転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
356 / 393
『約束』の行方

345.懐かしい音色 其の八

しおりを挟む



魔力が行き渡ったとたん、時間が巻き戻るかのように、篠笛と太鼓、そして納屋が綺麗に修復していく。

時間にして20秒もかからない程度だろうか。
篠笛は亀裂が無くなり、全体が艶やかに。
太鼓達は胴の輝きを取り戻し、白い皮もピンと張った状態で、どちらもまるで新品。
納屋も、建てたばかりの様な木の輝き。爽やかな新築の匂いが、辺りに漂う。

見事なまでの巻き戻りっぷりに、店主さんが呆気にとられていた。



「・・・これで、よし、と。さて、ちょっと鳴らしてみましょうか?」



とても良い笑顔で私を見下ろすカン君は、店主さんの様子は我関せずで。
ちょっとウキウキした様子を醸し出す。



「ちょっ、ちょっと、これっ!?」



はっと、我に帰った店主さんが、慌てて声をかけてきた。
それに対し、カン君は半笑いで応える。



「・・・もともと構造の分かっているモノであれば直せる、ってだけっスよ?ソコにあるモノ全てを直せるわけじゃないです。だから、納屋と太鼓と笛直ってないでしょう?」



ちらり、とカン君が見やった視線の先には別な木箱や道具が置かれている。
それらは、納屋の真新しさに比べ、薄汚れたまま。



「・・・そうなのか。よく分からない道具とかがあるから、それを直せないかと思ったけど。」

「そーゆーのは、無理っスねぇ。」

「でも、構造が分かれば可能なんだろう?武器や防具なんかの修復師みたいな事だってできないか?」

「剣や鎧なんかは鉄一辺倒じゃ無いでしょ?鉱物の配分なんかもあるわけで。それを無理矢理修復しても耐久が下がるから、使いモンにならねっス。武具作成は門外漢ですし、応急処置程度にしかならんっスねぇ。」

「はぁ・・・そう上手くはいかないか。」

「すんませんっスねぇ。使い勝手悪くて。」



食い下がる店主さんの猛攻を、のらりくらりと躱していくカン君。

実際は、鑑定さんが構造なんか詳細に教えてくれて、ソコに魔力を入れ込むだけって、前に教えてもらったなぁ。
だから、基本的に何でも直せるけど、[鑑定さん]が発動しなければ見てくれしか直せない、って事で。

・・・まぁ。
嘘は言ってない、ってヤツだよねぇ。これ。

半眼になりながら、余計な事言わないようにお口チャックしてると、不意に顔を覗き込まれる。



「したっけ、何やりましょかね?」



ふにゃり、と笑ったカン君に、苦笑いを返しながら、曲を思い浮かべる。

何がよいだろか?



「カン君の入っていたチームと、ウチのチームでかぶってた曲はあるかなぁ?」

「『春風』は置いておいて、『秩父屋台囃子』とか、『三宅』ですかね?あとは『山彦太鼓』?」


秩父屋台囃子は埼玉県秩父市の秩父夜祭りに欠かせない、昔からあるお囃子。
三宅は三宅島の三宅島神着神輿太鼓が起源の、神輿を先導するための曲。
どちらも、太鼓芸能集団「鼓童」が広めて。
色んな所から教則本やDVDなんかが出ている曲。

山彦太鼓は、陸上自衛隊の太鼓チーム、北海自衛太鼓の曲。
北海道中の太鼓チームが集まった「千人太鼓」のイベントで使われたから、その時参加したチームに受け継がれて、みんな叩けるんだろう。

その中でサクッとできるのは・・・



「そのうち笛ありは屋台だけど、流石に2人でやるには迫力ないね。鳴り物ないと締まらないし。山彦は出来なくはないけど、パートが3つだからなぁ。てな訳で、三宅かな?」

「ん。りょーかいっス。」



私の提案に反論もなく同意したカン君は、納屋に残っていた木の箱を手に取り、適当な形を作り、一尺六寸の長胴太鼓を横置きに設置した。

メインメロディーの確認、ソロ回し、地打ちのタイミング、ラストの早打ち・・・

久しぶり過ぎるはずなのに、どんな曲かは覚えていて、するすると打ち合わせがすすむ。



「んじゃ、やろか。」
「うス。」



冒険者スタイルでいたから、防具なんかは一旦外して、シャツの袖を腕まくり。

私が先に地打ちを担当。
そっとしゃがんで、一息つくと、太鼓の打面に撥を振り下ろす。
5年ぶりくらいで触れた撥の重みを感じながら、打面から跳ね返る感触に身を任せる。

♪ ス、トン、ス、トン、ス、トン・・・

太鼓の逆側の打面に立つカン君は、八拍数える間に、音も無くゆっくりと構えた。



しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...