転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人

289.クラスAが集まってみた 其の九

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私達の話がひと段落した所で、カイリさんは、また頭を下げた。
すると、片眉をぴくりと上げ、ロイドさんが問いかける。



「しかし、まぁ。お前さんの思惑は何だったんだ?」

「思惑、というか・・・喝を、入れてもらいたかった、と言えばいいのでしょうか。」

「喝、ですか?」



思わぬ言葉に、首を傾げる。



「えぇ。俺らが今の地位に甘んじてしまっている、と言えばそれまでなのですが・・・」


そう言って、カイリさんはとつとつと話し始めた。

曰く、
ヴォルフさんとカイリさんは幼馴染で、協力し、切磋琢磨してA級ライセンスを取得。
やはり、その頃から寄生目当てのパーティー申請は多く。
たまたま共闘した際に知り合った中から、他の3人のメンバーを精査して仲間になったのだそう。仲間として育てながら、上を目指すために。

しかし、そうこうしているうちに、条件付きとは言えA級B級となった、例の魔術師と治療師の2人がデカイ顔をし始め。
ヴォルフさん自身も、数多の女性冒険者や下位貴族の令嬢達に言い寄られ、勘違いが入ってきていた、と。
パーティーランキングも、クリコフ支部ではトップ、ギルド全体でも、クラスAで5位と、満足してしまっている雰囲気で。
カイリさんや、弓師のフォルさんが、自分を律したり、依頼に真摯に向き合うことを諭したりするも、突っぱねられてしまう。

やがて、目に余ったのだろう。クリコフ支部のギルマスであるニコラスさんが、依頼の受け方や私生活に苦言を呈してくれたが、彼らは聞く耳を持たない状態。

カイリさんは、ニコラスさんの苦言に思う所があり、理解者として、 自分の立ち位置や、パーティーの事を相談していたのだそう。
その中で、彼らよりも上級の冒険者や、別支部ギルドのギルドマスターに、一言言ってもらう事も検討していたのだと。



「昨晩、リンさんやカンさんから、コウさんがパーティーを組んだ事、『英雄』ファーマス氏がA級ライセンスに戻った事、劣竜種レッサードラゴンを倒してしまった事を聞いて、もしかしたら鼻っ柱を叩き折って貰えるかもと、期待しました。早速ニコラス・ギルマスに連絡を、と思っていた矢先、あのように、ヴォルフが暴走して、勝手な約束を取り付けてしまった次第で・・・」



そこまで一気に話したカイリさんは、はぁ、と大きく息を吐く。



「事前にこちらの事情を説明できれば良かったのですが、このような事態になってしまい・・・こちらとしては、願っても無い状態でしたが、皆さんには、ただただ不快な思いをさせてしまいました。お手数をおかけして、申し訳ありませんでした。」



そう言って、カイリさんはまた深々とお辞儀をする。
ふ、と、隣にいる師匠の威圧が和らいだ。



「全く、尻拭いか。お前自身は、このパーティーを離れようとは思わなかったのか?」

「・・・ヴォルフは、俺にとって、兄弟のような奴であり、無二の親友です。バトルスタイルもアイツのやり方に合うようにやってきましたから。俺からは離れる気は無いですよ。」

「でも、さっき・・・」

「あぁ、交換トレードですか。どうせあんな穴だらけの提案、皆さんにぶった切られるだろうと思ったから、乗ったまでです。後で、ネタばらしはします。・・・自分ルールが適応できるのは、自支部内と自パーティー内だけだと、漸く身に染みたんじゃないでしょうか。」



ふぅ、と、遠い目をするカイリさん。
なんかみんな、毒気を抜かれてしまった。
思うところはあれど、見捨てず、何とか舵取りしようと頑張ってたんだなぁ、と、微笑ましく思ってしまった。

うん、チョロいな、私。
でもなぁ、頑張ってる子は認めてあげたいな。



「それは・・・お疲れ様でしたね。」

「いえ、俺の事はどうでも。好きでアイツらと居るので。でもこれで、今後のパーティーのあり方を、ちゃんと話せます。ありがとうございました。」

「ん、そうか。だから、ニコラスから速攻で分かったような返信がきたんだな・・・わかった。事の次第と、結果については、俺からニコラスの方に伝えておく。ペナルティは、そっちで決めてもらうさ。決まった事には従ってくれ。お前らもそれで良いか?慰謝料とかの私的制裁追加もできるが。」



ロイドさんの台詞に、じ、とみんなが私の方を見る。



「いえ、特には要りません。私が『旅馬車トラベリン・バス』を離れる気がない事を分かってくれればそれで。」



私の発言に、一斉に溜息が漏れた。



「言うと思ったけど・・・ホント、善人すぎ。」

「ちったぁ、何かを払わせるとかでもいーんだぞ?」

「え?ギルド側で罰則決めてくれるんなら、それでいいよ。私は、個人的に繋がり持ちたくないから。」

「あ、そーゆー意味で要らないって事ね?」

「ん。下手に支払期限伸ばされて、変に繋がり持たれてもヤだから。あくまでも今後の付き合いは、仕事ビジネス上のみ。旅してる最中に劣竜種レッサードラゴンみたいなのに遭遇して、共闘する可能性も無くはないんでしょ?討伐できなきゃ、そこに住む人達の安全が脅かされるから、倒す確率は上げたいし。だから、仕事の時はヨロシク。プライベートはノータッチで、でいいよ。」



そう答えると、みんなが一斉に笑う。
カン君が笑いながら、カイリさんに話しかけた。



「わぁ、リンさんが一番容赦なかった。ね、カイリさん・・・ちゃんと彼に意図を伝えて下さいね?リンさんからの追加の私的制裁が無いのは、『温情とか優しさ』からでは無く、『仕事以外で、お前なんかと付き合う気が全くないから』だって。アイツ絶対勘違いしそうっスもん。」

「はい。ヴォルフにも、ニコラス・ギルマスにも、しっかり伝えます。変な気を起こしたら、今度こそぶん殴って止めますんで。」



握り拳を作りながら、カイリさんも笑顔で答えてくれた。



「それじゃあ、俺はこれで失礼します。ホントに申し訳ありませんでした。」

「あ、ちょっと待って。」

「どしたの、リン?」



こーくんの問いを無視して、私はおもむろに、空間収納から小袋を取り出す。
中に入っているのは、体力小回復効果のある、カ●リーメイトの様な形状の携帯食だ。チーズ味とチョコ味の様な感じ

ミッドランド支部商業ギルドのレインさん達の力作。漸く形になって、領都ファルクスに来る前に渡された物だった。
売り出した途端、話題になっているみたい。

席を立ち、こーくんの腕の囲いを解くと、会議室から出ようとしていたカイリさんに近寄り、小袋を差し出した。



「彼らのお守りをしながら、斥候役もって、お疲れ様です。これは、最近売り出された、ミッドランドの特産品。小回復携帯食です。少しで申し訳ないですけど、上手く使って下さい。」

「そんな大事なもの頂けませんっ!」



眉尻が下がり、アワアワと首を振るカイリさん。
真面目君だなぁ、と、思わず微笑んでしまう。
・・・寧ろこれ食べて、しっかり防波堤になってもらわんと。
そんな下心は隠して、私は自分の唇に人差し指を当て、悪い顔をカイリさんに向けた。



「これですね。商業ギルド・ミッドランド支部で、安価で売り出し始めたトコなんです。広めて頂ければ、売り上げ上がるかなーって下心なんで、もらって下さい。」

「それは・・・ありがとう、ございます。大事に頂きます。」

「えぇ、食べてみて良かったら、今度は買って下さいね?」

「はい。そうさせてもらいます。では、失礼します。」



カイリさんは、申し訳なさそうにおずおずと手を差し出して受け取ってくれる。
そんな申し訳なさそうにされると、逆に罪悪感。ただの賄賂だしねぇ?

そして彼は、また深々と頭を下げて、会議室を出て行った。
それを見送り、振り返ると、男達4人が呆れ顔でこちらを見ている。



「ホント・・・コイツは。」

「・・・この、天然人誑し。」

「無自覚誑しは、手に負えなくて困りますね。」

「・・・え?何??新商品売り込んじゃダメだった?」

「「「そーじゃねぇし。」」」



一斉に溜息を吐かれた。

何で?特産品紹介しただけなのに。

・・・解せぬ。






*****************

※ 主人公はまっっっったく気づいていませんが、男性陣は、カイリの顔が少し赤らんだのを見逃してはいません。
※ 自分の苦労が理解されて、認められて、しかも優しくされたら、そりゃぁ、ねぇ?www
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