転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人

290.1/3の夢旅人 其の一

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「せ~かいじゅうをぼ~くらの~、なみ~だで埋め尽くして・・・♪」

「懐かしい、その歌。」


 
ごとごとと、荷馬車に揺られる昼下がり。
警戒する魔獣の影もなく、ゆったりとした時間の流れ。
日向ぼっこしているみたいで、ほわほわと幸せな気分になる。

不意に歌が浮かび、ぽつりぽつりと口から旋律がこぼれ落ちた。
隣に座っていたこーくんが、くすりと笑いながら私の肩に寄りかかってくる。
2人きりの荷馬車。



「懐かしぃなぁ・・・鈴の歌声。ね、もっと歌って?」

「ん・・・何がいい?」

「何でもいい・・・鈴の好きな歌がいい。」



どちらともなく寄り添い、私はぽつりぽつりと歌を紡ぐ。

こーくんと一緒に武道館に行ったロック大御所の、愛の歌。
北の大地出身重鎮女性歌手の、時の歌。
世界的バーチャルアイドルさんの、桜の歌。
全国的に有名になっちゃった北の大地出身の面白俳優さんの、スープカレーの歌

思いついたものを次々と紡ぐ。

小さな集落を横目に見ながら、小麦畑が広がる風景で紡いだのは、北の大地真ん中辺出身有名男性歌手の、郷の歌。


ーーー 生きていくんだ、それでいいんだ・・・


これは、こーくんが好きだった歌。

不意に座面についていた手を、ぎゅ、と上から握られる。
うっすらと涙目になっていたこーくんと一緒に、『愛は何処にも行かない』と、2人で音を紡いだ。




*****




色々な事が片付き、漸くそろそろ気ままな旅に出ようか、とした矢先、王都ギルドから劣竜種レッサードラゴンの討伐について確認したいと連絡があった。

つまりは『出向け』ということ。
問答無用でゴールが決まってしまった。
1か月後くらいには、着いてなきゃならないらしい。

王都では、多分いろんな思惑が絡むだろうと、ロイドさんからも、師匠からも言われた。
王都ギルドだけではなく。王宮からも呼び出される可能性が高い、と。

また、こーくんがパーティーを組んで、ミッドランド支部付きとなった事が、王都ギルド側では面白くない事態らしい。



「冒険者の所属は、別にどこでも構わんのだがなぁ・・・本人の思い入れで問題ないしなぁ。」



ロイドさんが溜息混じりに呟いた。
ともかく、王都に着いたら色々面倒くさいことは確からしい。

でもまぁ、どんなところが見てみたいのはあったから、結局は行く事にした。
・・・なるべくギリギリまで時間かけるけどね。



王都に向けての大まかなルートは3つ。
北側、真ん中、南側。
じゃんけんで決めるつもりが、こーくんが取り出したのはメモ用紙とサイコロ。
カン君とメモを覗き込むと・・・


【モースバーグ国横断・サイコロの旅】
1・4→北側ルート、道中魔獣倒しまくりツアー
2・5→中央ルート、道中魔獣はあんまりいないけど、人付き合いで神経すり減らすぞツアー
3・6→南側ルート、のんびり悠々だけど、たまに大当たりが出るかもねツアー


わあ、絶対真ん中は嫌。
・・・てか、何用意してんのさ。
『痛いし、寝れないんだよ~』って、壇ノ浦レポせんきゃならんやつ?

すると「やってみたかったんだよねぇ。」と、ニコニコとてもいい笑顔のこーくん。
「何が出るかな♪」って、それ、A級ライセンストップがやっちゃアウトだべさ。
ほぼ人が出払ったギルド出張所だったけど、職員さん達が何事?とビックリしてた。
ロイドさんと師匠も「気が触れたか?」と、ビックリしてたけど、次第に微笑ましいものを見るような顔をされた。

きっと、こーくんがこんなふざけた事するのなんて、見た事なかったんだろうな。

馬鹿笑いして、出た目は3。

のんびり南側ルートで、護衛依頼を探す。

あったのは、王都への道のり中間部位までの、中規模商隊の護衛依頼。
クラスB以上のパーティー2組が揃えば出発。
揃ったら募集を締め切り、その3日後に出発になる、というもの。
既に1組登録が成されており、ミッドランドからこちらに向かってきていた。

顔を合わせたのは、劣竜種レッサードラゴン討伐の際の事前探索で共闘した、クラスBパーティー『朧梟ハーズオウル』の皆さんだった。

リーダーの男性弓師、緑坊主頭のダイさん、
メンバーの女性格闘家・ロング銀ラメ茶髪なユウさんと女性斥候・盗賊の猫系獣人のベニさん。ベニさんのブラウンの髪の上からぴょこんと生える茶色い猫耳が、今日もとっても可愛い。

私達の顔を見るなり、すんごい恐縮された。
とりあえず挨拶して、知らない仲でもないし、親睦深めようってんで、下町の美味しい食堂にご飯を食べに行った。





夜の呑み屋的雰囲気のその食堂は、丁度奥の大テーブルが空いており、6人で腰掛ける。

適当に大皿料理を頼み。
みんなエールだけど、カン君だけはソフトドリンクで乾杯。

朧梟ハーズオウル』の皆さんは地道にミッドランド支部で頑張ってきた実力派。みなさん23歳。私達より肉体年齢は少し上だった。

ダイさんとユウさんが、幼馴染。2人とも、領地を持たない男爵家の令息、令嬢だったのだけど、長子では無いから、好きに生きて良しと言われ、だったら、と冒険者になる事にしたのだそう。
ベニさんは、別支部出身。そちらでパーティーを組んでいたのだけど、獣人であるが故、虐げられてきたそう。たまたま、護衛依頼で一緒になった2人が見るに見かねて、ベニさんを引き取った、と。



「その時の、ユウちゃんの啖呵がね、嬉しかったんだぁ。」

「やめてよ。そんな昔の事、ハズいし。」



どストレートに、感謝の言葉を告げられ、真っ赤になるユウさん。
ホントに、女子2人のイチャイチャが可愛いすぎてどうしよう。

ダイさんは、ウチの男子2人と魔獣談義。
弓師という後衛職を生かした指示や、攻撃方法など、こーくんやカン君に相談して、飲み会なのに真剣だ。
かと思いきや、男子中学生ノリの下ネタが飛び出してみたりと、仲良くやってた。

朧梟ハーズオウル』の皆さんは最初こそ緊張していたものの、打ち解けたらとても良い人達だった。
あの劣竜種レッサードラゴンの探索で呼ばれていたパーティーは、仕事ぶりも、人格的にも優れた面子だったみたい。
流石ロイドさん。人選が素晴らしい。

朧梟ハーズオウル』『影猿シャドウモンキー』『蒼穹の剣スカイブルー・ソード』この3つのクラスBパーティー達は、あの討伐後も連絡を取り合い、切磋琢磨しているのだそう。
時々、共闘討伐もしていると。レイドチームとして機能してるんだ。凄いや。



「みんな、『猟犬グレイハウンド』や『旅馬車トラベリン・バス』みたいに、自分達の強みを生かした戦い方をしたいと考えているんだ。長所が上手く噛み合えば、きっと今よりもっと力が出せるから。」



ダイさんがそんな事を言ってくれた。
ただ漠然と『ウチらみたいになりたい』じゃなくて、具体的に考えてくれているのが嬉しい。

・・・まぁ、私は、カン君の過保護支援にかこつけた、力技でしかないから、偉そうに言える立場じゃないけど。
それでも、それが私の強み、なのかな。

アルコールも程よく回り、みんなが良い気分になって。
ちょーしこいて、ベニさんにお耳を触らせて貰えないかとお願いしてみた。



「ちょっとだけ、だよ?」



照れ臭そうにオッケーしてくれたのが嬉しい。そして、そこまで気を許してくれたのも嬉しい。

茶色の耳にそっと触れると、とても上質な肌触りの良いタオル地のような感触。
やっばい。
思ってた以上に気持ちの良い触り心地。



「やばっ・・・んんーっ、リンちゃんっ。それ、いじょぉはダメぇ。」



ベニさんが色っぽい声で、静止してきた。見るとちょっと涙目。



「あわっ?ごめんなさいっ!ヤだった?」

「ん?うぅん?ちょっと、・・・魔力が気持ち良すぎて・・・別の扉開くかとおもったぁ。」

「おぃおぃ。マジか。恐るべし『黒持ち』。」



ふるふると首を振るベニさんは、ユウさんにしがみつく。
ありゃ、苦笑いのユウさんに、よしよしされてしまった。
うーん、泣く程ヤなら、もう触らせて貰えないなぁ・・・あぁ残念。

でも、何だかんだで仲良くなった私達は、その後も盛り上がり。
夜もとっぷりふけたので、気持ちよく会をお開きにした。



「リン、楽しかった?」

「うん、すっごく。ユウさんとベニさんが仲良くしてくれたのは嬉しい!」



店の前で3人と笑顔で別れた私は、3日後の出発が楽しみになっていた。
そして、そんなウキウキしている私の頭を、こーくんがポンポンと撫でる。



「そか、良かったね。」

「ん!」


そうして私達は、軽い足取りで、チェスター家のお邸へと帰っていった。




*******************

※ 歌詞ですが、樋口了一さん「1/6の夢旅人」、玉置浩二さん「田園」です。
※ その他の歌や歌手については、分かったらご一報下さいw景品は・・・
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