転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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袖振り合うも多生の縁

311.王都までの道のり 其の九(コウ視点)

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自分の言葉に、周囲の空気が固まったのが分かる。

ふと視界の端に猫耳がピクピク動いてるのが見え、チラリと見ると、ベニさんがポカンとした顔でコチラを見ていた。
多分、『朧梟ハーズオウル』の2人も、彼女を前のパーティーから引き抜く時に幾らか支払っていると思う。
まぁ、話を聞く限り、最低なパーティーだったようだし、金額は吹っかけられただろうが、きっとユウさんが啖呵切って、手切れ金を叩き付けたのだろうなぁと容易に想像がつく。
・・・金貨の袋を相手の顔面に投げつけてそうだなぁ。

そんなことを考えながら、再び視線を令嬢達に戻す。
令嬢は手に持っていた扇を、お付きは拳を握りしめ、此方を睨んでいる。



「な・・・なんですって・・・?」

「ふっ・・・ざけるな!」

「あぁ。内訳だけど、冒険者ギルド本部に2億、ミッドランド支部に2億。残り1億から、今回の依頼クエストへの違約金と、パーティーメンバーへの補償金支払い分になるから。で、ソレとは別に、僕との契約だけど。年俸は1億なんで。」

「・・・たかだか冒険者風情がっ舐めたことを!!」


お付きの男の殺気が上がる・・・けど、やっぱり大したことない。

チラリとカウンターを見やると、少し困り顔のダイさんの隣で、鈴が口元に手を当て、肩を震わせている。

・・・奥さぁん。何に爆笑してるのかなぁ?

あとで小一時間問い詰めよう、と、心に決め、また視線を戻した。

令嬢はその顔に怒りの表情を浮かべたままだ。
こんなんで、よくもまぁ王族になれると思えるもんだ。ホント酷いな。



「・・・ふ、ふふっ、私が何も知らない世間知らずの令嬢と思って、適当なことを言って金をせしめようなど、愚の骨頂ですわ!冒険者如きに、そんな価値があるとでも?」  



・・・自己紹介、乙。とはこのことだよなぁ。

と、一瞬遠い目。
そして、どのような挙動を取るのかを観察する。

すると令嬢は、持っていた扇で空を割いた。
すかさず、お付きの男が護衛達に指示を出す。



「はっ・・・お前達、行けっ!」



それを聞いた護衛達が、此方に向かって一斉に襲いかかってきた。
さして広くもないバースペースで、抜刀しようとする莫迦もいる。
隣にいたベニさんと、カウンター側でダイさんが身動ぐのが見えた。

軽く息を吐き、右手を上げ中指と親指で輪を作る。
いわゆるデコピンの準備姿勢だ。



「【射撃ショット】」

「「「ぐはっ!」」」



襲いかかって来る順番に、デコピンを連打し、額に目掛けて空気弾を当ててやる。
前のめりに突っ込んできた護衛達は、そのエネルギーをはじき返されるようにして、綺麗に後ろに吹っ飛んでいった。

ギルドの入り口付近まで吹っ飛ばされた護衛達は、そのまま気絶するかと思ったら、意外にも2人程起き上がってきた。



「クソがぁっ!!【火球ファイアボール】!!」

「あぶないっ!」



ほぉ、と感心していたら、2人ともが火の魔法を放ってくる。

・・・室内で火魔法って。莫迦か。
何か莫迦しか言ってないなぁ、自分。

その騒ぎに乗じて、お付きの男が短剣片手に死角から襲いかかってきた。
それに気づいたベニさんが、盾になろうとする。

・・・うん?お気持ちだけ、いただいておくね?
こんなことで怪我させたら、鈴に怒られちゃうし。



「はい、あなたはこっちね。」

「ぅにゃっ?」

「【射撃ショット】・・・ほいっと。」



飛び出そうとしたベニさんを、左手で胸元に引き寄せ。
右手で【射撃ショット】を放ち、向かってくるD級レベルの弱々しい火球ファイアボール】を打ち消す。
そのまま、右斜め後ろから短剣を振りかざしてきたお付きの男の手首を掴み、護衛の男達の方へぶん投げた。



「【 束縛バインド 】」

「ぐぁぁっ!」



不意に、短いけれど落ち着いた低音声が響く。
すっ飛んでいった男の身体が、本来の軌道を外れ、不自然に加速して落下した。
見ると床には捕縛魔法陣が展開されている。

ぎぃ、と音を立てて、ギルド入り口の木製の扉が開いた。
ギルド内の視線が一斉に、開いた入り口へと注がれる。
そこに現れたのは黒鎧の大男。



「・・・全く。リーダー、何遊んでるんスかぁ?」



自パーティーの信頼する『黒の魔導師ネーロ・マーゴ』が、太々しい態度でタイミング良く現れたのを見て、思わず笑ってしまった。



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