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袖振り合うも多生の縁
310.王都までの道のり 其の八(コウ視点)
しおりを挟む此方の台詞に、わなわなと震える令嬢。
側付きの男が、令嬢の前に出てきて睨んでくる。
その様子を見て、護衛役の男達が殺気を出してきた。
・・・大したことのない圧だ。
見る限り、C級・・・いや、ミッドランド基準で言えばD級ライセンス程度。
壁にもなんないんじゃないか?
「貴様!エイバー子爵家を敵に回してただで済むと思っているのか!」
偉そうに、側仕えが言う。
・・・莫迦だ。本当に莫迦だ。
思わず、はぁ、と、呆れた溜息が漏れた。
「貴様!!」
「・・・あのさぁ、君はその子爵家の中で、どれだけの権限を持っているの?」
「何だと?」
男は訝しげな表情を浮かべる。
「偉いのも、金を稼いでいるのも、あくまでエイバー子爵だろ?ソコのお嬢様は何の権限があって、人事に関わる話をしているのさ。彼女のポケットマネーで賃金が支払われるならまだしも、イチイチ家の名前を出すってことは、雇い主はエイバー子爵である筈だ。」
令嬢は、ぽかんとした顔で、此方を見ている。
「何を仰っているのかしら。雇い主は、私の父上。父上は、私の要望を聞いてくれていますもの。私が決めて当然じゃない。」
・・・コレはアウトだ。
これはもしかして、親が放置案件か?
我儘が過ぎて、面倒にでもなったか?
まぁ、でも、だから、か。
「・・・随分と金をかけた『おままごと』を許してるもんだな、エイバー子爵家は。」
「なんですって!?」
「だって、そうだろう?『自分が第二王子の妃になるから、近衛にしてやる』なんて夢物語。これを『おままごと』と呼ばずして何という?そもそもが王国騎士団に入る為には、国立学園の騎士科を卒業か、年一回の採用試験に合格しなければ入隊すら出来ない。余程の貴族でもない限り、縁故採用なんて無理。しかもそこから近衛兵になるには、平民上がりなら、冒険者ランクで言えばCからB級の強さがあって、武功がなければ取り立ててなんて貰えない。王妃にすら騎士団の人事権がないのに、第二王妃候補モドキが、そんなでかい口叩けるのが不思議で仕方ないんだけど?・・・ま、そんな戯言に引っかかるのは、自分の力を過信した、冒険者としてのプライドもない、勘違い野郎ぐらいだろうよ。」
その言葉に、護衛モドキの連中に動揺が走ったようだった。
「自領護衛の為に、冒険者を勧誘する貴族はそれなりにいる。だが、それにも暗黙のルールがある。パーティー全員を引き入れるか、単体であれば残されたパーティーメンバーに補償金を払う。それに、所属する冒険者ギルドにも引き抜き料を支払うもの。・・・どうやらそれも、ろくすっぽしていないんじゃないか?さっきから周りが、アンタの後ろの護衛達に恨みがましい視線を投げてんだけど。子爵家側で払ってないのか、それとも・・・誰かがちょろまかしている、の、かな?いずれにしても、真っ当なお貴族様なら、冒険者間や冒険者ギルドに禍根を残すような真似はしないモンだし、仁義を通す冒険者なら、パーティーを出るにあたって、後足で砂をかけるような真似もしないだろうからねぇ。」
やれやれ、と、小莫迦にするように、両手を広げて首を竦めてみせる。
すると、自分の言葉を聞き、多少の溜飲を下げたのであろう周囲から、本当にその通りだ、と言う声と、クスクスという笑い声が漏れた。
ある種の恥、というか、黒歴史並な失態を晒されて、護衛達は青ざめる者、顔を真っ赤に怒りを露わにする者、様々だ。
そんな中、一応主である令嬢が口を開いた。
「ふん・・・では、貴方を護衛にするのに、幾ら必要と仰りたいの?どうせ、お金なのでしょう?さっさと
支払ってあげますわよ。」
・・・すげぇ、親切心からの丁寧な忠告、丸無視しやがった。
自分が呆れた顔で見ているのを、図星を突かれて黙ったとでも思ったのか、令嬢は勝ち誇ったような顔で話しだした。
「そんな偉そうな講釈を垂れた所で、冒険者なぞ、所詮はお金なのでしょう?全く、浅ましいですこと。高貴な血筋に仲間入りをする私に、無礼な態度を取れるのも今のうち。私の申し出を断ると言うのなら、冒険者なんて続けられないようにして差し上げますわよ。」
自分で自分の首絞めていくなぁ。
段々面白くなってきた。
「・・・はぁ、此方の言い値を支払ってくれるとでも?」
「えぇ、どうせ大したことのない端金でしょうし?」
腕を組み胸を張り、ふふん、と此方を莫迦にしたように見下す姿勢。
・・・そんじゃ、ま、遠慮なく?
「あぁ、そう?じゃぁ、『5億ゴル』。一括で支払ってくれるって言うんなら、考えてあげてもいいよ?」
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