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『約束』の行方
343.懐かしい音色 其の六
しおりを挟むカンくんの言葉に、店主さんが少し首を傾げる。
「太鼓・・・ふむ、アレ、かな?ちょっとついてきてもらえるかい?」
そう言って店主は、くるりと踵を返し、店の奥へと入っていく。
私達は、顔を見合わせ頷くと、カウンターの横の空き口から中へと入らせてもらった。
生活スペースから、裏口へ抜け、外に出ると、納屋のような小屋があった。
その前で店主が手招きをしている。
「ココには、用途の分からない大型の物を入れていてね。適当に探してみてくれるかな?君の言う物があれば良いのだけれど。」
「うわぁ・・・」
そう言って店主が扉を開けた中を覗き込むと、懐かしい楽器達が、薄暗い納屋の中に無造作に置かれていた。
一尺六寸と、一尺四寸の長胴太鼓が各1台
同じく一尺六寸の桶胴太鼓が2台
二丁掛けと三丁掛けの締太鼓が各1台
三尺はあろうかという平胴大太鼓
なんでまた、大集合してるのかってくらいに、こんなに太鼓があるのだろうか。
ただ、残念なことに、どれも皮が破れたり、胴に亀裂が入ってしまっている状態。直ぐには叩けない・・・どうやって直すかなぁ。
近寄って平胴大太鼓を撫でながら、そんなことをぼんやり思っていた。
「・・・さっきの篠笛と合わせて、これら全て買い取ります。幾らになりますか?」
「っ!カンくん?!」
ボーッとしていた私を放って、カン君が店主さんに交渉を始めたもんだから、焦って声をかけたけど。
お構いなしに、カン君と店主さんで話を進めていく。
「うーん、さっきも言ったけど、直すことはできないよ?」
「構いません、自分で修繕しますんで。」
「そうだねぇ・・・そうしたら、白金貨1枚、と言ったらどうかな?」
「「買った!!」」
「え?」
私とカン君は、思わず同時に声を上げてしまった。
店主さんは目を丸くしている。
「え・・・?こんな壊れた楽器だよ?白金貨1枚だよ?」
「えぇ。問題ありません。」
「ん~?実はもっと価値があった、ってこと?」
「どうでしょう?」
「うわ、もうちょい吹っかけた方が良かったのかな?」
そう言って苦笑いする店主さんに向かい、カン君は何も言わず、珍しい程の腹黒営業スマイルを浮かべていた。
まぁ、小汚い樽のようなモノや、笛っぽいけど音が出ないモノが楽器で、って言われてもピンとこないだろうし、価値があるかって言われても・・・ねぇ。
そんなモノに、白金貨1枚・・・100万円で売るって、結構吹っかけたモンだと思うよね。
でも実の所・・・
新品なら三尺の平胴大太鼓だけで、140万するんだよ。
カン君、自分で直すって言ったけど。【 清潔 】や【 修復 】はお手の物だから、きっと新品同様になる訳で。
・・・となるとなぁ。
長胴も桶太鼓も結構良い物。
長胴一本造で一尺六寸サイズだと確か・・・1台で60万以上しなかったかなぁ?
桶だって20~30万だったし。
それに締太鼓や各種設置台・・・
そして、篠笛5本で10万越え・・・
ぶっちゃけトータル350~400万円。
白金貨4枚レベルだな。
・・・うん、言えないね。
私もカン君の隣で、作り笑顔になっておく事にした。
店主さんは、そんな私達を見て諦めたのか、ふぅ、と大きく息を吐いた。
「仕方ない。価値を見出せなかった僕の負けだ。白金貨1枚でいいよ。・・・だけど、その楽器での演奏を聴かせてくれる事も条件にして良いかな?」
にこり、と細い目をさらに細くして、店主さんが微笑む。
ちら、とカン君が私を見下ろす気配がしたので見上げると、首を傾げてコッチを見ていた。
その顔に軽く頷くと、ふ、と笑顔を見せて、頷き返してくる。
「わかりました。俺らの方も、曲や演奏が使えるものか、知りたかったのもありますし・・・じゃぁ、これで。」
「・・・無造作に直ぐ出せるのかい・・・って、は?」
腰のポーチから徐にお金を取り出したカン君は、店主さんの差し出した手のひらの上にそっとお金を置いた。
手のひらの上に光るのは、白金色の大きな硬貨が2枚。
店主さんは、思わず眉を顰め、カン君を見上げた。
***************
※ 太鼓のお値段は、各種太鼓販売店を参考にしております。
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