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『約束』の行方
333.『約束』の行方 其の三
しおりを挟む垂れ目で気怠げな様子が、何とも色っぽい感じな猫系獣人さん。
『朧梟』のベニさんがトラ猫系な色合いだったけど。
この人は、何だろう?イリオモテヤマネコ?濃い灰色斑な感じだ。
癖のあるウェーブな髪はアジアン風なバンダナで纏められ、長い巻きスカートに着崩したブラウス、格好は女性的なんだけど・・・
どうみても喉仏、だよなぁ、首の・・・であれば、しゃがれ声も納得。
オネエさんよりも、女装子さんかな?
「アーシャか。どうした?」
「どうしたもこうしたも、今日納品日だろうが。取りに来てやったんだから、ありがたく思え。」
・・・わぁ、清々しいほど尊大。
サビさんは苦笑いだけど、クロナさんはあまり気にしていないみたい。
「あぁ、そうだったか?それは、すまんかった。客人に解体を教えてたからなぁ。まだ準備できてない。中で待っててくれるか?」
「りょーかい・・・ん?黒?」
アーシャと呼ばれたその人は、つかつかと近寄り、小首を傾げ、青っぽい目でじぃ、とこちらを見ている。
私よりも少し大きい背なのは、足元のシークレットブーツの所為だろうか?
「・・・誰?髪も、目も黒、だね。」
顎に手を当てながら、珍しそうに、私とカン君を交互に見る。
うん。やはり、男の人っぽいな。
「彼等は、リンとカン。ミッドランド支部所属の、A級ライセンス冒険者だ。」
「初めまして。・・・お邪魔しています。」
「ども。」
クロナさんの端的な説明に、私達は頭を下げる。
ピクン、と耳が反応し、眠そうな目が、一瞬見開いた。でも、また眠そうな視線に戻る。
「・・・あー、噂の『疾風』のパーティーメンバーってやつ?」
「噂?」
「うん。人当たり良いのに自パーティーを組まない『疾風』が、『黒持ち』らしい人物とパーティー組んだらしいって、ギルド本部で大騒ぎになってたって聞いたな~。」
思わぬ内容に首を傾げた私達に構わず、アーシャさんは話を続けた。
「んと、クラスA『氷戦神』の『氷女神』様がお怒りだって聞いたな。ま、せいぜい気をつけな。」
「お怒り、ですか?」
また、新しいワードが出てきた。
『氷戦神』・・・聞いたことあるような?
でも、また、なんで?
首を傾げていると、アーシャさんはくすりと笑う。
「『げに恐ろしきは、女の嫉妬』ってとこじゃね?女神様は、『疾風』にご執心だったしなぁ。元々伯爵家出身だし、大概のわがままはどーにかなってたんだろーけど。『疾風』だけは、思い通りにならんかったみたいだしなー。それがパーティー組んで、そのうちの1人は女だって話・・・まぁ、気をつけるに越したことねぇだろ?」
「お詳しいんですね。」
喋り方は完全にガラ悪めな下町男口調。女性っぽい見た目とのギャップが面白い。
しかし、噂話集めるの得意なのかな?
ほぉ、と感心して聞いていたら、また、くすりと笑われる。
「まぁ、オレは『運び屋』だからな。物でも情報でも、なんでも運ぶよ?以後お見知り置きを?」
語尾を疑問形で茶化しながら、にやり、と笑みを浮かべる・・・綺麗だけど、ゲスいんだろうな、この人。
トラブルを見て、楽しんでる感じする。仕事で楽しんでるのか。
でも、なんか、嫌いじゃないなぁ。
今の話から察するに、今朝こーくんがギルド本部に出かけたのはこの所為だったのかな?
・・・言ってくれないのは、余計な心配させない為かもしんないけど、「かもしれない」でも、「だから確認してくる」って言っては欲しかったなぁ。
「えぇ。宜しくお願いしますね、アーシャさん。お近づきついでに、1つ情報を渡しておいても良いですか?」
「え、何?」
ワクワクな雰囲気を醸し出すアーシャさんに笑いそうになりながら、ちら、とカン君を見ると訝しげな顔。
「アーシャさんの技量なら、もう既に持っているかもしれない情報ですし、クロナさんやサビさんからも聞ける話ではありますけど・・・きちんと名乗らせてください。」
「うん。」
アーシャさんは、先程までの軽いノリを引っ込め、じ、と、真面目な顔で、私を見つめた。
「冒険者ギルド、ファルコ領ミッドランド支部所属、A級ライセンス冒険者リン=ブロックと申します。こちらは同じくA級ライセンス、カン=マーロウ。私達は、アーシャさんのおっしゃった通り、コウラル=チェスターによって結成された、クラスAパーティー『旅馬車』のメンバーです。・・・そして私は、コウラル、カン・・・それに、同じくミッドランド支部所属のクラスAパーティー『猟犬』のリーダー、A級ライセンス冒険者ファーマス=ベレッタと婚姻関係にあります。」
「・・・へぇ。噂はホントだったんだ。」
眠たげな目がまた見開かれた。
やはり、私達の事知っていたみたい。
まぁ・・・クロナさんが、ある種の要人であって、サビさんやキヨサネさんみたいな護衛や諜報関係の人がいて、であれば、アーシャさんもきっとその筋の人なんだろうな。
「なんでまた、オレに言おうと思ったのさ。」
「噂話に精通する方なら、正しい情報を自分から渡しておいた方が良いかなぁって。」
「ん、違いないね。」
くすり、と笑うアーシャさん。
す、と右手を差し出してきた。
「アンタ面白いね・・・まぁ、今後とも宜しく?」
「こちらこそ。」
とりあえず、拒否はされなかったようで一安心。
差し出された手を握り、私はそっと一息ついた。
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