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『約束』の行方
341.懐かしい音色 其の四
しおりを挟むアーシャさんと思しき男性作業員さんの背中を見送り、また振り返る。
・・・にしても、不思議な空間。
王都という大きな街の入り組んだ道の中にあるとは思えない。
まるで森の中のような、静謐な空気感が漂う中のログハウス。
近寄ると、ぴり、とした感覚が走る。
すると、何処からともなく、ポロンポロンと弦楽器を爪弾く音が聞こえてきた。
「結界みたいなのが張ってあったんでしょうか・・・この音、ギター・・・っスか、ね?」
「うん、それっぽいねぇ。」
ログハウスに近づく程に、その音が少しずつ大きく聞こえてくる。
「ごめんくださーい。」
ログハウスの扉を引き、中を覗き込む。
薄暗い店内には、色んな雑貨が所狭しと並び、白檀のお香のような匂いが漂う。
店の奥で、もぞり、と何かが動いた。
「・・・ん?お客、かな?珍しい、ねぇ。」
店主と思しきその人は、楽器を爪弾くのを止め、顔を上げた。
ガウンというより、浴衣の様な濃紺の服。
肩までの金色の強い茶髪、細目を少し見開いた中にある瞳には、茶に青が混ざる不思議な色。
はらりと顔にかかる髪をかき上げた右腕には、精巧な刺青が見えた。
右耳には五連の、それに口元にまでピアス。
なかなかに、アバンギャルドな雰囲気?と言ったらいいのかな。
「・・・いらっしゃい。誰かの紹介?何か御所望?」
「あ、はい。楽器を探していまして・・・噴水のある大通り近くの楽器店に入ってもなくて。そうしたら、通りすがりの方に、此方を紹介されました。」
愛想笑いを浮かべながら、アーシャさんの名前を出して良いか分からないので、ぼかして伝える。
すると、店主は細い目をさらに細めて、クスリと笑った。
「あぁ・・・アーシャから聞いているよ。“黒髪のお客が探し物をしている”って。彼の名前を出さなかったのは、周辺警戒をしてくれているからかな?今ココには、僕ら以外いないから大丈夫。気を遣ってくれて、ありがとうね。」
「あ、いえ・・・」
一見、人当たりの良さそうな笑み。
でも、一気に情報を開示してきた。
この人、何モノ?
アーシャさんは自分を『運び屋』と言っていたけれど。
クロナさんは宰相家系関係者のキヨサネさんと繋がりがある上、アーシャさんと関わりがある。
サビさんは、そもそもが貴族家系で騎士団副団長の息子。アーシャさんを通じて、情報が入っていても、おかしくない、の、だが。
そのアーシャさんから、情報を貰っているだろうこの人の立場は?
そうなると、この店主はどこまで知っているのか。
そもそもが、この人の立場は何なのか。
国の諜報機関に関係する人だったりするのかな・・・
「あはは、そんなに警戒しなくて良いよ。少なくとも、君達を害するつもりはない。俺については、金持ちの道楽でこんな店を営んでいる変わり者、と思ってくれたらいい。」
色々と逡巡していたら、一笑に伏されてしまった。
・・・つか、金持ちって。
何かやっぱり、お貴族様か何かじゃないの?
「それで、“植物で作られた横笛”だったかな?こんなのが何本かあるけど、どうだろう?」
そう言いながら、彼はカウンターの上に、5本ほど、細い棒を並べた。
薄茶色や黒色のソレは、懐かしい物たち。
「わぁ!篠笛!」
思わず、懐かしい姿の物たちに、テンションが上がってしまった。
*********************
お久しぶりです。
なかなか更新できず、申し訳ないです。
で。
新作書き殴ってます。
『闇堕ち聖女の軌跡』
不遇な召喚聖女が、虐めに自らの力で抗い、最後にハッピーエンドになるお話。
ショートショート『獣王の一目惚れ ~ 惚れたな相手は、闇堕ち寸前召喚聖女 ~』の聖女視点のお話です。
宜しければ、作家名から作品に飛んでいただけたら嬉しいです。
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