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袖振り合うも多生の縁
330.黒髪の戦乙女《ヴァルキリー》 其の十二
しおりを挟む「一体、何を・・・」
驚愕したキヨサネさんは、すっかり語彙をなくした様子。
煽る様に、こーくんが続けた。
「だから、リンは、僕とカン、そしてファーマスさんの妻、という事になります。」
「貴族でもないのに、多夫なんて・・・」
私を見ながら思わず眉を顰めたキヨサネさんを、こーくんは真顔で見つめ、ワントーン落とした声で話を続けた。
「A級ライセンス持ちは、男爵位相当の権利を持つ。その上、国の何者にも属さない事も選択可能。其れを選んだ場合、例え国王であっても、そのA級ライセンス持ちをその地位により従わせる事は不可・・・それ故に、国付きではないA級ライセンス持ちは、魔獣が絡む各国の有事の際に、国境を超えて討伐に向かう事ができる。そして政策には関与しない・・・これが各国に冒険者ギルドが立ち上がってからの不文律。違いますか?」
「・・・いえ、ですが。」
「召喚の話が出たけど、それがリンとカンに当て嵌まるかは分からない。だから、リンとカンは今のところ『漂流者』。彼らの故郷では黒髪は当たり前だが、魔法を使うのは当たり前ではなかった。此方に来てから魔法発露しているし、得手不得手も強く、全属性とは言えない状態・・・だが、この国を始め、この界隈の国では『黒持ち』は全属性の象徴。そんな状態で下手に動けば、欲深い貴族に取り込まれて終わり・・・だからこそ、A級ライセンスを取って、国付きではない僕とパーティーを組んだ。彼らの目的である、祖国の場所と帰り道を探すために、ね。」
「・・・結婚も、その布石だ、と?」
「念には念を・・・と言いたいところだけど、結婚については、これを建前に、僕等がしたくてお願いした様なもんだよ?一石二鳥、というか。リンとカンの身を守りつつ、合法的に愛する人と一緒にいられる方法を選んだ、それだけ。まぁ、ウチの奥さん責任感強いから、それを理由に、自分の事より僕らの事を守ろうとしてくれちゃうんだけどさ?」
最後には声のトーンが戻りながらそう言い放つと同時に、真横から伸びた手が、私をハグした。
半眼の私に構う事なく、こーくんはぐりぐりと、私の側頭部に頬を押しつけてくる。
・・・人前で止めんか。似非イタリア男。
「僕の婚約者騒動にも撒餌役割を自ら買って叩きのめしてくれちゃうし、カンに粉かけてきた女性も返り討ちにしちゃうし・・・てな訳で、今回のファーマスさんの件もヤる気満々な訳ですよ。
・・・ですから、ね?使える情報はさっさと頂けた方が有難いんですが。」
私の頭を抱え込んだまま、胡散臭い笑みをキヨサネさんに向け、じぃ、と見つめるこーくん。
数秒の間の後、漸く観念したようにキヨサネさんが口を開いた。
「分かりました・・・下手に此方で動くよりは、『疾風』の力を借りられた方が効率的になりそうですし。何にせよアッチの資金源が絶たれるなら、こちらも好都合ですからね。」
そう言うと彼は、現在のところ分かっているリリー・コルチカムを取り巻く現状を整理して伝えてくれた。
彼女が運営する『月華の雫』という芸術家集団だが、結局の所、顔の良い自称芸術家の集まり。
画壇やら何やらを操作できているのは、金があるから為に下衆な貴族が集まっている状態だから。
ファーマスさんと一緒だった頃は、彼女は儚げな若い美人さんだったようだけど、それからそれなりの年月は経ち。
・・・美魔女がツバメを何人も囲ってる、と言った具合。
まともな芸術家は、キヨサネさん側の画壇だったりで活動しているが、結局お金だったり、脅されたりの問題で、ゴーストライターになっている者もいるのが実情。
ただ最近は、新進気鋭の画家『クロル=グレン』が彼女になびかず、活動している事で、彼女の元に集まる目ぼしい新人芸術家が減っているのだそう。
集まるのは有象無象ばかり。
何とかして『クロル=グレン』の引き抜きを図ろうとするも、ストラディック家の後ろ盾の元で活動をしている事で、迂闊に手を出す事も出来ず。ましてや、正体もちゃんと掴めていない状態のようでヤキモキしている、と。
引き抜きにあたり、ルーミル伯爵家も一枚噛んでるよう。
だからこそ、キヨサネさんの所に来ていた、と。
・・・ともかく、彼女とルーミル伯爵家は繋がっている。
ルーミル伯爵家とイリューンも繋がっている。
ただ、彼女とイリューンが繋がっているかは不明。
此処までの情報で、私達は何を動くこともできず。
とりあえず、私達はギルド本部の呼び出しで王都まで来ている為、暫くは王都周辺で活動する事になること。
その間に、私の存在が知られるだろうこと。
誰彼から接触があった時は、キヨサネさん達に伝え、情報共有を図る事を確認した。
一先ずは明日、クロナさんにミノタウロスの捌き方を学び、その後で冒険者ギルド本部へ向かう事となった。
・・・キヨサネさんとやり取りするのに集中していたのと。
こーくんが、ちょっかいをかけてくるのをいなすのに、手を取られていたから。
クロナさんが、どんな顔して私を見ていたのかも。
それを、カン君がどうして警戒していたのかも。
全く気付いていなかった。
***************
※ 修正について ※
クロルの名前ですが、
神殿にいた時はただ獣人族の『クロル』
人族に擬態している時は絵描きの『クロル=グレン』
獣人族冒険者の時及び前世のあだ名は『クロナ』
と、させて頂きます。
先の展開への辻褄合わせですσ(^_^;)
その為、今後リンが彼を呼ぶ際には、『クロナ』となります。
それに伴い、316話『新たな出会い』~329話『黒髪の戦乙女 其の十一』まで、名称名称変更の他、話を加えたり削ったりと、諸所修正をかけています。よろしくお願いします。
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