転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
318 / 393
袖振り合うも多生の縁

308.王都までの道のり 其の六(コウ視点)

しおりを挟む


目の前には、趣味の悪いド派手なドレスを身に纏い、意味不明な言語を撒き散らす何処かの貴族令嬢。

背後には執事らしき側付きの男と、5人程護衛がついている。

偉そうにしているが、ここの領主の子ではないのは確実。ロットウェル伯爵家には、息子が2人だった筈・・・こんな冒険者ギルドに出入りをして、アホな事を言っても咎められないのは、領内の有力貴族の娘って所だろう。
このくらいの年齢で護衛・・・あぁ、成人祝賀会に行く関係か?
でも、普通は親が支度するはずだが。

一気にそこまで考えて、目の前の相手の出方を待った。



「聞いていらっしゃるの!?このわたくしが護衛にして差し上げるって言っているのです!」



ーーー このわたくし、って、お前誰だよ。
というツッコミは口にはしない。
自分の隣にいるベニさんの耳も尻尾もピンと立ち、かなり警戒しているようだ。



「・・・あ、いえ。申し訳ありません。私はこの冒険者ギルド支部所属ではありませんし。今、別な護衛任務を遂行中ですので、申し出を受けるのは無理ですね。」



構うと面倒くさくなるのは確実だろうから、名乗りもせず、そもそもムリと断る。
この支部所属じゃないから、アンタが何者かも知らないし知る気もない、と暗に告げてもいた。

目の前の令嬢がイラっとしているのは、言いようのない莫迦だからと分かるが、何で側付きの男まで舌打ちをしている?



「護衛任務ですって?わたくしの護衛なら、その倍は出すわ!わたくしは将来第二王子の妃になるのよ?その時は貴方を近衛兵に取り立ててあげますわ!だから、そんなのお断りなさい!」



令嬢が口を開いた。
・・・やはり、莫迦だコイツ。
冒険者に仕事を放棄しろなどと、簡単に言うか。
契約不履行で、依頼クエスト失敗になるだろうが。

そして、第二王子の妃?
近衛に取り立てるだ?

寝言は寝て言え。そして、二度と目覚めるな。

それなのに、側付きの男は、ウンウンと頷いている。
後ろの護衛もニヤついたまま・・・この令嬢莫迦の発言も行動も諫めない所でダメだろ。

そしてこの令嬢莫迦は、更に喧嘩を売ってきた。



「あぁ、その隣の獣臭い女は連れて行く事は出来ませんから、別れて下さいましね!」



ビクン、と、ベニさんの身が縮こまる。
そして、少し離れた受付カウンター付近から、ぶわり、と魔力が膨れ上がった。
ちら、と見ると、この令嬢莫迦の大声が聞こえたのだろう。ダイさんが激怒した様子で、こちらを見ていた。
鈴が彼を抑えて二言三言話をしている。

すると、頭の中に、愛する妻の声が響いた。



『・・・てすてす・・・こーくん、ちょっといい?』



カンから渡された、小型ヘッドセット型の内線通話機器インカムは、言わば骨伝導型イヤホン搭載だ。内線とは言いつつ、半径1キロ範囲での通話は可能。
・・・なんつーモン作ってんだと、頭を抱えたが。こんな時には、やはり便利だ。近衛兵達がほしがるだろうなぁ、と、ふと思う。

少し目蓋を上げ、ダイさんの後ろに目をやると、口元に手を当てた鈴がこっちを見ている。
怒っているような、それでいて、どこか面白がっているような。そんな目つき。

アレは、、、そうだ。
町外での物販イベントで、鈴の仲良しお気にだった女性職員が、どっかの企業のお偉方エロオヤジにセクハラされた時だ。

ニコニコとしながら、証拠画像と弁護士の存在を仄かし牽制すれば、逆に、お前のクビなんかいつでも飛ばせる、地方の役場職員如きが、とお偉方エロオヤジに脅された。

なのに、鈴は。
SNSなんかのインターネットツールを駆使すれば、田舎者でも企業のイメージダウンを図る事は出来る。今のご時世、企業にはクリーンイメージは付き纏うから、問題を起こした重鎮の首を切る事ぐらい簡単だろう?と言い切った。
・・・元より刺し違えは覚悟の上だと、だから脅しなんぞ効かないと、獰猛な笑みを浮かべた鈴は、一歩も引かなかった。

お偉方エロオヤジが言う事に、屁理屈に近い正論をぶつけていき、引かせる事が出来なくなってしまって。自分も間に入る事が難しくなってしまった。

鈴や自分の事を気に入ってくれていた別企業の社長が、あの場に通りがかって声をかけてくれたから。彼に事情を話し、間に入って取りなしてくれるように頼んだ。

社長は上手いこと纏めてくれて。
終わった後、鈴には『特攻隊じゃないんだから、自爆攻撃は止めなさい』と諭してくれた・・・でも、アイツは、はぁい、と頷きつつ、聞き流していて。
・・・もう、あの性格は変えられない、と社長と顔を見合わせ、苦笑いしかなかった。

そして。
力があれば、こんなに鈴を矢面に立たせずに済んだのに、と、不甲斐ない自分に吐き気がした。


此処には、あの社長はいないけど。
今、自分は力を持っている。

だから。
自分が、鈴の剣になればいい。

そうすれば、あの時手を出せなかった、自分の身を挺して何もかもを守ろうとする鈴の思いに、手が届く。

鈴を守る為、思いを遂げる為に力を振るえる場面が来たことが嬉しくて。
思わず緩む口角を無理矢理抑えながら、自分は鈴に向かって頷いた。






*********************


※ いつも紳士なコウさん。実の所、脳内はお口悪いですw
しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

蓮華

釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――

処理中です...