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『約束』の行方
346.懐かしい音色 其の九
しおりを挟むゆっくりとした動作が、ピタリと止まる。
「ーーーっふっ!」
♪ 、ズドン、、ズドン、、ドン、ドン・・・
一瞬呑んだ息と共に、私の地打ちのリズムに合わせ、素早く振り抜かれる撥。
一発一発、打面を丁寧に打ち抜き紡がれる力強い音。
一尺六寸の長胴太鼓では破れてしまうのではないかという程の、向かい側からの重たい振動がやってくる。
私側の打面を震わせる振動で腕が痺れて、地打ちの撥が跳ね返されそうになる。
懐かしくて心地よい痺れ。
「ーーーっそぃっ!!」
彼が主旋律を叩き終えるタイミングで、私が立ち上がり入れ替わる。
撥を握りしめる手のひらが痺れているのも厭わず、掛け声と共に、打面にバチを打ち付ける。
衝撃で取り落としそうになる撥を指だけの感覚で制御して、身体を動かし、脚からの力を腕へと連動させ振り抜く。
久しぶり過ぎて、思うように身体は動いていない。
一打の重みもカン君には敵わない。
それでも、身体が動きを覚えていて、リズムを刻んでいく。
繰り返される主旋律。
再びカン君にスイッチし、彼は独自のリズムを刻み出す。
「そぃヤァーーーっ!」
地打ちをしながら、合いの手の掛け声を入れる。
初めて聞くリズムの筈なのに、気持ち良いくらいにピタリとハマる。
背筋にぞわりとした感触が上っていく。
心が動かされた時に湧き上がる情動。
泣きたくなる程に気持ち良くて、まるで、昔から演っていたかのように、彼のリズムは身体の奥に響く。
入れ替わり私の番。
昔叩いたソロ旋律。
盆のイベントで、一緒に叩いたのは・・・こーくんだった、なぁ。
きっかけを鳴らし、地打ちのカン君も素早く立ち上がり、スピードを上げ主旋律を鳴らしていく。
♪ ーーーードォン!!
最後の音を右手でピタリと打ち鳴らし、左手を太鼓の胴の上に突き出して、身体を止める。
向かい会うカン君の腕も伸び、撥が打ち合あうくらいに近づいて止まった。
曲としては3分にも満たないもの。
身体強化もする気が無かったから、酸欠になりかけてる。全力疾走をしたくらいの息の上がりっぷりだ。
心地良い疲労感が全身に広がり、その場から動けずにいた。
*******************
※ 新作始めました。
『モブ(顔)王子の逆襲~猟師女神の力を借りて、愛の聖女を見返します~』
宜しくです。
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