転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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袖振り合うも多生の縁

327.黒髪の戦乙女《ヴァルキリー》 其の九

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※ 前話(326話)ですが、228話「領主様との面会 其の三」との整合性が取れていなかったため、後半修正しております。



*************


私達の話を聞いていたクロナさんは、腕を組み、難しい顔をしていた。
隣のサビさんが、困り顔でクロナさんに話しかける。



「ねぇ、クロナ。キヨにも同席してもらって、彼らの話を聞いた方が良い気がする。この国の貴族のパワーバランスだったりは、アイツの方が詳しいもん。どう動くのかも踏まえて、アイツが最初からいた方が良いよ。」

「んー・・・そうだなぁ・・・」



2人が思案顔をしているのを黙って見ていたら、それまで黙っていた隣のカン君が、ピクリと肩を揺らした。



「外に・・・誰か来ています。」



部屋の扉を見据え、ポツリと呟く。
クロナさんと、サビさんが、バッと振り向き、一瞬身構えた。
外の気配を感じ取ったのだろう、瞬時に身体の強張りが取れた。


「・・・キヨだな。」

「そうだね・・・あ、そっか。カンが遮音結界張ってくれているんだったね。どうりでノック音が聞こえないわけだ。オレが出るよ。」



すくっ、と立ち上がったサビさんが
躊躇いなく部屋の扉を開けに行く。
外にいたのは、やはりキヨサネさんだった。彼は、少し驚いた様子で部屋の中へと入ってきた。



「スゴイ遮音結界だね・・・ウチの魔道具、性能良い筈なんだけどなぁ。自信なくすわぁ。」

「カン・・・彼が気を遣って張ってくれた。こちらの事情は伝達済み。彼等の事情もあったから、お前を呼びに行こうかと思っていた。丁度来てくれてよかった。」

「事情、ですか?」

「あぁ・・・既にイリューン絡みで、リンが襲われた、と。」

「何ですって?上からそんな報告は受けてませんが?!」



キヨサネさんが、少し苛立った声を上げた。
・・・まぁねぇ、ファルコ領騎士団の内部不祥事であった訳だし。
報告していることと、していないこと、あるんじゃないかな。

どう説明しようかと悩んでいたら、落ち着かせるようなゆったりした口調でこーくんが口を開く。



「・・・ファルコ領側の失態だから報告を上げなかった訳ではなく。リンとカンの存在の秘匿の為、報告をさせなかったんですよ。冒険者ギルド、ミッドランド支部のロイド支部長ギルドマスターと、当時2人が所属していたパーティー『猟犬グレイハウンド』のリーダーファーマス『英雄』の意向です。・・・あの時はまだ、2人ともB級ライセンスだったんでね。『黒持ち』であるが故、下手すると馬鹿な貴族に取り込まれる可能性があった。辺境であるが故に、誰が味方か見極める必要があったのと、身を守る為にA級ライセンス昇格することを優先させましたからね。」

「成る程・・・。声を荒げ、申し訳ありません。しかし・・・それを此方に話して頂けたという事は、ある程度此方を信頼して頂けたという事で宜しいですか?」



す、と、先ほどまでの激情を一気に引かせ、キヨサネさんは、こーくんへと向き直る。



「えぇ。クロナさんのお話を伺い、此方も無関係ではない事が分かりましたし。一番の被害者であるリンがヤる気満々なんでね。色々と協力した方が良いと思ったんですよ。」

「成る程・・・」



ふむ、と腕組みをしたキヨサネさんに向けて、再度ニースの森での一件を伝え、理解を得た。



「しかし・・・ルーミル伯爵家ですか・・・確かに一番イリューンには近い所ですね。イリューンとの交易でも、顔役の様なことをしていますし・・・確かに、何度か当宿に来て、絵の購入を打診されたことはありました。『光の中で』の展示を開始した際が、一番しつこかったかもしれません。」

「しつこい?」

「それまで以上に、クロさんに取り次げとか、モデルを紹介しろとか、ですね。終いには『この絵はイリューンの神殿に納めるべきだ』かなーりしつこかったので、辟易してましたから。あぁ・・・そう言われれば、その騒動後ですから、7の月頃からはルーミル家からの使いは見られなくなりました。」

「ふぅん・・・やはり、その家は関わっていそうですね。」



剣呑な雰囲気で、こーくんが呟くと、キヨサネさんも頷いた。



「まぁ、『月の瞳』という宝石の輸入に関わる事とかで、黒い噂もありますからね・・・何にしても、色々と膿を出す良い機会になれば良いかな、と。」



美形2人が、見つめあって笑みを向け合う。
とてーも腹黒オーラが満載で、おっかない。



「まあ、それはそれとして。先程協力する理由の一つ目と仰っていましたが、二つ目はあるのですか?」



キヨサネさんが小首を傾げる。
私はちら、とこーくんの顔を見た。
ん、と言う様に、彼は力強く頷いてくれる。



「現画壇を取り纏めているというお話の、リリー・コルチカム様・・・彼女への資金援助のお断りです。」

「「「は?」」」



にっこり、と笑って告げた私の顔を、驚きの表情で彼らは見つめてきた。



*********************


またも、短編書き殴りました。

『獣王の一目惚れ ~ 惚れた相手は、闇堕ち寸前召喚聖女 ~』

不憫な召喚聖女に一目惚れしちゃった、敵側の魔王配下の獣王様のお話。

お暇潰しに良ければどうぞw

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