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袖振り合うも多生の縁
318.新たな出会い 其の三
しおりを挟むクロナさんに案内され、馬車は町の中を進む。
町とは言え、王都領内だからなのか、規模は大きい。ミッドランドよりも少し小さいくらいだろうか。
ほぇ、とあちらこちらをキョロキョロ眺めていると、横でクロナさんにくすりと笑われた。
「珍しいか?」
「はい。領ごとに、町の雰囲気って違うと思ってましたけど。王都領内はまた違いますねぇ。」
「・・・そういや、アンタの故郷は何処なんだ?ミッドランド支部に属してるって話だったが、アソコには『英雄』がいるだろ?『ケルベロス』がクラスA剥奪され、メンバーが捕まった、ってのは聞いていたが・・・新しいA級ライセンス冒険者誕生だったら、その前に強い冒険者がいるって話題になりそうなもんだが。」
クロナさんが、こてん、と首を傾げた。
三角のグレーの耳がピクリと動いて可愛い。
しかし、やはりこの世界、情報伝達は遅いようだ。
私はひと息吐いて視線を外し、外の景色を眺めながら、設定を話す事にした。
「えっと・・・私とカン君は『漂流者』なんですよ。」
「は?」
「元々は、アス=ガルタという島国で、警備隊に入ってまして。見回りで船に乗っていたら、嵐によって船が沈没。その時に、私とカン君が、投げ出されて。気がつけば、ニースの森の入江に流れついていました。そこを師匠・・・えっとファーマスさんに拾われて。暫くはニースの森の集落に居候させてもらって。師匠や『猟犬』のイズマさん、ベネリさんからも戦い方を教わったんです。」
「そう、なのか・・・」
「私は元々銃剣道を使ってましたから、それに絡む身体強化が、この国での魔法に転用できたみたいで。それでしばらくは『猟犬』のパーティーメンバーとして居させてもらって。ある意味、隠蓑ですよね。それで、A級ライセンスが取れたので、カン君と一緒に、こーくん・・・コウラルにお願いして、パーティーを組んでもらったんです。この国や世界を知りたくて、旅をしたかったから。」
「旅?」
「ん。帰る方法があるのか否かも含めて調べる事も目的なので。」
「・・・帰りたい、のか?」
ふと、彼の顔をみると、何処か不安そうにこちらを見ている。
グレーの瞳が悲しげに揺れた気がした。
何故そんな顔をするのかが不思議で、首を傾げる。
「帰りたいか、も、分からなくて。帰れるかどうかを知ってからでも良いのかな、とか思ってて・・・」
「そ、なのか・・・あ、そこの宿だ。」
私達の会話は、目的地についた事で強制的に終了された。
目の前には、4階建と思しき立派な建物。
一階がレストランのようになっているみたい。
「此処が、この町じゃ一番信頼できる宿だ。」
「まさか、とは思ったが。ホントにあの『蛍火』なのか?」
グラハムさんもポカンとしている。
聞くと、2年ほど前に出来た宿なのだが、設備も接客もご飯も良く、王都内ではかなり話題で、予約の取れない店なのだそう。
うん、宿というより、ホテルだよね。
「クロナ!おかえり!言われたとーり、部屋取っといたぜ!」
「クロさぁん。まった、急な話持ってくるねぇ?個室は無理だから、3部屋で抑えたからね。」
スカイグレーの狼獣人サビさんが、エントランスから飛び出してきた。
そしてその後ろから、青紫の髪色をした線の細い男性?が現れた。ツーブロックのアシンメトリーな髪型に、くりっとした目、身長も170cm位であまり大きくはなく。美少年に近い美青年だろうか。妖艶な雰囲気もある。
そんな彼は、馬車から降りたクロナさんに、す、と近寄り、ナチュラルに寄り添った。
・・・衆道かな?
ちょっぴりドキドキしながら、事の成り行きを見守る。
「キヨ、済まない。マトモに紹介できる宿は此処しか知らなくてな。」
「ん。サビから聞いたよ?特殊個体引っ張って鉢合わせで迷惑かけたのに、返り討ちにしてくれたって。・・・無事で良かったねぇ。」
キヨ、と呼ばれた青年は、何処か、うっとりとした様子でクロナさんを見上げている。
「あぁ、だから、彼等をもてなしたいので頼む。」
「わかったよ。他ならぬクロさんの頼みだからねぇ。では皆さま中へどうぞ・・・ん?」
キヨさんは、私の顔を見てくりくりな目をさらに見開いた。
そして、下から覗き込むように私の顔をマジマジと見つめてきた。
「んん、ん~?」
「あの・・・何か?」
「おい、キヨ。何してんだ。」
「・・・クロさん、モデルは彼女だったの?こんな黒髪の彼女、いつ知り合ってたのさ?」
「モデル?」
キヨさんの言う意味が分からなくて、首を傾げる。
隣にいたクロナさんを見上げると、困ったような顔をして、人差し指で頬を掻いていた。
何があるんだろう?と思っていたら、不意に背後から肩を引かれた。
「リン、どうしたの?」
振り返ると、こーくんとカン君。
ニコニコとしてるけど、何処か警戒している感じ。
キヨさんはそんな様子に目を眇めると、急に佇まいを直して、私達に向き直った。
「失礼致しました。私はこの宿の支配人、キヨサネ=ストラディックと申します。」
「ストラディック・・・」
「あぁ、宰相補佐のストラディック侯爵の所の分家にあたります。胡散臭く見えるのは、蝙蝠族の性分なので、申し訳ないです。ご案内致しますので、とにかく、中へどうぞ。・・・モデル、の意味も、そこで分かると思いますよ?コウラル=チェスター様?」
キヨサネさんは、私の背後にいたこーくんに向かって、くすり、と妖艶な笑みを浮かべる。
ピクリと、私の肩を掴んだこーくんの手に力が入った。
「さ、皆さま。ご案内致します。こちらへどうぞ。」
優雅にお辞儀をし、踵を返したキヨサネさんの後をサビさんとクロナさん、グラハムさん達が続き、私達はその後に続く。
ふと見たこーくんとカン君の顔は、どこか強張っている。
何故、こんなにも彼らが警戒しているのか意味が分からないまま、私達は宿のエントランスへと足を踏み入れた。
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