷戦神』である』と、世論に対して印象操作してきた。
自分自身の当初の『望み』の為、それすらも放って置いたけど。
『望み』がこの手にある今、煩わしさは全て排除する事に決めた。
「ご心配をおかけしたようで・・・」
そう言って、鈴から見たら『胡散臭っ』と嫌悪されるであろう笑みを、顔面に貼り付ける。
でも目の前の女は、どうやら、この微笑みが好きらしい。
「うぅん、貴方が元気なら、それで良いの。ねぇ、噂の火消しなら手伝うわ。どうしたら良いの?」
そう言いながら、此方に擦り寄り。
頬を赤らめ、此方に期待の眼差しを向けてくる。
パーティー結成も、結婚の話も、嘘なのだ、と。
“貴女”を振り向かせるための方便だったのだ、と。
そして、
“貴女”を守るため『氷戦神』に入れて欲しい、と言うのだ、
と。
そんな展開を期待する、眼差し。
ーーー 誰が言うか、そんなこと。
「ーーー ご心配には、及びませんよ。」
「え?」
心配そうに、此方の頬に触れようと伸ばしてきた手を、やんわりと拒絶し、立ち上がる。
「ーーー 私がパーティーを組んだのも、結婚したのも、噂ではなく、全て事実ですから。あぁ、ギルドマスター。明日昼までに申請処理を済ませてください。これ以上、無駄に引き延ばすつもりなら・・・」
ぽかん、と此方を見上げている女と、訝しげな顔をしているパーティーメンバーと、青ざめた顔のギルドマスターを見回し、一息ついてから口を開いた。
「・・・私は、愛する妻と、大切な仲間と共に、この国を出るだけですから。ではまた、明日、昼2の刻に。」
踵を返し、振り向かず執務室を出て行く。
扉が閉まった後に、何か女の金切り声が聞こえた気がするが、既に自分には関係のないことと、気にしない事にした。
**************
* コウが「私」と言う時は、完全お仕事モードです。王都ギルドでは、ずっとこの姿勢。
* 「無所属」という表現を、「国付きではない」に統一しました。長兄のことや、パーティー編成内容も少し変更加えています。
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