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『約束』の行方
340.懐かしい音色 其の三
しおりを挟むクロナさんとサビさんにミノタウロスの解体を教わった次の日。
私とカン君は、商隊『蔓薔薇』の護衛として、朝6の刻からお仕事。
ジャンガラの街から、王都モースまで、2時間ほどの旅路。
これで、護衛依頼は終了になる。
*
「いや、ホントに楽な旅路だった。ありがとう。都合がつく時は、またお願いしたいもんだ。」
「こちらこそ楽しかったです。でも、指名になると、高いですよ?」
「だろうなぁ。」
『蔓薔薇』の本店前で、グラハムさんにお礼を言われ。
依頼の終了証明書と金色のカードを渡された。
「そのカードは、ウチのお得意さん証明だ。オマケは、ちょっと割引き程度になるが、ま、何か入用があれば、どんどん使ってくれ。今後ともご贔屓に。あぁ、『疾風』殿にもよろしくな。」
「えぇ、ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね。」
渡された金色に輝く3枚のカードには『蔓薔薇』の名前と、私達の名前がそれぞれ刻まれていた。
ありがたい。
からからと豪快に笑うグラハムさんと、しっかり握手を交わして別れた。
さて、約束の場所に向かいましょう。
***
アーシャさんに指定された広場は、『蔓薔薇』の本店に向かう際に通ったので、迷いなく行けた。
とは言え、朝9の刻は待ち合わせには少し早いだろうと、広場周辺で少し探索をする事に。
貴族街と庶民街の境目にある広場のため、お店も多種多様。庶民でも裕福な者が使えるようなお店もある様子。
2軒程楽器屋を発見したので、中に入ってみた。
いかにも冒険者で、しかも髪が黒い2人が入店したから、店員さんにはすごい怪訝そうな顔されたけど。
楽器は貴族の嗜みが大きいけど、お祭りなんかでは庶民も鳴らしたりするみたい。
なので、邪険にされる事なく、お客として接してくれた。
横笛とか太鼓ってある?と尋ねたら。
やはりフルートやピッコロといった横笛と、ザ大太鼓・小太鼓といった太鼓を見せられた。ティンパニーもあるみたいだけど、ドラムは無いみたいだった。
西洋のオーケストラ的な音楽が、一般的なのかな。
和楽器がないかなぁ、と思って、こんな楽器・・・と特徴を説明して尋ねてみたけど、首を傾げられてしまった。
収穫なし。
仕方ないな、と、カン君と顔を見合わせる。
店員さんにお礼をいって、店から出た。
「オネーサン、何か探し物?」
不意に背後からかかる、しゃがれたその声に振り向くと、ハンチング帽にオーバーオールな作業着姿の男性がいた。
カン君が、す、と私の前に出る。
自然なその姿に、少し笑いを漏らしてしまった。
トントン、と彼の肩を叩き、気持ちなだめてみる。
そうしてから、彼の横に立ち、声をかけてきた男性に答えた。
「えぇ・・・故郷の楽器を探してまして。楽器屋を見てはみたんですが、やはり無いようで。」
「ふぅん・・・それなら、路地裏の店がオススメかな。紹介しようか?」
「ぜひ。」
「じゃ、こっち。」
男性は、促すように首を傾けると、スタスタと歩き出した。
え?と、困惑したカン君の袖を引いて、彼について行く。
人気のない入り組んだ路地裏へ、迷いなく進んでいく彼の背を見ながら、漸くカン君は気がついたようで。ひそりと、私の耳もとで囁いた。
「・・・あの人は、約束の。」
「うん、アーシャさんだよね。」
「そっか・・・」
「バレないように、なんだろねぇ。プロだねぇ。」
声のトーンも若干違い、猫背気味な姿勢は、昨日会った時のアーシャさんの姿とはまるで違う印象。
流石、『運び屋』。
昨日の話がなければ、全くわからなかっただろうなぁ・・・
ぼんやりとそんな事を考えながら後を追っていたら、ピタ、とその歩みが止まった。
「着いたぜ。」
建物が入り組んだ中の空き地のような場所に、大きな木があって。
その脇にポツンとログハウスの一軒家。
「アンタらの探し物があるかどうかは分からんけど、他国の珍しいモノとか扱ってる。そんじゃなー。」
「あ、ありがとうございました。」
彼は、ヒラヒラと手を振ると、サッサとその場を立ち去ってしまう。
最後まで、アーシャさんかどうかは確かめさせてもらえなかったけど。
それが彼の仕事なのだろうと、去って行く背中にお辞儀をした。
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