319 / 393
袖振り合うも多生の縁
309.王都までの道のり 其の七(+コウ視点)
しおりを挟む私は、こーくんの頷きを確認して、そのまま話し出す。
「とりま、分かった情報だけ流すね。・・・目の前のお嬢様は、この領にある果樹園とワイナリーのオーナーであるエイバー子爵家の次女。今年成人らしい。祝賀会出席の為に私的護衛勧誘中。但しイケメンに限る。今年成人の第二王子と『仲良しのご学友』だから、嫁になれると思ってる、夢見る夢子ちゃんらしいよ。」
イヤフォンから、呆れたような溜息が聞こえると同時に、お嬢様から見えない位置で、左こめかみを親指でグリグリと押す仕草をする。
理解したサインと思い、私はそのまま話し続ける。
「エイバー子爵家自体は、この領内で果樹園を経営。果実酒を作ってる。昔から果実酒運搬で、冒険者ギルドとは繋がりがある模様。最近品評会で最優秀賞を取ってからは羽振りが良くなったらしいけど。この子爵自体が傲慢になったかは不明。」
少し間を置くと、ゆっくりとした頷きが返ってくる。
それを見てから、私はまた口を開いた。
「んで、実家はどーだか知らないけれど、そのお嬢様はベニさんを馬鹿にしてくれたんで、全てまるっとお断りで行きたいですが、よいですか?」
すると、こーくんは、こめかみを抑えていた親指を弾くようにして離し、そのまま縦にした。goodのサイン。
コレも了承、ってことで良さそう。
「んじゃ、そっちにいくね?」
そう告げたら、こーくんは、ちら、とこちらを向いて、ゆっくり2回だけ首を横に振った。
お嬢様の話に首を振っているかのような、自然な動き。
あれ?と思っていたら、こめかみに当てていた親指を下げ、自分の顔を指した?
口元がパクパクと動いている。
何だろう?
ま、か・・・
「まかせろ、ってこと?」
すると、こーくんは、パチリとウィンクをしてきた。
ふむ、と少し考える。
うん、確かにお貴族様のイザコザは、貴族対応に慣れているこーくんが相手どった方が良いのかなぁ・・・。
「・・・わかった。お願いします。必要な時は呼んでね?」
また、こーくんは親指を上げて、喧しいお嬢様に向き直る。
私はそのまま動向を見守ることにした。
*
鈴との打ち合わせを終えた自分は、す、と目を眇めて、子爵令嬢を、そして側付きの者たちを見る。
・・・さ、いいとこ見せないと。
「・・・で、何の話でしたっけ?」
「なっ?!」
全く話を聞いていない体を装えば、令嬢は兎も角、側付きの執事風の男まで、憤慨した様子。
・・・主人も主人なら、使用人も使用人だな、これは。
眺めながら、先程鈴がくれた情報を整理する。
ロットウェル領では昔から葡萄酒や林檎酒などの果実酒の生産が盛ん。
目の前の令嬢の実家はエイバー子爵とのこと。エイバーの運営する蔵自体は、果実の品種改良をしたり、仕込み方を工夫したりと、試行錯誤しながら果実酒の製造を頑張っていたというイメージだ。
その努力が漸く実り、数年前の国の品評会で最優秀を取ったんだったか。
実家はまとも。
だが、娘は・・・のパターンか?
まぁ、親が放置しすぎなこともあるか。
祖父母が害悪な事もあるしな。
あと2人いる姉弟がまともか莫迦か、ってのは分からないし。
ここの冒険者ギルド支部は、実家との縁は切れない、若しくは切りたくないから、この令嬢に強く言えないのだとしたら。
・・・令嬢単独で責めるべきだな。
方針が決まり、相手の出方を待つ。
案の定、側付きの男が声を荒げてきた。
「貴様!エイバー子爵令嬢であるキャスル様に、何という口の利き方だっ!」
わぁ、ある種のテンプレ。
心おきなく、やってもいいかな。
寄りかかっていたバーテーブルから身体を起こした。
すると、隣で身動ぐ気配。
ちらりと見やると、ベニさんが強張った表情で、こちらを見ていた。
少し笑みを浮かべて、ぽんぽんと頭を撫でておく。
周囲の女性冒険者がざわめき、目の前の令嬢が般若の如き顔をする。
これも、ある種のミスリード。
ベニさんには悪いが、少し付き合ってもらおう。
自分にとっては枷でしかないイケメン面に、笑顔を貼り付けて、無機質な声を放つ。
「・・・子爵家が何だとか、こちらには関係ありません。私は冒険者なんでね。引き受けた依頼は必ず遂行するし、気に入らない依頼は引き受けない。それに指名依頼も受けていない。だから、御宅らの依頼は一切引き受けません。」
********************
※ 更新遅れております。今後も不定期気味になります。申し訳ないです・・・
10
お気に入りに追加
1,009
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。



婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる