321 / 393
袖振り合うも多生の縁
311.王都までの道のり 其の九(コウ視点)
しおりを挟む自分の言葉に、周囲の空気が固まったのが分かる。
ふと視界の端に猫耳がピクピク動いてるのが見え、チラリと見ると、ベニさんがポカンとした顔でコチラを見ていた。
多分、『朧梟』の2人も、彼女を前のパーティーから引き抜く時に幾らか支払っていると思う。
まぁ、話を聞く限り、最低なパーティーだったようだし、金額は吹っかけられただろうが、きっとユウさんが啖呵切って、手切れ金を叩き付けたのだろうなぁと容易に想像がつく。
・・・金貨の袋を相手の顔面に投げつけてそうだなぁ。
そんなことを考えながら、再び視線を令嬢達に戻す。
令嬢は手に持っていた扇を、お付きは拳を握りしめ、此方を睨んでいる。
「な・・・なんですって・・・?」
「ふっ・・・ざけるな!」
「あぁ。内訳だけど、冒険者ギルド本部に2億、ミッドランド支部に2億。残り1億から、今回の依頼への違約金と、パーティーメンバーへの補償金支払い分になるから。で、ソレとは別に、僕との契約だけど。年俸は1億なんで。」
「・・・たかだか冒険者風情がっ舐めたことを!!」
お付きの男の殺気が上がる・・・けど、やっぱり大したことない。
チラリとカウンターを見やると、少し困り顔のダイさんの隣で、鈴が口元に手を当て、肩を震わせている。
・・・奥さぁん。何に爆笑してるのかなぁ?
あとで小一時間問い詰めよう、と、心に決め、また視線を戻した。
令嬢はその顔に怒りの表情を浮かべたままだ。
こんなんで、よくもまぁ王族になれると思えるもんだ。ホント酷いな。
「・・・ふ、ふふっ、私が何も知らない世間知らずの令嬢と思って、適当なことを言って金をせしめようなど、愚の骨頂ですわ!冒険者如きに、そんな価値があるとでも?」
・・・自己紹介、乙。とはこのことだよなぁ。
と、一瞬遠い目。
そして、どのような挙動を取るのかを観察する。
すると令嬢は、持っていた扇で空を割いた。
すかさず、お付きの男が護衛達に指示を出す。
「はっ・・・お前達、行けっ!」
それを聞いた護衛達が、此方に向かって一斉に襲いかかってきた。
さして広くもないバースペースで、抜刀しようとする莫迦もいる。
隣にいたベニさんと、カウンター側でダイさんが身動ぐのが見えた。
軽く息を吐き、右手を上げ中指と親指で輪を作る。
いわゆるデコピンの準備姿勢だ。
「【射撃】」
「「「ぐはっ!」」」
襲いかかって来る順番に、デコピンを連打し、額に目掛けて空気弾を当ててやる。
前のめりに突っ込んできた護衛達は、そのエネルギーをはじき返されるようにして、綺麗に後ろに吹っ飛んでいった。
ギルドの入り口付近まで吹っ飛ばされた護衛達は、そのまま気絶するかと思ったら、意外にも2人程起き上がってきた。
「クソがぁっ!!【火球】!!」
「あぶないっ!」
ほぉ、と感心していたら、2人ともが火の魔法を放ってくる。
・・・室内で火魔法って。莫迦か。
何か莫迦しか言ってないなぁ、自分。
その騒ぎに乗じて、お付きの男が短剣片手に死角から襲いかかってきた。
それに気づいたベニさんが、盾になろうとする。
・・・うん?お気持ちだけ、いただいておくね?
こんなことで怪我させたら、鈴に怒られちゃうし。
「はい、あなたはこっちね。」
「ぅにゃっ?」
「【射撃】・・・ほいっと。」
飛び出そうとしたベニさんを、左手で胸元に引き寄せ。
右手で【射撃】を放ち、向かってくるD級レベルの【火球】を打ち消す。
そのまま、右斜め後ろから短剣を振りかざしてきたお付きの男の手首を掴み、護衛の男達の方へぶん投げた。
「【 束縛 】」
「ぐぁぁっ!」
不意に、短いけれど落ち着いた低音声が響く。
すっ飛んでいった男の身体が、本来の軌道を外れ、不自然に加速して落下した。
見ると床には捕縛魔法陣が展開されている。
ぎぃ、と音を立てて、ギルド入り口の木製の扉が開いた。
ギルド内の視線が一斉に、開いた入り口へと注がれる。
そこに現れたのは黒鎧の大男。
「・・・全く。リーダー、何遊んでるんスかぁ?」
自パーティーの信頼する『黒の魔導師』が、太々しい態度でタイミング良く現れたのを見て、思わず笑ってしまった。
10
お気に入りに追加
1,009
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!


転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。


無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる