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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人
301.1/3の夢旅人 其の十二
しおりを挟む馬車に乗り込み、まずは教会へと向かうらしい。
私の隣にはファーマスさん、向かいにこーくん、斜め前にカン君。
今回はこの布陣。
んで、目の前のこーくんが、少し苛立ち気味というか・・・拗ねてるね、これ。
その空気を察知して、カン君は苦笑い。ファーマスさんは呆れ顔。
「おい、コウ。いつまで拗ねてんだ。」
「・・・別に。」
「ウゼェなぁ。じゃぁ、今すぐリンに【 乾燥 】食らぇばいーじゃねぇか。事後処理は手前ェでやれよ?」
「っ!うっさいですよ。」
うわぁ、険悪。
どうしようかと思っていたら、カン君が隣を向いた。
「コウさん・・・俺らがリンさんのをくらってたって言わないでスンマセン。リンさんの魔力交換が特殊だと分かったのは、タルマン達の一件のときでしたから。」
「カン・・・?」
カン君は軽く一息つくと、こーくんの顔の向こうにある窓越しに、遠くを見やり、哀愁を漂わせる。
「しかもあれは・・・俺にとっては、黒歴史でしか無いっス。思い出したくなかった・・・」
「え?」
思わぬ言葉だったのだろう。こーくんが目を丸くする。
「だって、宿屋の食堂で、問答無用でイかされそうになったんっすよ??机に突っ伏して、衝動抑えてる横で、当の本人はベネリさんと2人で呑気に検証始めちゃうし。」
「うわぁ・・・」
「その節はどーも。さっさと、トイレに行けばよかったじゃん。そういや、あの後どうしたの?私は先に部屋に戻ったから知らないや。」
「リンさん酷えぇ。」
「あん時は、俺は気合で何とかなったけど、カンは結局【 清潔 】使ったな?」
「そこで『俺は精神耐性あります』アピールしなくていいっスよっ!あーイラッとすんなぁ!イかされそうになった時点で同じっスからね!」
「何とでも言ってろ~」
カラカラと笑いながらファーマスさんが言えば、冗談めかしてカン君が罵る。
つくづく思う。
2人、仲良くなったもんだよねぇ。
まぁ、ファーマスさんの器がでかいんだけどさ。
そして、そんな様子を見て、こーくんが大きく息を吐いた。
拗ねる気も、失せたかな?
だってねぇ?問答無用の、無意識的触手プレイの被害者だもの。大っぴらにはできないでしょう?
「・・・思ったより、別の意味で状況が酷かった。」
「なんだよ。それに便乗して、ヤってんじゃねーかって心配したんか。」
「・・・まぁ、そんな所です。」
「あの状況で、スるも何もねぇよ。完全な事故だな。主にこっちが被害者の。責任取ってくれても良いんだが。」
「え?だから、責任取って婚姻するんじゃないんですかー(棒)」
「そこ、棒読みかよ。しかも、それ関係ねぇし。・・・お、着いたな。」
何がツボに入ったのか、ずっと笑いっぱなしのファーマスさんが、不意に窓の外を見て呟くのと同時に、馬車がガタリと音を立てて止まった。
「さ、アホな事言ってないで、さっさと降りて、手続き終わらせるぞ。」
さっと立ち上がったファーマスさんは、するりと私の手を掴みそのまま引っ張るようにして、馬車から降りる。
私の身体はまだ馬車に残っているから、ぐいと引かれて、馬車から落ちそうになった。
「あ、わわっ、ちょっ、師匠?」
「・・・師匠って言ったな?」
「にゃっ!?」
そのまま、馬車から落下した私の身体は、大きな体躯に囚われた。
そのまま、くるん、と反転し、馬車に背を向けたファーマスさんは、2人から私を隠すようにする。
「・・・だから、何でそうなるんですか。」
「留守番だから。」
凶悪顔のしてやったり顔してるけど。
ーーー おいこら、ちょっと待て。
天下の往来で、何してやがる。
凶悪顔とモブ顔のキスシーンなんて、周囲に見せるもんじゃないでしょが!
レバー打ちしようと左拳を振り抜いたけど、パシン、と音を立てて、呆気なく彼の右手のひらに収まってしまう。
「おぉ、振り抜きも重たくなったなぁ。」
私の左拳をにぎにぎとしながら、嬉しそうにしてくる。
うぅ、と唸って腕を引こうとするけど、離してくれない。
「はいそこ。何イチャコラしてやがんスか。さっさと行きますよ。」
「イチャコラじゃないし!」
「仕方ねぇオッサンだな。まぁ、暫くは離れ離れだから、目を瞑りましょ。」
「目を瞑るんなら、これから2刻ばかり貸しとけよ。連れ込み宿行ってくっから。」
「「だが、断る。」」
周囲が奇異の目で見ている中、男3人はアホな会話を繰り広げつつ、堂々と教会の中へと突入していく。
背中にグサグサとした視線を感じながら、私はファーマスさんに手を引かれるがままに、建物内へと入った。
*
協会は思っていたよりもこじんまりしていた。
例えるなら・・・函館のハリストス正教会だろうか。
街の喧騒とはうって変わって、とても荘厳な雰囲気だ。
見上げると、女神像がある。元の世界じゃ見た事のない女神様だ。
そういや、あまり、こちらの世界の宗教ってふれてこなかったなぁ。名前知らんじゃ。
ふと目線をずらすと、お爺さん司祭様と、若めのシスターさんが女神像の前に佇んでいる。
「先触れを出させて頂いておりました、チェスター子爵家三男、コウラル=チェスターです。」
「お待ちしておりましたよ。聖女様は如何なるパートナーにも祝福を授けます。どうぞこちらへ。」
司祭様に促されるがまま、私は、女神像の前に立たされた。
**************
※ カンとファーマスの黒歴史は、
「38.反省会と新事実」
「39.不本意なセクハラ返し」
をご参照くださいw
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