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『約束』の行方
339.懐かしい音色 其の二
しおりを挟む「それは・・・、舞台で何か芸事をやらされる可能性があるって話ですか?」
「うん、多分ねぇ。『英雄』側なら『月華の雫』か、『疾風』側なら『氷女神』か・・・まぁ、どっちか分からんけど、パートナーであるアンタら・・・ってか、アンタに絡んで、恥かかせようと考えるだろうなぁって。」
「何ですか、その嫌がらせ・・・」
「だよなぁ・・・まぁ、『英雄』側なら、“冒険者みたいな野蛮なもの達に芸術など理解不能である”とか、“国の発展を妨げる”とか、言いがかりをつけて金をせびるだろうし、『疾風』側なら、“冒険者とは言え、由緒正しき子爵令息に相応しくない相手”とか、因縁つけんだろうなぁって未来が見えるわけよー。」
ふざけながら話すアーシャさんに、思わず溜め息。
そんな陰謀渦巻くお披露目なんて、「だが、断る」しちゃダメなんだろうか。
しかし、それを思いついている、アーシャさんてば、ホントに何者なんだろうか。
考えが及ばない所はとりあえず置いておいて、目下の心配は。
一発芸やらされる可能性、って事だよね?
アーシャさん曰くの妥当な出し物は、ダンスか、楽器演奏か、歌・・・って事?
・・・はて。
ダンス?ココでは社交ダンス的何かだろうか?
無いわぁ。
YOSAKOI的な何かも無理だし、創作ダンスもやっちゃいない。オタ芸的何かは、友達とやった事はあるけどさ。ココじゃムリでしょ。
歌は・・・カラオケは好きだけど。
そんな場でやるなら、アカペラになる。
ピアノやギターで弾き語りだって無理。
そんなスキル持ち合わせちゃいない。
演奏は・・・ピアノは子どもの頃やってたけど、無理だな。ピアノ好きなわけじゃなかったから、身になってない。
それよりも、横笛・・・篠笛があれば、なんとかなるかな?
田舎って、郷土芸能みたいな感じで太鼓があって、それを維持するためのチームがある。
小さい頃は、お祭りの山車なんかに乗るお稚児さんやお囃子の人が羨ましかったし、盆踊りの櫓の上の太鼓叩きのおにーさん達がカッコよく見えてやりたかった。
でも、親の転勤で転々としていたから、そういったチームに属することもできなくて。
だから、就職して、チームに誘われた時、小さい頃を思い出して。あの頃憧れていた事を、今なら気兼ねなく出来るんだなぁ、って嬉しかった。
ちょうどその頃、お囃子メインの方が引退してしまったこともあって、私は笛中心に取り組むことになった。
なんだかんだで、こーくんも付き合って入ってくれて。・・・器用だったから私より太鼓も上手くて。笛も合わせてくれた。
隣町のチームの20周年の時、ウチの町のチームにも声かけしてくれて。
合奏で演奏した、笛ハモリの曲が楽しかったなぁ・・・
その後、こーくんが倒れて。
結局、それから5年行けてないけれど。
昔取った杵柄というなら、篠笛と太鼓。
それなら何とか。
「篠笛があれば、ナンボかはできる、かなぁ?」
「しの、ぶえ?それはどんな楽器?」
「故郷の楽器で、種別は横笛になります。」
「それって、フルートじゃねぇの?」
サビさんとアーシャさんが口々に言う。
・・・あ、フルートってのはあるんだ。
楽器の名称とモノが違うとかは無いんだろか。
「フルート、とは、金属でできた楽器ですか?」
「あぁ、金属の横笛だなぁ。」
どうやら、楽器の名称は同じ、なんだろか?
でも、まぁ、篠笛はフルートでは無いし、息の入れ方も若干違うって言うしなぁ・・・
アーシャさんの回答に、私は首を振る。
「私の言う横笛は、篠竹、という植物由来の材質を用いた楽器になります。見た事はありませんか?」
「うーーん?わかんねぇなあ。サビ、心当たりある?」
「いや・・・ないなぁ。」
よくよく聞いていくと、この国にある楽器の種別としては、洋楽器がメインなようで、和楽器に属するものが無さそうだった。
「あ、でも。“アソコ”になら、あるかもなぁ。」
「“アソコ”?」
首を傾げると、王都にある、とある雑貨屋さんの事だそう。
何を置いているのかすら、店主も分かってないんじゃないかってくらいの、カオスなお店らしい。
「ちなみに、クロの画材を作ってることになってる店ねー。」
「さっき言ってた、『偏屈な雑貨屋』ってトコっスか?」
「そ。」
私が先に降りてきてから、天井裏部屋ではそんな話になってたのか・・・
後で詳しく聞こう。
でもって。
私達は、明日朝、『蔓薔薇』の皆さんを送るのに王都に入る。
アーシャさんはこれから王都に移動するらしく。
私達が『蔓薔薇』のお店に着いた後に、その雑貨屋さんに案内してもらう事にした。
「あぁそうだ。オレ、このカッコじゃないから。そーだな。『蔓薔薇』と冒険者ギルドの間ぐらいにある噴水のある広場で、ウロウロしててくれるか?コッチから声かけるわ。」
何だか曖昧な待ち合わせとなったけど。
とりあえず、アーシャさんに従う事にした。
*
クロナさんが、応接間に戻ってきてから、私達はお暇を告げた。
「次に会う時は、人型の時だと思うから・・・初めましてって事で頼む。」
「分かりました。今日は、解体指導ありがとうございました。助かりました。」
「・・・いや、コッチも素材ありがとう。」
頭を下げて、お礼を告げる。
頭を上げた時に見えたクロナさんの顔が、少し寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか?
お邸から、アーシャさんと一緒に出て、途中の道で別れる。
丁度昼時。
少し屋台に寄りながら、宿まで帰る事にした。
「リンさん、太鼓とかやってたんっスか?」
隣にいたカン君が、ぽつり、と呟くように聞いてきた。
「うん。5~6年前までね。こーくんが体調崩してからはやってないけど。」
「もしかして・・・7年前の、隣町の太鼓チームの20周年の時って、笛吹いてました?」
「ん?あぁ、向こうにお邪魔して、合奏させてもらった『春風』の時かな?やってたよ?・・・よく覚えてるね?観てたの?」
「あの時・・・俺、平太鼓やってたっスから。」
「へ?」
思わぬ台詞に、立ち止まってカン君を見上げた。
「え?あっちのチームに居たの?」
「えぇ。高校2年の時っスね。」
「ん?・・・そういや、カン君隣町の出身だったっけ・・・」
その時のことを、記憶の奥底から引っ張り出す。
ウチのメンバー以外、あっちのチームは、ノリノリの桶太鼓のおにーさんとジャンガラのおにーさんに、真面目な長胴パートの子達が4人と。平太鼓パートが2人・・・そのうちの1人がデカかったような・・・
「あーっ!もしかして、バット撥、キレッキレでブン回してた子?・・・言われてみれば、デカかった気がする。」
朧げながら記憶が蘇ってくる。
本番に向けて何度か合奏練習をしていた時、背後列での大きな平太鼓に負けない体格の子が、元曲演奏者さながらに、嬉々としてバットを振り回してた。
思春期真っ盛りだと、恥ずかしさが先んじて、あまり弾けた演奏したがらないのに、あの男子は全身で楽しげに叩いていたから、覚えてた。
「・・・まさかの、世間は狭いだ。」
「アレやってから、桶胴太鼓やりたくて頑張ったんですけど。結局、機会がなくて・・・」
「あぁ、私合奏に行ったの、それが最後だったからなぁ。そのあと、あの曲やってないんだ?」
コクリ、とカン君は頷く。
そして、私の顔を見つめ、口を開いた。
「次の年に、別な祭りでやろうと声かけたみたいですけど、笛がいないからって、そちらのチームに断られたハズです・・・その時には、もう居なかったんですね・・・」
ふ、と遠くを見やるようにカン君は、青い空を見上げた。
「・・・ねぇ、リンさん。」
「ん?」
「・・・あの時、リンさんと一緒に篠笛吹いてた男の人って、誰だったんっスか?」
カン君の視線が降りて、見上げた私と目が合った。
く、と、一瞬、息を呑んでしまい。胸が苦しくなる。
その痛みを吐き出すようにして、私は答えた。
「・・・あの時かぃ?・・・あれは、こーくん、だったよ?私が主旋律で、こーくんがハモリしてた。あとは、締太鼓と桶胴太鼓のベースの方をウチのメンバーが担当してたかな。」
「っスか・・・・・・じゃぁ、俺、元の世界で、リンさんにも、コウさんに会ってた、んスね。何だろ・・・同じ思い出あるの、何か、スゲェ・・・嬉しい。」
そう言って微笑んだカン君は、今まで見たことがないほどに、穏やかな顔だった。
**************
作中の和太鼓楽曲ですが。
和太鼓集団『鼓童』作の『春風』という曲を指しています。
詳しくは近況ボードで。
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