転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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『約束』の行方

334.『約束』の行方 其の四 ※残酷描写あり

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※ 残酷描写あります。



***************




「さぁて、クロナ。お仕事用品くれる?」

「あぁ、中に入ってくれ。サビ、残りは頼む。」

「ん。りょーかーい。」



いつの間にやら、ある程度の片付けを終えたクロナへさんは家の中へと入って行った。
お暇しようと思っていたら、アーシャさんに声をかけられる。



「どーせなら、中に入っていったら?茶くらいだすでしょ、アイツが。」

「あ、うーん・・・まぁ、アーシャが何してるのか、知っておいて貰った方が良いかも・・・2人とも、中に入ってて。コレ片付けたらお茶入れるから。それまでアーシャについてっていいよー。」



アイツが、とアーシャさんに言われた言われたサビさんは、私達にそう言い残し、解体で使った大きな三脚を軽々と担ぎ、物置らしい建物に向かってしまった。



「ほら、とっとと入る。」



サビさんを手伝おうかとオロオロしたら、アーシャさんに促され、私達は渋々と家の中へと入ることにした。






家の中に入ると、アーシャさんはずんずんと2階に上がり、ある部屋に入る。
後を追うと、部屋の隅に、梯子が立てかけてあった。その先の天井を見ると、穴が。
梯子に手をかけ、アーシャさんはするすると登っていく。
後に続き、梯子を登ると、つん、と油のような、薬剤のような匂いが鼻をつく。

ひょこり、と穴から顔を出すと、そこには10畳程の薄暗い空間。
身体を持ち上げ、屋根裏部屋に入る。
少しずつ、薄暗さに目が慣れてきた。

クロナさんは部屋の奥にある机の前で、何やらガサゴソと箱詰めしている。

アーシャさんは部屋の中央に佇み、壁の方を向いていた。

その視線の先には、壁に立てかけられているのは大きなキャンバス。
アーシャさんが背を向けている側にも同じ大きさのものがあった。



「これ・・・」



今回泊まっている高級宿『蛍火』のロビーに飾られていた絵と同じタッチ。

2枚のうち一方の絵は、黒の簡素なドレスを身に纏う女性が、赤い月の浮かぶ夜の砂丘の上に座り込んでいる。
絵画『蛍火』の女性と同じ顔なので、“戦乙女ヴァルキリー”シリーズの作品なのだとはわかった。

絵の中の彼女は、力無く上げた掌から砂を溢し・・・月を見上げ、何かを悼むような、感情が抜け落ちたような、そんな表情で・・・


思わず、もう一方のキャンバスに振り返り、私は、ひゅ、と息を呑んだ。


囚われ、泣きながら手を伸ばす戦乙女ヴァルキリー
その先には、焼き尽くされるような業火の中・・・蹲り手を伸ばす獣人の男性。
おびただしい程の槍や折れた剣が地面に刺さり、そして彼自身も長い槍に貫かれている。
光無い目なのに、浮かぶ表情は、愛おしむように、悼むように・・・




ーーー 女性は、獣人の彼を心から信頼していた。男性も、彼女の事を愛していた。

それにより、獣人族が所有権居場所を主張。3国の争いは激化。

しかし、女性は策略により人族の手の内に堕ち。最終的に人族の国が勝ち、獣人族の国と妖精属の国は滅ぼされた。 ーーー



この絵が、昨日、こーくんが話した『黒髪の戦乙女ヴァルキリー』の真実の物語の一節なのは分かった。



「この2つ、『黒髪の戦乙女ヴァルキリー』シリーズの新作ね。こっちの獣人が殺されてる方が『ハガネ』。で、そっちの戦乙女ヴァルキリーオンリーが『砂漠の子守唄』、だってさ。・・・しかしまぁ、発表のタイミングが難しい作品だこと。」



アーシャさんが、淡々と説明してくれる。


「出すにしても、対で出さないとダメだろうなぁ。んでもって、完全にイリューンに喧嘩売るヤツだし。・・・発表禁止にならなきゃ良いけど。・・・なぁ、クロ、コレらもに運んでオッケーなのか?」

「ん?・・・あぁ。仕上げはあっちでやるから、頼む。」

「りょんかい。」



アーシャさんとクロナさんの声が、遠くに聞こえる。

私の身体は、絵画『ハガネ』の前から動けなくなる。

とん、と背後から肩を掴まれた。



「大丈夫、ですか?」



背中から抱え込まれるように肩を抱かれ、耳の側で、心配そうに呟かれる。
私は、膝から崩れ落ちそうな身体を必死に押しとどめて頷いた。

でも、絵の中の獣人男性の姿から、視線が外せない。

翡翠色の狼系獣人。
その彼の顔は、紛れもなく、私の記憶に残る『黒崎君』の顔だった。
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