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『約束』の行方
342.懐かしい音色 其の五
しおりを挟むカウンターの上に置かれた篠笛達の長さや、穴の状態を見る・・・唄物が4本に、お囃子用が1本、かな?
多分、十本調子が1本、八本調子が2本、長いのは・・・三本調子、かな?
お囃子用は、三本より少し短いから、四本調子?
じ、と真剣に見ていたら、店主さんにくすり、と笑われる。
「・・・それが、どんな楽器かわかっているみたいだね。手にとって見ていいよ。」
「ありがとうございます・・・じゃぁ、失礼して。」
そっと、黒塗りの天地巻き唄物八本調子を手に取り、しげしげと眺めた。
薄汚れてはいるが、しっとりと手に馴染む感触。
材質は良いし、吹けば良い音がなりそうだけど、如何せん5から7までの指穴から亀裂が入ってしまっている。
「フルートのように吹けば鳴るのだろうけど、スカスカと空気が抜けて、うまく鳴らせなくてね。で、売るかどうかだけど、本当にこれを鳴らす事が出来るのか、見せてもらってから判断させてもらいたいかな。」
「構いませんよ。」
店主の申し出に頷くと、腰につけていたポーチからハンカチを取り出して、篠笛を乾拭きする。
中を拭くための『露切り』は後で作らないとなぁ。
拭き上げた篠笛は少し本来の輝きを取り戻したように、黒光りする。
息を吹きこむ唄口の下に軽く下唇を押し当てて、亀裂のある指穴付近を握った。
ただの音出しなら全穴開放だけど、亀裂は抑えた方が良いかなと思って、何となく。
上唇を少し下唇に被せるようにして、真下に息を吹き入れるように唄口に向け、軽く息を吹き込みながら、音を出すのに座りの良いポジションを探す。
ーー あ。ここだ。
カス、カス、と掠れた音を出しながら、唇の位置を調整していると、フォン、と音が変わった。
その位置で固定して、軽く深呼吸。
そして、鼻から息を吸い込み、お腹に力を入れて勢いよく息を吹き入れた。
♪ピィー~ーー~ー!
うん、久しぶりに吹いたせいで身構えた分、ちょっと音が歪んだけど、それでも綺麗な音。
オクターブ上のドの音、と言えば良いんだっけ?八本調子の開放音はCのコード音のはず。
「・・・はぁ、まさか本当に鳴らすなんてね・・・しかし、そんな音が鳴るんだねぇ。」
店主さんが目を丸くして、驚いている。
とりあえず条件は果たしたわけで。売ってもらえるかな?
「じゃ、売ってもらえますか?」
「・・・うん、ちゃんと音は鳴らしてくれたしね。他にコレを扱えそうな人が、この後来るかどうかもわからないからなぁ。でも、割れたりしているのは直せないけど、それでも?」
「構いません。それに全部買うので、幾分かお安くして頂けます?」
亀裂の修復には、どうすれば良いかな?とぐるぐる考えながらも、ちゃっかり値切ってみる。
店主さんは、うーん、と首を捻っている。
まぁ、楽器としてではなく、インテリアや資料としての価値もあるだろうから、全部売るのは躊躇うのかな?
すると、黙ってみていたカン君が口を開いた。
「あの・・・まだ、他に探している楽器があるのですが。」
「楽器?」
「えぇ。こちらで言うバスドラムやスネアドラムのような楽器で、やはり胴の部分が植物由来・・・木製の物。桶のように木を組み合わせたのではなく、ある程度の大きさの木をくり抜き、上下の穴に牛や馬の皮を張った『太鼓』という楽器です。」
****************
更新滞り中、申し訳ないです。
はよ、コウと合流したいのと、師匠登場させたい・・・(遠い目)
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