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袖振り合うも多生の縁
308.王都までの道のり 其の六(コウ視点)
しおりを挟む目の前には、趣味の悪いド派手なドレスを身に纏い、意味不明な言語を撒き散らす何処かの貴族令嬢。
背後には執事らしき側付きの男と、5人程護衛がついている。
偉そうにしているが、ここの領主の子ではないのは確実。ロットウェル伯爵家には、息子が2人だった筈・・・こんな冒険者ギルドに出入りをして、アホな事を言っても咎められないのは、領内の有力貴族の娘って所だろう。
このくらいの年齢で護衛・・・あぁ、成人祝賀会に行く関係か?
でも、普通は親が支度するはずだが。
一気にそこまで考えて、目の前の相手の出方を待った。
「聞いていらっしゃるの!?このわたくしが護衛にして差し上げるって言っているのです!」
ーーー このわたくし、って、お前誰だよ。
というツッコミは口にはしない。
自分の隣にいるベニさんの耳も尻尾もピンと立ち、かなり警戒しているようだ。
「・・・あ、いえ。申し訳ありません。私はこの冒険者ギルド支部所属ではありませんし。今、別な護衛任務を遂行中ですので、申し出を受けるのは無理ですね。」
構うと面倒くさくなるのは確実だろうから、名乗りもせず、そもそもムリと断る。
この支部所属じゃないから、アンタが何者かも知らないし知る気もない、と暗に告げてもいた。
目の前の令嬢がイラっとしているのは、言いようのない莫迦だからと分かるが、何で側付きの男まで舌打ちをしている?
「護衛任務ですって?わたくしの護衛なら、その倍は出すわ!わたくしは将来第二王子の妃になるのよ?その時は貴方を近衛兵に取り立ててあげますわ!だから、そんなのお断りなさい!」
令嬢が口を開いた。
・・・やはり、莫迦だコイツ。
冒険者に仕事を放棄しろなどと、簡単に言うか。
契約不履行で、依頼失敗になるだろうが。
そして、第二王子の妃?
近衛に取り立てるだ?
寝言は寝て言え。そして、二度と目覚めるな。
それなのに、側付きの男は、ウンウンと頷いている。
後ろの護衛もニヤついたまま・・・この令嬢の発言も行動も諫めない所でダメだろ。
そしてこの令嬢は、更に喧嘩を売ってきた。
「あぁ、その隣の獣臭い女は連れて行く事は出来ませんから、別れて下さいましね!」
ビクン、と、ベニさんの身が縮こまる。
そして、少し離れた受付カウンター付近から、ぶわり、と魔力が膨れ上がった。
ちら、と見ると、この令嬢の大声が聞こえたのだろう。ダイさんが激怒した様子で、こちらを見ていた。
鈴が彼を抑えて二言三言話をしている。
すると、頭の中に、愛する妻の声が響いた。
『・・・てすてす・・・こーくん、ちょっといい?』
カンから渡された、小型ヘッドセット型の内線通話機器は、言わば骨伝導型イヤホン搭載だ。内線とは言いつつ、半径1キロ範囲での通話は可能。
・・・なんつーモン作ってんだと、頭を抱えたが。こんな時には、やはり便利だ。近衛兵達がほしがるだろうなぁ、と、ふと思う。
少し目蓋を上げ、ダイさんの後ろに目をやると、口元に手を当てた鈴がこっちを見ている。
怒っているような、それでいて、どこか面白がっているような。そんな目つき。
アレは、、、そうだ。
町外での物販イベントで、鈴の仲良しだった女性職員が、どっかの企業のお偉方にセクハラされた時だ。
ニコニコとしながら、証拠画像と弁護士の存在を仄かし牽制すれば、逆に、お前のクビなんかいつでも飛ばせる、地方の役場職員如きが、とお偉方に脅された。
なのに、鈴は。
SNSなんかのインターネットツールを駆使すれば、田舎者でも企業のイメージダウンを図る事は出来る。今のご時世、企業にはクリーンイメージは付き纏うから、問題を起こした重鎮の首を切る事ぐらい簡単だろう?と言い切った。
・・・元より刺し違えは覚悟の上だと、だから脅しなんぞ効かないと、獰猛な笑みを浮かべた鈴は、一歩も引かなかった。
お偉方が言う事に、屁理屈に近い正論をぶつけていき、引かせる事が出来なくなってしまって。自分も間に入る事が難しくなってしまった。
鈴や自分の事を気に入ってくれていた別企業の社長が、たまたまあの場に通りがかって声をかけてくれたから。彼に事情を話し、間に入って取りなしてくれるように頼んだ。
社長は上手いこと纏めてくれて。
終わった後、鈴には『特攻隊じゃないんだから、自爆攻撃は止めなさい』と諭してくれた・・・でも、アイツは、はぁい、と頷きつつ、聞き流していて。
・・・もう、あの性格は変えられない、と社長と顔を見合わせ、苦笑いしかなかった。
そして。
力があれば、こんなに鈴を矢面に立たせずに済んだのに、と、不甲斐ない自分に吐き気がした。
此処には、あの社長はいないけど。
今、自分は力を持っている。
だから。
自分が、鈴の剣になればいい。
そうすれば、あの時手を出せなかった、自分の身を挺して何もかもを守ろうとする鈴の思いに、手が届く。
鈴を守る為、思いを遂げる為に力を振るえる場面が来たことが嬉しくて。
思わず緩む口角を無理矢理抑えながら、自分は鈴に向かって頷いた。
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※ いつも紳士なコウさん。実の所、脳内はお口悪いですw
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