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『約束』の行方
338.懐かしい音色 其の一
しおりを挟む「あ、コレ美味い。」
「ホントだ。甘すぎないから食べやすいし。狩り中のちょっとした軽食に良いや。」
少しぼんやりとしながらも、お茶の準備をしてくれていたサビさんに、ミッドランド支部商業ギルド名義の小体力回復携帯食と、まだ試作段階の小魔力回復パウンドケーキを御茶請けとして出してみた所、アーシャさんにもサビさんにも好評。
パウンドケーキは、イチジクみたいなフルーツをドライフルーツにしたものとレーズンを、ラム酒のようなお酒に浸したモノが入っていて。その効能が、魔力回復効果を上げるみたい。
単体じゃ効果ないんだけど、酒が良いんだろうか?
ま、こちらは、商業ギルドミッドランド支部名義でレシピ登録済。
薬膳(仮)部門で研究も色々進んでいるようで何より。今後もいろんな方向に活用されると良いなぁ。
サビさんは、携帯食の方に興味津々。
アーシャさんはパウンドケーキがお好み。配送するのに、アイテム袋だけではなく、貴重品の小物なんかは、自身の空間収納を使うこともあるらしいので、魔力回復を実感する、と言っていた。
そんな2人に、少し販売もした。
「早くギルド本部で売ってくんないかなぁ」って、2人とも口を揃えるから、ちょっと笑ってしまった。
・・・この様子だと、かなり当たりそうで、レインさん嬉しいだろうなぁ。
和みながら話をしていたら、カン君が戻ってくる。
クロナさんは、まだ部屋を片付けているようで、も少しかかるようだ、と。
「そういや、アンタらって、国王の謁見って終わってた?」
不意にアーシャさんがそんな事を言ったので、カン君と2人で首を傾げる。
聞くと、A級ライセンス冒険者となった時点で、国のトップに謁見となるのだそう。
その際に「国付きのA級ライセンス」となるか、「無属のA級ライセンス」となるかの選択を迫られるモンなんだ、と。
現在の所、多くのA級ライセンス持ちが国付き。
無属はこーくんとファーマスさん、あと2人くらいなのだそう。
・・・ん?私達もそうだけど、イズマさんとベネリさんも謁見はしてないよね?
「あー、『猟犬』のメンバーも、昇格してたんだっけか。じゃぁ、まとめて謁見になるのか?でもなぁ、この時期だと・・・」
私が投げかけた疑問に、アーシャさんは、眉を顰めて、首を傾げる。
でも、アーシャさんの言ってる意味がわからない。
「何か時期的な問題がある、という事ですか?」
「うん、来月には成人の祝賀祭でしょ?多分その時に合わせて謁見にお披露目・・・ってなるかもしんないね。」
何か、看過できない言葉が聞こえた。
思わず聞き返してみる。
「・・・アーシャさん、謁見は兎も角、お披露目って、何ですか?」
「まぁ、A級ライセンス冒険者って、他国ギルドにもそんなにいない訳でさ。ウチの国には、こんなにA級がいるんだって見せびらかしたいワケよ。国とギルドは独立関係とは言え、ギルドは国から補助金もらってるからねぇ。断れない事情があるみたいよ?んで、時期的に成人の祝賀祭があるから、出し物の一つとしてカウントされるんじゃないかなぁって、ゲスの勘繰り。しかも、君らはあの孤高の『疾風』が組んだパーティーメンバーだし。話題性あるしさぁ。」
その話に、私もカンくんも、苦虫を何匹も噛み潰した表情になったと思う。
ちらりと見たサビさんも苦笑いだ。
「うん、まぁ、考えられなくはない、なぁ。やりそうだ。」
「だろぉ?」
苦笑いのまま、サビさんはアーシャさんに同意する。
「つまりは、“見世物”になる可能性があるって事、っスか?」
「んー、まぁ、そんなとこ、かな?」
カン君が顰めっ面のまま、アーシャさんに問うと、彼はヘラリと笑って答える。
それを見ながら私は、むぅ、と考える。
「“見世物”って、舞台で紹介されるとか、そんな感じですか?」
「んー。通常なら、そんなカンジ。」
「という事は、通常じゃない、可能性がある、ってことですか?」
「んー。そんなカンジかもなぁ。」
笑顔に少し困り顔を載せて、アーシャさんは私に同意した。
・・・アーシャさんって、実は何者?
「まぁ、『月華の雫』のオーナーに、『氷女神』と戦りあうんだろうから、多分内容は芸術方面だと思うぜ?・・・アンタら何かできるものある?」
「出来るもの?」
言われている意味が不明で、私とカン君は再度首を傾げた。
「舞台上でできるモノ・・・舞踊でも、演奏でも、歌でも。何か持ってる?」
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