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袖振り合うも多生の縁
309.王都までの道のり 其の七(+コウ視点)
しおりを挟む私は、こーくんの頷きを確認して、そのまま話し出す。
「とりま、分かった情報だけ流すね。・・・目の前のお嬢様は、この領にある果樹園とワイナリーのオーナーであるエイバー子爵家の次女。今年成人らしい。祝賀会出席の為に私的護衛勧誘中。但しイケメンに限る。今年成人の第二王子と『仲良しのご学友』だから、嫁になれると思ってる、夢見る夢子ちゃんらしいよ。」
イヤフォンから、呆れたような溜息が聞こえると同時に、お嬢様から見えない位置で、左こめかみを親指でグリグリと押す仕草をする。
理解したサインと思い、私はそのまま話し続ける。
「エイバー子爵家自体は、この領内で果樹園を経営。果実酒を作ってる。昔から果実酒運搬で、冒険者ギルドとは繋がりがある模様。最近品評会で最優秀賞を取ってからは羽振りが良くなったらしいけど。この子爵自体が傲慢になったかは不明。」
少し間を置くと、ゆっくりとした頷きが返ってくる。
それを見てから、私はまた口を開いた。
「んで、実家はどーだか知らないけれど、そのお嬢様はベニさんを馬鹿にしてくれたんで、全てまるっとお断りで行きたいですが、よいですか?」
すると、こーくんは、こめかみを抑えていた親指を弾くようにして離し、そのまま縦にした。goodのサイン。
コレも了承、ってことで良さそう。
「んじゃ、そっちにいくね?」
そう告げたら、こーくんは、ちら、とこちらを向いて、ゆっくり2回だけ首を横に振った。
お嬢様の話に首を振っているかのような、自然な動き。
あれ?と思っていたら、こめかみに当てていた親指を下げ、自分の顔を指した?
口元がパクパクと動いている。
何だろう?
ま、か・・・
「まかせろ、ってこと?」
すると、こーくんは、パチリとウィンクをしてきた。
ふむ、と少し考える。
うん、確かにお貴族様のイザコザは、貴族対応に慣れているこーくんが相手どった方が良いのかなぁ・・・。
「・・・わかった。お願いします。必要な時は呼んでね?」
また、こーくんは親指を上げて、喧しいお嬢様に向き直る。
私はそのまま動向を見守ることにした。
*
鈴との打ち合わせを終えた自分は、す、と目を眇めて、子爵令嬢を、そして側付きの者たちを見る。
・・・さ、いいとこ見せないと。
「・・・で、何の話でしたっけ?」
「なっ?!」
全く話を聞いていない体を装えば、令嬢は兎も角、側付きの執事風の男まで、憤慨した様子。
・・・主人も主人なら、使用人も使用人だな、これは。
眺めながら、先程鈴がくれた情報を整理する。
ロットウェル領では昔から葡萄酒や林檎酒などの果実酒の生産が盛ん。
目の前の令嬢の実家はエイバー子爵とのこと。エイバーの運営する蔵自体は、果実の品種改良をしたり、仕込み方を工夫したりと、試行錯誤しながら果実酒の製造を頑張っていたというイメージだ。
その努力が漸く実り、数年前の国の品評会で最優秀を取ったんだったか。
実家はまとも。
だが、娘は・・・のパターンか?
まぁ、親が放置しすぎなこともあるか。
祖父母が害悪な事もあるしな。
あと2人いる姉弟がまともか莫迦か、ってのは分からないし。
ここの冒険者ギルド支部は、実家との縁は切れない、若しくは切りたくないから、この令嬢に強く言えないのだとしたら。
・・・令嬢単独で責めるべきだな。
方針が決まり、相手の出方を待つ。
案の定、側付きの男が声を荒げてきた。
「貴様!エイバー子爵令嬢であるキャスル様に、何という口の利き方だっ!」
わぁ、ある種のテンプレ。
心おきなく、やってもいいかな。
寄りかかっていたバーテーブルから身体を起こした。
すると、隣で身動ぐ気配。
ちらりと見やると、ベニさんが強張った表情で、こちらを見ていた。
少し笑みを浮かべて、ぽんぽんと頭を撫でておく。
周囲の女性冒険者がざわめき、目の前の令嬢が般若の如き顔をする。
これも、ある種のミスリード。
ベニさんには悪いが、少し付き合ってもらおう。
自分にとっては枷でしかないイケメン面に、笑顔を貼り付けて、無機質な声を放つ。
「・・・子爵家が何だとか、こちらには関係ありません。私は冒険者なんでね。引き受けた依頼は必ず遂行するし、気に入らない依頼は引き受けない。それに指名依頼も受けていない。だから、御宅らの依頼は一切引き受けません。」
********************
※ 更新遅れております。今後も不定期気味になります。申し訳ないです・・・
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