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『約束』の行方
【閑話】倍返し(コウラル視点)
しおりを挟む※ この先の展開のため、以前あげたものを引き下げ、順番を入れ替え、内容を修正しております。ご了承下さい。
******************
「なぁ、コウラル・・・ せめて、所属は 王都本部にしてもらえないか?」
「何故です?」
目の前の、腹黒さを隠せない貴族面の壮年男性に、真っ向対峙する。
冒険者ギルドの総ギルドマスター、アームセル=セレスティア。
財務に関する要職に付きやすい、セレスティア侯爵家の出身・・・現御当主の弟だったか。
年齢は、ミッドランド支部のロイドギルマスと変わらないくらいだった筈だ。
彼も、元A級ライセンス持ちだったとか。・・・まぁ、ロイドさんやレザリック先生に比べて、あまり強い気はしないけど、腹芸が得意な胸糞野郎だ。
だが、そんな彼も、自分の所属変更を予期できなかったと見えて、焦っている。
数年前にやられたコトの意趣返しができて、内心ほくそ笑む。
「冒険者は、所属する支部を好きに選べるはず。しかも、私は、元より国付きではない。それに、アレから3年経ったんだ。王都本部に籍を置かなければならない理由は、既にありませんよね?」
冒険者になって、4年目の秋。
ファーマスさんにしごかれ、ギルマスのロイドさん直々の鬼畜試験をクリアして、自分がA級になった時・・・本当はファーマスさんとのパーティーを継続する予定だった。
それがA級お披露目の時、ミッドランド界隈の魔獣の動きが活性化したため、ファーマスさんが来られず。
その上、付き添いだったロイドさんとも離され。
よく分からないままに書類処理され、 王都本部所属にされた。
A級の初期登録は、お披露目の時が正式決定となり。
その後所属したエリアから、3年は所属替えはできない、という制度があった。
・・・完全な騙し討ちだった。
激昂したロイドさんと、王城で働き始めていた長兄のお陰で、辛うじて国付きのA級にされることは防げたものの。
ロイドさんのギルド内改造と、ファーマスさんの活躍、レザリック先生のバックアップによる、ミッドランド支部の成績上昇が面白くない連中の嫌がらせと、戦力の奪い取りだったと、後から知った。
自分がA級になるのを急いだのは、『望み』の為だったけれど。
あの3人の献身に助けられたのも事実で。
だから、彼らを手伝うことで恩に報いたいとも思っていた。
それなのに。
王都本部への所属となっても、A級は基本的にフリーで別支部の依頼を受けても問題はない。
それを利用して、ファルコ領内の魔獣増加対応のためにフリーでの依頼を受けようとしても、勝手に指名依頼を入れられて、ミッドランドに行くことを悉く邪魔され。
しまいには、自分の身内とパーティーを組ませようとする始末。
その身内からは付き纏われ、所有物のように扱われた。
・・・そんなクソみたいな、無駄な3年。
まぁ、自分も《迷い人》に関する調べ物があったので、開き直ってその立場を利用する事にしたが・・・
邪魔されないよう、1人パーティーでいることを死守しながら、自分をミッドランド支部に行かせないなら、代わりのA級を派遣するよう働きかけたら。
それを逆手にとり、『ケルベロス』のような奴等を回された。
どうせ、3年もあれば此方を懐柔できると、思っていたんだろう。
お陰で、狡猾な手段を存分に学ばせてもらった。
『旅馬車』を組んだことも、ミッドランド支部所属であることも、国付きではないことも、全くもって書面上の不備はない。
従って冒険者ギルド本部ごときが、このパーティー申請を受理できない道理はない。
と、いうか、受理していない事自体が可笑しい。
そもそも、各支部には裁量権が有る。
本来、クラスAパーティー承認も、A級ライセンスの認定も各支部で行える状態。
これはモースバーグ国冒険者ギルドの規約に定められた事項。
ライセンスのクリアラインは決められているが、それ以上の負荷をかけるか否か設定が可能、ということだ。
だから、ミッドランド支部は虎の穴状態。
ココでA級ライセンスに合格したのが認められないなら、誰がA級になれるんだ、ってくらいには。
ミッドランド支部に居ると、なかなか階級は上がらないが。ただ、死亡率も低い。
それだけ、生き残る術に重きを置き、冒険者としての生き方を各々に考えさせているからだ。
王都本部の監査は、各支部で“確実に”何が問題があれば、異議を申し立てる程度のモノ。
そんなんだから『ケルベロス』のような輩が生まれても、放っておかれるワケで。
また、自分とリン、カン、ファーマスの婚姻証明も問題ない。
ファルコ領都のファルクスの教会で手続きを済ませているが、1か月以上前の事であるし。
王都の教会に立ち寄り確認したが、問題は無いと太鼓判を押されている。
それに王都本部に来る前に、長兄を使い、パーティー申請・婚姻証明のそのどちらも問題ないことは、城の法務局に証明を貰い済みだ。
この状態で難癖つけて邪魔されたなら、この国から出る算段までつけてきた。
久しぶりに会った長兄は苦笑いしながら、『まぁ、お前の好きにやったらいい』と後押ししてくれた。
昔から長兄は、此方の好きにやらせてくれる。次兄は人の話を聞かず暑苦しいが・・・長兄は理性的に話をしてくれる。だから、心地良い。
ただ、パーティーメンバーには会わせろよ、とは言われたが・・・
「いや、まぁ・・・そうなんだが。君への指名依頼もあるわけだし・・・」
チラチラと、書面に目を落としながら、こちらを伺ってくる。
・・・知らんがな。
「ギルドマスター。私は、あの時、騙し討ちのような形で、王都本部の所属にさせられた。その事から学びまして、ね。既に法務局に、国付きではない私が、パーティー『旅馬車』を組み、ミッドランド支部所属であることを証明済なんですよ。冒険者ギルドの規約は変わらない・・・今更貴方がごねて本部での申請受理を先延ばしにした所で、どうにもなりません。」
挑発するように冷ややかな目線を送れば、相手は穏やかに、微笑みを少し困った顔に見せながら・・・奥歯を噛み締めている。
その状態で、しばしの睨み合い。
すると、その静寂を破るように、バタバタと廊下を走る音がして。
ノックもなく、バタン!と、勢いよくギルドマスターの執務室のドアが開けられた。
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