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袖振り合うも多生の縁
312.王都までの道のり 其の十
しおりを挟むこーくんがぶん投げた男が、先に吹っ飛ばされた男達と一緒に、見慣れた捕縛魔法陣に捕まった。
「・・・リーダー、何遊んでるんスかぁ?」
ややドスの効いたような、低音声が響く。
いきなり現れた黒髪、黒鎧の大男に、周囲が息を呑んだ。
何だろ、それに金髪でサングラスかけてたら、『I'll be Back』とか言いそうな威圧感だなぁ。
笑いを堪えながら見ていると、カン君の背後から、ユウさんと男性3人の姿が見えた。
「いったい、何の騒ぎだ。」
現れたのは、ファーマスさんやロイドさん程とは言わないけど、青地に銀メッシュが入った短髪の大柄な壮年男性が口を開く。
彫りの深い顔立ちに、頬を走る傷がこれまた良い威圧感。ここの支部のギルマスさんだろうか?
隣には、今回私達が護衛をしている中規模商隊『蔓薔薇』の隊長、グラハムさん。浅黒い肌に金に近い黄色髪。ワイルド系な細マッチョの気のいいお兄さん。冒険者としてもB 級ライセンス持ちで、そこそこ強い。『蔓薔薇』自体が荒事大丈夫な運送会社みたいなもんなんだそう。
今回、私達が護衛に参加した事に驚いてだけど、今回の荷物に、ミッドランド支部から王都本部への最後の劣竜種素材送付もあったようで・・・縁かなぁ?
そして逆隣には、ブロンド長髪を一本縛りにした、綺麗めな顔立ちの壮年・・・というには少し若めで気弱そうな男性がいる。
「お父様!!」
「キャスル・・・何故君がここにいるのかな?」
お嬢様が、気弱そうな男性に声をかけた。男性は、彼女を見て、困惑した表情を浮かべた。
あの人がエイバー子爵かぁ。
・・・何となく、察した。
お父さん、お疲れ様です。
「お父様!あの冒険者が失礼な事を言うのです!護衛兵士に雇い入れて差し上げると言うのにっ5億ゴルを寄越せなどと!」
「ごっ・・・」
エイバー子爵が、ひゅっと息を呑んだ。
その隣で、大柄の男性はそのやり取りに訝しげな顔をしたが、チラッとこーくんの方に目をやると、すんごい困った顔になった。
あ、片手で顔を覆い、項垂れた。
近くのグラハムさんとユウさんが苦笑い。
カン君は・・・無表情。
「しかも、あんな獣人を庇うなんて!非常識にも程がありますわ!お父様からも言ってやってくださいまし!」
お嬢様から、またもトンデモ発言。
また、隣からゆらりと殺気が立ち昇る。
カン君の近くからもだ。
ダイさんとユウさんが、一触即発なお怒りモード。
「・・・だ、そうだ。エイバー子爵、どうするおつもりか。」
ロット支部ギルマス(推定)の重たい声かけに、エイバー子爵は青ざめた顔で唇を噛みしめ、弱々しく首を振る。
そして、意を決したように顔を上げると、ツカツカと令嬢の元へ歩み寄った。
近づいて来た父親に安心したのか、令嬢の横顔が意地悪そうに歪む。
「さぁお父様!エイバー子爵家に逆らう愚か者に・・・っ」
令嬢の言葉を遮るように、パァン!と乾いた音が響く。
その場が固まった。
頬を叩かれた令嬢は、何が起きたのかわかっていないのか、顔を横に向けたまま放心している。
エイバー子爵は、子のその姿に唇を噛みしめると、くる、と踵を返し、こーくんへと歩み寄っていった。
「この度は、私の娘がご迷惑をかけ、申し訳ない。」
「なっお父様!?何故そんな冒険者如きに頭を下げるのです!その者は移籍金が5億などと言う、法螺吹なのですよ!」
「黙りなさい!!」
声を荒げた事など無いのだろう子爵は、怒りの矛先をどのように向けたら良いのか、戸惑っているようにも見える。
彼はそのままこーくんに向き直ると、再度静かに頭を下げた。
「・・・我が娘キャスルが貴殿にご迷惑をかけ、更にお連れ様にも不快な思いをさせ、申し訳ない。」
いきなりの貴族としてはありえない行動に、ギルド内がざわりとする。
頬を抑えた令嬢が、またヒステリックに叫んだ。
「お父様っ?!何故そのような者に!」
ゆっくりと顔を上げた子爵は、娘の叫びには応えず、こーくんに向かって話し出す。
「・・・移籍金が5億というならば、高ライセンスの持ち主のはず。緑がかる白銀髪の高位冒険者・・・私は1人しか存じ上げない。モースバーグ国冒険者ギルドA級ライセンストップ・・・コウラル=チェスター殿しか。キャスル、君は何という人に無礼を働いたんだ!」
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