転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人

299.1/3の夢旅人 其の十

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**************




子爵夫人お母さまから投げられた疑問。

目を閉じて、自分の中を探る。
魔力を巡らせても、自分以外のモノは、3人のモノだけで。それ以外は感じ取れなかった。

これにより、違いがはっきり分かってくる。

多分・・・だけど。



「・・・いぇ。感じ取れません。ですが、皆さまから見てどうでしょうか?この件に関しては、いまいち自分の感覚に自信が持てないので。」



そもそもが、身体のあちこちに青痣作っても気づかない、鈍感で大雑把な私に、些細に付いた魔力感知ができているのか。自信がなくなる。
ちらっと子爵夫人お母さまを見ると、軽く首を振って答えてくれた。



「いいえ、付いていないわ。ね?貴方。ダーヴィ。」

「うん、大丈夫。付いていないねぇ。」

「はい。問題ないかと。」



3人から、付いていないとお墨付きをもらい、こーくん達を振り返る。
彼らも、何処か安心したような表情で、此方を見ていた。

それで、漸く確証する。



「分かりました。私自身と彼ら3人の魔力の感じ方と、メイア様始め皆様の魔力の感じ方なんですが、香りの有無が決定打かと。」

「香り?」

「はい。私の魔力の感じ方は、物理的圧と言うよりは、肌感、質感みたいな感覚なんですけど。私に付いている3人の魔力には、それにプラスして、それぞれに香りが有るんです。」

「香り、ねぇ?」

「ね、リン。どんな風に匂うの?」



首を傾げる子爵夫人お母さまに被せるように、こーくんが聞いてくる。



「ん、とね。こーくんのはミントとシトラスみたいな爽やか系、カン君のは果物が何個も合わさったようなトロピカルジュースみたいな甘い系、ファーマスさんのは芳醇なエスプレッソにバニラみたいな大人系・・・かな?質感もそれぞれだし。」

「へぇ・・・自分の魔力をそんな風に感じたことはないから、不思議。で、父上達には匂いを感じないの?」

「うん。全く。質感のみかな?だから、繋がる相手にのみ、香りを感じるのかなぁって。」

「そっか。なら、大丈夫そうだねー。もし匂う人が現れたら、全力排除すれば良いんだから。」

「え?」



なんか、笑顔でおっかないこと言ってない?



「あ、コウさん大丈夫。とりあえず、今よりリンさんの放出ダダ漏れ魔力ば抑える魔道具出来そうなんで。極力変なの寄ってくるのは減らせるかと。」

「流石、『黒持ち』魔工技師。何でもアリだね。」

「完成にはちょっと時間もらいますけど、王都に着くまでには、出来上がります。」

「なら良し。」



ん、と、満足そうに頷くこーくん。
ちょっと待て。



「・・・これ以上、古代の遺物アーティファクトの大安売りはせんでいいっちゅーのに。」

「大丈夫。リンさん専用だから。」

「そうだね。盗んだ所で、持ち主固定なら使えないか。」

「何とか、盗まれたら消滅する術式組めんかなと思ってるんですけどね?」

「それより、手元に戻る方が、イメージしやすくない?」

「あー、場所転移ですか?そういや、やったことないなぁ?できるのかなぁ?」

「アンタ達、どんなトンデモ会話してるのよ。」



子爵夫人お母さまが呆れたように呟いた。
見ると、子爵お父さまもダーヴィさんも頷いてる。
ファーマスさんは若干呆れ顔。



「それはそうと、リンさんが私たちに魔力譲渡は試さなくて良いのかな?」

「あ。」

「「え゛?」」

「ん?」



子爵お父さまの問いかけに、あー、逆検証も必要かなぁ?
と思ったら、カン君とファーマスさんが、すんごい顔した。

え?どしたの?



「あー・・・それは、やんなくてもいーんじゃないっスかねぇ・・・」

「あぁ・・・どーしてもってんなら止めないが。」



苦虫を噛み潰したような歯切れの悪さで、2人とも顰めっ面をする。
首を傾げていると、溜息をつきながら、ファーマスさんが口を開いた。



「リンの[生活魔法]は、ある意味武器だぞ?実際に、お前はそれを使って、破落戸供を仕留めたんだろうが。それに・・・あの破落戸供に魔力が付いてる訳じゃねぇだろ?・・・だから、なぁ、それで分かってんだから、やる必要は無くないか?」

「そっか・・・」



・・・ん、まぁ。確かにそうか。


言われれば、そんなような気もする。
顰めっ面のまま、ファーマスさんが告げた言葉になんとなく同意。

ふむ、と腕を組んだ私の横で、子爵夫人お母さまが、首を傾げた。



「あら。 だって、破落戸は犯罪者なのよね?そこに、リンさんの正の感情は働かないのだから、付かなくて当然では無くて?」

「そう言われれば、そうだよね。」



その言葉に、それもそうかと頷くこーくんに、再度固まるファーマスさんとカン君。

ある種両極端な反応に、チェスター子爵夫妻お父さま・お母さまは、怪訝そうな表情を浮かべた。

私も、検証は必要かと思ったけど。
そんな拒否的な2人の様子を見て、ちょっと不安になる。



「あー・・・やっといた方がいいって言うなら、止めませんが・・・」



すんごい歯切れの悪いカン君。
それに続くファーマスさんは、まるで強い魔獣を相手にするような真剣な顔をして、私に近寄り、肩を掴んで諭してきた。



「リン、お前・・・魔力量は極力抑えろよ?」

「・・・分かりました?」

「ファーマス様?魔力量抑えてしまっては、検証にならないのではなくて?」

 

首を傾げた子爵夫人お母さまをギロと睨み、ファーマスさんが告げる。



「朝飯中に説明しただろ。コイツの[生活魔法]はヤバイって。魔力量を抑えた状態のコイツの[生活魔法]を喰らって大丈夫なら、魔力量を増やしてみたらいい。俺が提案するのはそれまでだ。それでもなお、最初から普通にすると言うなら止めんが・・・どうなっても知らんぞ?」



子爵夫人お母さまを睨んだまま、突き放すような口調のファーマスさん。
私が目にしてきた2人の関係性からは、想像できないくらいの厳しい顔だ。

う、とたじろぐ子爵夫人お母さま
背後からそれを支えたチェスター子爵お父さまが、穏やかな表情のまま、ファーマスさんを見据えた。




「貴方がどういった点を心配しているのか・・・分かるような気もしますが。それでも、検証は必要かと。言われる通り、威力は抑えめでお願いしますね?」



チェスター子爵お父さまは、それ以上引かない、といった様子で、ファーマスさんとわたしを見つめる。



「わかりました。では、威力は弱めでやってみます・・・メイア様だけですか?」

「私にもお願いできるかな?危険性というなら、メイアだけに任せ切るわけにもいかないかな?いっぺんにかけてもらおうか。」

「あー・・・知らねぇぞ?まぁ、今日は休日だし、執務が休みなんだったんなら良いかぁ・・・」



ニコニコ、ふんわりと押しの強い チェスター子爵お父さまに、ファーマスさんは苦笑いを浮かべ、場を明け渡す。



「え?父上まで・・・そう言われれば、僕もリンの[生活魔法]貰ったことない。一緒に、ダメ?」

「ダメだ。」「ダメっス。」

「なんで?」

「見てりゃわかる。お前は旅にでてからにしろ。」


近寄ろうとしたこーくんの首根っこを掴んで、離れていくファーマスさん。
カン君も部屋の隅へと離れていく。

あー、うん。
そーかぁ。その心配かぁ。

2人の過剰なまでの心配に、オチが見えた気がしたよ。



「じゃ、やってみましょう?」


子爵夫人お母さまの促しに、私は軽く息を吐いてから、チェスター子爵夫妻お父さま・お母さまが差し出した手に軽く触れ、なるべく弱く魔力を吐き出すように言葉を紡ぐ。


「【 乾燥ドライ 】」


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