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袖振り合うも多生の縁
329.黒髪の戦乙女《ヴァルキリー》 其の十一
しおりを挟むこーくんは少し私の頭を撫でた後、ニヒルっぽく口端を上げながら、キヨサネさんを見た。
「・・・まぁ、世間一般の評価はそんなもんだよ?ファーマスさんの責任感の強さと不器用な優しさから、そうなってしまったんだろうなって、真実を理解しているのは、今、彼の周りにいる人間だけ。
それに・・・この件に関しては、当の彼自身がある種割り切ってるからね。
彼が提供したのは金だけ。それで芸術畑の土台が荒らされるってんなら、違う所で関係者が何とかすりゃいいけど。結局王都周辺の貴族達の中に、例の彼女の振る舞いで良い思いをしている奴等だっているから、正そうとしても、難しいんだろうねぇ・・・つまりは、対抗策を見出せない芸術畑の人間の八つ当たりで、ファーマスさんが悪く言われてるってだけの話さ。
ま、ただ、ねぇ、仮にも諜報部員が、世間一般評価を、真に受けて踊らされているのも考え物だけど?」
「・・・。」
「・・・と、言うわけで、僕達『家族』は、ファーマスさんのことを悪し様に言われる事は勘弁ならないので・・・嫌味標準装備がストラディック家の当たり前だったとしても、今後その口は謹んでくれると有り難いかな?折角、協力関係を築こうと思ってるんだから、さ?・・・じゃないと、リンの正論3倍返しが毎回出るよ?止めるのも大変だから、其方が気をつけて?」
最後には、とっても良いイケメンスマイルを振り撒きながら、こーくんがさり気なく追い討ちをかけ、抉っていく。
その物言いで、私も少し冷静になる。
・・・止めるのも大変、と言いながら、基本的に煽っていくスタイルだよね、君は。
と、内心思いながら、こーくんをジト目で見つめていると、逆側から視線を感じた。
ふ、と視線の側を見たら、カン君が目を細めて口元を軽く抑え・・・
何笑ってんのかなぁ?
『似たもの夫婦、ですね。』
パチリ、と目が合ったカン君に呟かれた。
・・・すん、と頭が冷える。
ありがとう、益々冷静になったわ。
「・・・分かりました。不快にさせて、申し訳ありません。」
キヨサネさんが、苦虫を噛み潰したような顔で頭を下げる。
・・・あら、意外。あっさり下げたね。
その様子を見ていたクロナさんとサビさんが目を丸くした。
「やっぱりすっげぇな!あのキヨを言い負かした!」
「・・・サヴィ?」
「ぴゃっ!」
キヨサネさんの冷たい視線がサビさんに向けられると、サビさんは耳と尻尾がビクン、と立ち上がる。
その様子を見て溜飲を下げたのか、気持ちを切り替えるように息を吐き、此方を見据える。
「・・・しかし、あなた方が『家族』の様に『英雄』を慕っていたからと言って、彼があの女に資金提供をすると言えば、止める権利はないですよね?そこはどうお考えで?」
キヨサネさんの眦に、ギリ、と力が篭る。
その様子に、私はくすり、と笑ってその視線を真っ向から受け止めた。
「いえ?ありますよ?『家族』だもん。」
「は?だから、っ?」
「王都運営費程の潤沢な資金があったにも関わらず、まともな芸術家を育成もできず、ただただ金を食い潰すだけの穀潰しな悪女に、これ以上、私の大事な夫の財産を奪われるつもりは毛頭ありませんから。」
「なにを・・・って、はぁっ?夫っっ!??」
素っ頓狂な声、って、これかぁ、とか。
いったん冷静になったのに、またビックリして血圧大丈夫かなぁ。
とか、どーでも良い事考えながら、私は、驚愕な表情で立ち上がったキヨサネさんを見つめていた。
「・・・夫?」
キヨサネさんが驚く横で、クロナさんが目をパチクリさせている。
「え?『英雄』再婚してんの??」
同じく、キョロキョロと挙動不審な動きで、キヨサネさんと此方の様子を伺い見るサビさん。
・・・どうやら、この情報は、まだ届いていなかったみたいだ。
「冗談・・・それが本当だとして、何故貴女は『猟犬』に属さず、『旅馬車』というパーティーを結成し、離れているのです?」
不快だ、とでも言うように、キヨサネさんが声を荒げた。
「別に、夫婦だから必ず同じパーティーである必要はないでしょう?」
「なっ?」
別に、単身赴任だってあるわけだし。
首を傾げていたら、こーくんが口を挟む。
「あぁ、ウチのパーティー、一妻多夫ですから心配ないです。ファーマスさんは第3夫ですから、留守番です。」
「はぁぁ?」
ですが、何か?と言った風に、こーくんが伝えれば、再度素っ頓狂な声。
・・・だから、血圧上がるよ?キヨサネさん。
*********************
短編書き殴ってます。
『獣王の一目惚れ ~ 惚れたな相手は、闇堕ち寸前召喚聖女 ~』
不憫な召喚聖女に一目惚れしちゃった、敵側の魔王配下の獣王様のお話。
お暇潰しに良ければどうぞw
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