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袖振り合うも多生の縁
304.王都までの道のり 其の二
しおりを挟む「ねー、リンちゃん。聞いてもいい?」
「ん?何でしょ?」
今、私は『朧梟』のユウさんと一緒に、野営をしている。
目的の街・・・ワーグル領の領都までは、フォルクスから馬車で1週間程度。
今日は比較的早い進行だったが、出発が昼だったこともあって、次の町には辿り着かず。野営にて夜を明かすことに。
最初のうちに私がやらかしたので、後半は『朧梟』の皆さんが頑張っていた。
バトル自体はさほど無かったうえ、出てくるアグドーグも、2~3匹程度の小集団だった。
結果、索敵と、遠距離攻撃だけで問題なく。斥候のベニさんと、弓師のダイさんが頑張っちゃったワケです。
野営の夜間警戒をどうするかってんで。頑張ったベニさんとダイさんには休んでもらい。
前半は、私とユウさんで。後半は、こーくんとカン君でする事に。
あまり強い魔獣はいないけど。盗賊なんかが来る可能性もやっぱりあるみたい。
それを聞いたカン君が、『一応警戒で』と言いながら、人払いの結界を張った所、それを見た商隊の皆さんがかなりびっくりしてた。
カン君の中ではかなり威力を落としたみたいだけど、「こんな立派な結界を張ってもらうなんて申し訳ない。」と恐縮する始末。
・・・大概チートだなぁ。
そんなこんなで、夜間警戒要らないんじゃね?って突っ込みは置いといて。
私はユウさんと女子トークすることにした。手には紅茶で、アルコールじゃないのが残念だけど。
で。
ユウさんは、ワクワクとした様子で、私を見る。
「出発の時の“アレ”って、どーゆーこと?リンちゃんはファーマスさんと結婚したって事でいいの?コウさんと、カンくんはどうしたの?」
ずずい、と、目をキラキラさせて近寄ってきたユウさんに、思わず苦笑い。
まぁ、、、話しても問題ないし、寧ろ冒険者には知らせて、色んなところで話して貰った方が、周知の事実として広がるかな?と打算がよぎった。
「んー・・・ファーマスさんだけじゃなくて。その・・・」
「え。もしかして、3人とも?」
「ん。一応。」
彼女は、ひゃぁ~~、と、大きな声を出しそうになりながら、急遽小さな声に切り替えて身悶える、といった器用なことをして、私を見た。
「え?一妻多夫?いつなの?だって、こないだの顔合わせの時は、そんな話してなかったよね?」
「手続き完了したのは今朝。出発前。」
「ほぇ~だからかぁ。あんなにラブラブな雰囲気だったのは。」
「へっ?らぶ・・・っ?」
「私、ファーマスさんのあーんな優しい顔見たの初めてだったもん。あんな風に笑うこと出来たんだなぁって。いっつも難しい顔してるか、笑っても、なんていうか・・・余裕綽々な大人って感じだったから。」
「あ・・・」
「でも、結婚した途端に離れ離れって、寂しいねぇ。だからこその、あのチューか。」
「う・・・ま、この結婚自体が打算まみれだからなぁ。なんとも・・・」
「打算?」
こてん、と、ユウさんは首を傾げる。
苦笑いを浮かべて、私は話を続ける。
「うん・・・私とカン君の髪色、こっちじゃ珍しいんでしょ?」
「そうだね。真っ黒って、御伽噺だと思ってたからねぇ。しかも、魔力量も質もハンパないもん。」
「うん。私とカン君は、漂流で流れ着いた余所者だから。力があっても権力には勝てない。それで、後ろ盾をつけるか、私達自身が権力を持たないと、何処かに囲われて使い潰されるだけになるんじゃないかって、そう思ってて・・・だから、身を守る為にもって、A級ライセンスを目指して。」
「あ、そか。A級ライセンスは貴族扱いにもなるから、一妻多夫OKなんだっけ。」
「そう。」
A級ライセンスになって、ミッドランド支部の冒険者ギルドマスター、ロイドさんと、ファーマスさんの提案で、こーくんとパーティーを組む事になった事。
チェスター家の後ろ盾や、『英雄』の栄光を借りるため、一妻多夫となったこと。
掻い摘んで説明する。
「ふぅん・・・そう考えると、『黒持ち』さんも大変だねぇ。」
「ん・・・何か皆んなに付き合わせてるのもなぁって。」
「でもさ、別に3人の事、何とも思って無いわけじゃないでしょ?」
「ん?」
「純然たるお貴族様のような政略結婚なワケじゃぁないし。それに3人とも、リンちゃんに甘々だし。」
「いや、それは・・・」
「甘々でしょ。じゃなきゃ、人前であーんな濃厚なキスしないでしょ、普通。しかも、他2人が嫉妬丸出しだったし。いーじゃん。付き合わせてようが何だろうが、夫婦なのは確かなんだから。仲悪いわけじゃないんでしょ?」
「うん・・・」
出発前の件を、改めて周りから見た様子で伝えられると、羞恥心が過ぎて、穴掘って埋まりたい。
身悶えていると、ユウさんは笑いながら私の背中を叩く。
「じゃ、いーじゃん。一夫多妻なパーティーは見た事あるけど、一妻多夫はなかったから。それもアリなんだなぁって、みんな、ある種の希望が持てんじゃない?ま、私にゃ無理だけどさぁ?」
そう言って、ユウさんはケラケラと笑う。何つーか。他人事で楽しんでる感満載。
「ユウさんは、ダイさんとは、その・・・」
「あー。私らはそーゆーんじゃないんだよなぁ。完全に兄弟みたいな感じだしねぇ。ま、ダイはベニの世話焼きだしさ?ね、誰か居ないかね?」
ちょっと悔しいから、話を振ったのに、あっけらかんと言ってのけるユウさんのテンションに、思わず笑ってしまった。
「あ、そうそう。夫婦の証のタグってあるの?」
「うん。これ。」
「わ、ホントに縁が赤だ。初めて見たー。ね、ね。あのね?」
首元から引き出したタグを、まじまじ
と見ていたユウさんが、ガバリと顔を上げて、頬を赤らめる。
何だろうと首を傾げると、爆弾をおとされた。
「ね、その・・・夜って、どうなの?」
「ひゃ?」
「だって、気になんじゃん。あんな強い人達ばっかでしょ?相手すんの大変そだなぁって。」
「それは・・・」
だって、シてないから、ネタもないし。
・・・って流石に言えない。
「それは?」
「・・・黙秘します。」
「えぇー!ここまで引っ張って、それは無いよぉ。」
「秘密です。」
ケラケラ笑いながら、やり過ごす。
まぁ、ユウさんも、本気で聴きたいわけでもなく、ネタ振りだったんだろうなぁ、と。
その後も、ユウさん達から見た、こーくんのギャップの激しさや、カン君の涼しい顔でエゲツない捕縛の話とかで盛り上がり。
そんなこんなで、クスクス笑いながら、初日の夜はふけていった。
あまりにも笑い過ぎてて、交代で起きてきた、こーくんとカン君に訝しがられたのは言うまでも無い。
・・・ユウさん。2人の顔見て、笑いすぎだから。
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