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『約束』の行方
345.懐かしい音色 其の八
しおりを挟む魔力が行き渡ったとたん、時間が巻き戻るかのように、篠笛と太鼓、そして納屋が綺麗に修復していく。
時間にして20秒もかからない程度だろうか。
篠笛は亀裂が無くなり、全体が艶やかに。
太鼓達は胴の輝きを取り戻し、白い皮もピンと張った状態で、どちらもまるで新品。
納屋も、建てたばかりの様な木の輝き。爽やかな新築の匂いが、辺りに漂う。
見事なまでの巻き戻りっぷりに、店主さんが呆気にとられていた。
「・・・これで、よし、と。さて、ちょっと鳴らしてみましょうか?」
とても良い笑顔で私を見下ろすカン君は、店主さんの様子は我関せずで。
ちょっとウキウキした様子を醸し出す。
「ちょっ、ちょっと、これっ!?」
はっと、我に帰った店主さんが、慌てて声をかけてきた。
それに対し、カン君は半笑いで応える。
「・・・もともと構造の分かっているモノであれば直せる、ってだけっスよ?ソコにあるモノ全てを直せるわけじゃないです。だから、納屋と太鼓と笛しか直ってないでしょう?」
ちらり、とカン君が見やった視線の先には別な木箱や道具が置かれている。
それらは、納屋の真新しさに比べ、薄汚れたまま。
「・・・そうなのか。よく分からない道具とかがあるから、それを直せないかと思ったけど。」
「そーゆーのは、無理っスねぇ。」
「でも、構造が分かれば可能なんだろう?武器や防具なんかの修復師みたいな事だってできないか?」
「剣や鎧なんかは鉄一辺倒じゃ無いでしょ?鉱物の配分なんかもあるわけで。それを無理矢理修復しても耐久が下がるから、使いモンにならねっス。武具作成は門外漢ですし、応急処置程度にしかならんっスねぇ。」
「はぁ・・・そう上手くはいかないか。」
「すんませんっスねぇ。使い勝手悪くて。」
食い下がる店主さんの猛攻を、のらりくらりと躱していくカン君。
実際は、鑑定さんが構造なんか詳細に教えてくれて、ソコに魔力を入れ込むだけって、前に教えてもらったなぁ。
だから、基本的に何でも直せるけど、[鑑定さん]が発動しなければ見てくれしか直せない、って事で。
・・・まぁ。
嘘は言ってない、ってヤツだよねぇ。これ。
半眼になりながら、余計な事言わないようにお口チャックしてると、不意に顔を覗き込まれる。
「したっけ、何やりましょかね?」
ふにゃり、と笑ったカン君に、苦笑いを返しながら、曲を思い浮かべる。
何がよいだろか?
「カン君の入っていたチームと、ウチのチームでかぶってた曲はあるかなぁ?」
「『春風』は置いておいて、『秩父屋台囃子』とか、『三宅』ですかね?あとは『山彦太鼓』?」
秩父屋台囃子は埼玉県秩父市の秩父夜祭りに欠かせない、昔からあるお囃子。
三宅は三宅島の三宅島神着神輿太鼓が起源の、神輿を先導するための曲。
どちらも、太鼓芸能集団「鼓童」が広めて。
色んな所から教則本やDVDなんかが出ている曲。
山彦太鼓は、陸上自衛隊の太鼓チーム、北海自衛太鼓の曲。
北海道中の太鼓チームが集まった「千人太鼓」のイベントで使われたから、その時参加したチームに受け継がれて、みんな叩けるんだろう。
その中でサクッとできるのは・・・
「そのうち笛ありは屋台だけど、流石に2人でやるには迫力ないね。鳴り物ないと締まらないし。山彦は出来なくはないけど、パートが3つだからなぁ。てな訳で、三宅かな?」
「ん。りょーかいっス。」
私の提案に反論もなく同意したカン君は、納屋に残っていた木の箱を手に取り、適当な形を作り、一尺六寸の長胴太鼓を横置きに設置した。
メインメロディーの確認、ソロ回し、地打ちのタイミング、ラストの早打ち・・・
久しぶり過ぎるはずなのに、どんな曲かは覚えていて、するすると打ち合わせがすすむ。
「んじゃ、やろか。」
「うス。」
冒険者スタイルでいたから、防具なんかは一旦外して、シャツの袖を腕まくり。
私が先に地打ちを担当。
そっとしゃがんで、一息つくと、太鼓の打面に撥を振り下ろす。
5年ぶりくらいで触れた撥の重みを感じながら、打面から跳ね返る感触に身を任せる。
♪ ス、トン、ス、トン、ス、トン・・・
太鼓の逆側の打面に立つカン君は、八拍数える間に、音も無くゆっくりと構えた。
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