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袖振り合うも多生の縁
305.王都までの道のり 其の三
しおりを挟むそれからの旅は順調に進んだ。
魔獣もそんなに頻回に出てくるわけじゃ無いし。
野営もキャンプみたいで楽しいもんだ。
大きめの街の近くでは、盗賊も出てきたけど、一瞬にして、カン君の 【 重力緊縛 】で捕縛される。
ある意味、仕事をさせて貰えない盗賊さん可哀想。
*
で。
大きめの街・・・ファルコ領の2領隣のロットウェル領、領都ロットという街に来た。
ここまでで、行程は約半分。
街の手前で捕まえた盗賊達は、この街の門番に提出。
どうやら賞金首だったらしく。カン君に臨時収入。
カン君は固辞したけど、無傷での全員捕縛はカン君のなせる技だし。
まぁ、魔導具作るにも、先立つモノは必要だろう、と、とりあえず納得してもらった。
着いたのが昼過ぎ。
商隊さん達はこの街に支店があり、物資補給などしていくと。
なので、今日はこのままこの街に滞在する事に。
時間はあるわけで。
道中倒した魔獣を、冒険者ギルドに提出する為、ロット支部へ出向く。
無論、ロットウェル領に入ってからの分だけ提出だ。
カン君とユウさんが商隊さんの護衛について、私とこーくん、ダイさんとベニさんがギルド支部へ出向いた。
ロット支部のギルドも、ミッドランド支部と大きくは変わらない。
ボードで、倒した魔獣の依頼が出てないかを確認して、後付け依頼達成可能か確認する。
交渉役はダイさんにお願い。
護衛中である事を説明したところ、OKが出たので、そのまま提出カウンターに出す事に。
元々、護衛中の討伐報酬については、完全に頭割りで話し合いはついているから、問題はない。
受付のお姉さんは、クラスAパーティーな『旅馬車』が、中規模商隊の護衛をしていることに、少し驚いた様子は見えたし、報酬頭割りについても、一瞬怪訝そうな顔はしたけど、私たち2パーティー間の和気藹々な雰囲気を見てなのか、特に何も突っ込んでは来なかった。
うん。空気読める人だ。
私とダイさんで対応中の間、こーくんはベニさんと立ち飲み場で待機中。
ベニさんは旅の初めのうちは緊張もしてたけど、今は、こーくんに戦術とか斥候のポイントとか質問や相談してる。
むう、と考えこむ時に、お耳がピクリと動くのが可愛くて、ほっこりと見入ってしまう。
「リンさん?どうしました?」
「あ、いや。あの2人見てると、和みません?」
ボーっとしていたら、ダイさんに声をかけられて。何の気なしに指をさしてみた。
私が指した方を見たダイさんは、ふ、と微笑んで、とても優しい顔になった。
「そうですね・・・ベニが、あんなに前向きになってくれて良かったなって思います。それも、リンさん方御三方に受け入れて貰えたからなんですよ。ありがとうございました。」
「受け入れ?」
言っている意味が分からず、首を傾げると、2人を見ながら少しだけ悲しそうな顔をして、口を開く。
「良くも悪くも、獣人は目を惹きやすくて。差別なんかも多い。そのせいで、嫌な思いも沢山してきて。時々、頑張っても報われない、と自暴自棄になる事もあったから・・・」
ダイさんの視線の先を追う。
2人の周囲にいる冒険者達は、ヒソヒソとしながら様子を伺っている。
こーくんが何者か気付いている人、ベニさんに不躾な目線を送っている人、様々だ。
「それが、劣竜種の戦いの後から、あんなにも、真っ直ぐに学ぼうとするようになったんです。」
「それは・・・?」
「あの時、『旅馬車』や『猟犬』の皆さんは、ベニの姿を見ても、誰一人としてからかったり、蔑んだりすることはなくて。キチンと冒険者として、共闘相手として認めてくれた。」
「そんなの、当たり前じゃないです?」
「その『当たり前』が、彼女にとっては当たり前じゃ無かったんですよ。あの日、ベニは本当に嬉しそうだった。『影猿』のメンバーからも話を聞いて、上位冒険者なのに、あなた方は誰に対しても礼儀正しくて、気さくで。決して媚びることは無くて、凛としていて・・・ベニも、僕らも『こうありたい』って、目標ができたんです。だから、本当に感謝しているんです。」
「そ、そうでしたか、、、」
面と向かって、改めて言われると、気恥ずかしくて仕方がないです。
ちょっとした沈黙が、居た堪れない。
「『朧梟』さん、『旅馬車』さん。査定が終わりました。」
「「あ、はい。」」
受付のお姉さんが、換金完了の声かけをくれた事で、若干の気恥ずかしさを打ち消してくれた。
換金額は30万ゴル・・・まんま、30万円な感じだ。
頭割りして15万。結構稼げたなぁ。
隣のダイさんもホクホク顔だ。
「結構な額になりましたね。」
「本当ですね。今日の晩ご飯は、ちょっと豪勢にいきまーーー。」
私達の呑気な会話は、離れた所から飛んできた、突然の甲高い声にかき消された。
「そこの貴方!わたくしの護衛として、王都まで付き添いなさい!!」
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